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第四十二話「姫との再開」

 レッドストーンを出ると、ギルドの前には馬車に乗った兵士が待機していた。俺達を迎えに来てくれたのだろう。俺はフローラとレーネさんと共に馬車に乗り込むと、ダリウスとロビンが俺の膝の上に座った。やはりダリウスもロビンも俺の変化に気がついているのか、何度も俺の体を触って微笑んでいる。


 体の大きいヴォルフは馬車に乗れないので、馬車の後ろからゆっくりと付いて来ている。今日のフローラの誕生日を祝う宴にはフローラと親しい人間しか招待されていない。参加者は俺とフローラ、陛下、レーネさん、ヘンリエッテさん、エレオノーレさん。それからダリウスとロビン、ヴォルフとタウロス。そして城に滞在しているファルケンハイン王国の第一王女、クリステル・フォン・ファルケンハイン姫殿下も参加する。


 フローラの十八歳の誕生日を祝う宴の席で、俺はクリステルと共にレッドドラゴンの発見を報告し、彼女のために用意した髪留めと賢者の杖を贈るつもりだ。愛しの姫のために髪留めを買った事が遥かの昔の事の様に思えるが、現実の世界では六時間しか経過していない。


 師匠との時間を思い出すと無性に寂しくなるが、師匠が遺した言葉の通り、俺とフローラでこの世界を守り続ける。ファルケンハインの地下に巣食うレッドドラゴンを討伐し、レッドスドーンを手に入れる。それからフローラに自分の目でこの世界を見て貰う。彼女の目が見える様になった時、俺の愛を伝えよう。


 フローラに結婚を申し込むのだ。きっと彼女なら首を縦に振ってくれるだろう。それからアイゼンシュタインに家を建て、冒険者ギルドを拡大する。この町で最高の冒険者ギルドを作り、いつの日か生まれて来る子供と共に、冒険者として王国で生きる。それが俺の夢だ。


 馬車がゆっくりと町を走ると、普段なら自分の足で歩き、自分の力で守っている町が随分小さく、そして懐かしく見えた。六ヶ月前の自分よりも遥かに強い力を身に付けたからだろうか。以前は自分の力で町を守らなければならないと必死になっていたが、今ではどんな魔物の大群が町に押し寄せようが、ファイアの魔法一発で蹴散らせる自信がある。


 自分自身が成長したからか、守らなければならない町が小さく感じる。師匠と過ごした時間は俺を肉体的にも精神的にも大きく成長させてくれたのだ。フローラは俺の手を握りながら柔和な笑みを浮かべている。ずっと会いたかったフローラとやっと再会出来たのだ。これからは離れずに彼女と生きてゆこう。


 思えば今年の四月に魔王城を出てアイゼンシュタインに来てから、俺は大半の時間をフローラと共に過ごしてきた。だからか、賢者の試練を受けている間は、フローラが居ない生活が堪らなく寂しかった。やはり俺はフローラを心の底から愛しているのだな……。


「どうしたの? ラインハルト。何だか私の事を見ている気がするの」

「色々あってね。今はフローラを見つめていたい気分なんだ」

「そう……私もいつか自分の目でラインハルトを見てみたい……どんな顔をしているのだろう。気になって仕方がないわ」

「想像よりも不細工だったら謝るよ」

「私はラインハルトの事を顔で選んだ訳ではないから。そもそも、相手の顔も見えないのだから。私はラインハルトの心で選んだのよ」

「まぁ、ラインハルト様は本当に愛されているんですね。私も早く恋人を作りたいです」

「ありがとう、フローラ。レーネさん、明日にでもドール衛兵長に話をしておきますね」

「それは楽しみですわ!」


 レーネさんは満面の笑みを浮かべて俺を見た。俺はフローラにドール衛兵長をレーネさんに紹介するつもりだと言うと、彼女はレーネさんの手を握った。


「きっとレーネさんなら上手くいきますよ!」

「ありがとう、フローラ。ラインハルト様が紹介してくれる人なのだから、きっと素敵な方なのでしょう! エレオノーレが紹介してくれた人はライカンみたいでひどかったけど……」

「実は、ドール衛兵長は私も知り合いなんです。城で何度かお話をした事があります。ラインハルト、せっかくですから今日の宴にドール衛兵長を招待するのはどうかしら」

「それは良い考えだね。俺が話を付けてくるよ」


 俺はそう言うと、ダリウスとロビンをフローラに任せ、後方を歩いているヴォルフに飛び乗った。フローラ達と別れて正門に向かうと、既に仕事を終えたドール衛兵長が剣の稽古をしていた。


「ごきげんよう! 騎士様。丁度剣の稽古を始めたところでした。良かったら手合わせ願えますかな?」

「それは勿論良いのですが。実は……」


 と言って俺は彼を宴に招待した。彼は陛下と共に食事が出来る事に歓喜し、レーネさんの事を話すと、彼は俺の肩をガッチリと掴み、満面の笑みを浮かべた。


「ラインハルト様。その様な素敵な女性を私に紹介して下さるとは……すぐに城に向かいましょう!」

「はい! 急ぎますのでヴォルフの背中に乗って下さい」


 ドール衛兵長は長く伸ばした金色の髪を何度も梳かし、衛兵の詰所で洗濯したばかりの制服に着替えた。背は俺よりも高く、背筋は伸びており、綺麗に磨かれた革靴が彼の几帳面な性格を表している。突然宴に招待したにも拘らず、二つ返事で了承してくれるノリの良さと、ヴォルフの背中に乗るにも、何度もヴォルフに頭を下げる丁寧な性格。きっと彼がレーネさんの求めている理想の恋人に違いない直感した。


 ドール衛兵長と共にヴォルフの背中に乗り、彼は城に向かう最中に美しい花束と、陛下が好んで飲むシュルスクの果実酒を購入した。花束はなぜか二つあり、一つはフローラのための物。もう一つはレーネさんに贈るための物なのだとか。


 ドール衛兵長と俺が城に到着すると、フローラ達は既に城に入っていた。参加者が集まるまで、暫く宴が開かれる大広間で待機している様だ。陛下は宝石を散りばめた王冠を被っており、フローラを抱きしめて何度も接吻をしている。


 俺達に続いてヘンリエッテさんとエレオノーレさんが到着すると、俺は広間でタウロスを召喚した。これで宴の参加者が揃ったという訳だ。広間には次々と豪華な料理が運び込まれ、長いテーブルには美しい銀の食器に乗った料理が置かれた。


 ドール衛兵長は陛下にシュルスクの果実酒を差し出すと、陛下は衛兵長の肩に手を置き、日頃の仕事ぶりを評価した。ドール衛兵長は陛下が直々に衛兵長に任命した人物だ。先任のビスマルク衛兵長が市民を殺める大罪を犯したからか、陛下は衛兵長を志願する者達と面会をし、自ら新任の衛兵長を任命したのだ。


 そんなドール衛兵長と陛下のやり取りを、レーネさんは嬉しそうに見つめている。どうやら第一印象は悪くないみたいだ。俺は盲目のフローラのために、レーネさんの表情や、ドール衛兵長の緊張した態度を細かく説明して聞かせると、彼女は楽しそうに微笑んだ。


「上手くいくと良いわね。レーネさん」

「ああ。きっと上手くいく筈だよ。レーネさんはドール衛兵長を穴が空くほど見つめているからね」

「私も見てみたいわ。いつかこの目が見える様になったら……」

「きっと近い将来、全てを自分の目で見られる様になる筈だよ」

「本当? そうだど良いけれど。だけど、目が見えなくても私は幸せよ。冒険者にもなれたし、ラインハルトとも出会えたのだから」

「ありがとう。俺がフローラを幸せにするよ」


 フローラは俺の手を優しく握ると、彼女の神聖な魔力が俺の体に流れた。師匠と近い魔力を感じるな。賢者の素質を持つ王女か……。師匠にもフローラを紹介したかったな。師匠ならきっとフローラを気に入ってくれただろう。


 師匠とはもう二度と会えないが、彼女が鍛えてくれたこの肉体、この体に流れる魔力は、師匠が俺に遺してくれた宝物だ。師匠はこの世界には存在しないが、俺の体に、精神に、かつての偉大な賢者の魂が宿っているのだ。


 可愛らしく俺を見上げ、寂しさを紛らわせるために何度も頬ずりをしていた師匠の姿が脳裏に浮かんだ。ケットシー族と出会えたなら、師匠から受けた恩を返そう。それが俺と師匠の約束だ。


 それからドール衛兵長はフローラに花束を渡すと、彼は花の種類や産地をフローラに説明してみせた。フローラは花の匂いを嗅ぎながら、楽しそうにドール衛兵長の話を聞いている。そしてドール衛兵長はレーネさんに花束を渡すと、レーネさんは恥ずかしそうに俯いて花束を受け取った。


 ヘンリエッテさんとエレオノーレさんが俺に近づいて来ると、二人は俺を見て愕然とした表情を浮かべた。賢者の試練を受けて成長した俺の肉体、爆発的に成長した魔力を感じたのだろう。そろそろこの反応にも慣れてきたな。これからすぐに種明かししますと言うと、彼女達は楽しそうに笑みを浮かべた。


 宴の参加者が贈り物を渡し終えると、ついに俺の番が回ってきた。陛下は皆に注目するようにと言うと、視線が一斉に俺に注がれた。会場の隅で居心地悪そうに俺を見つめるクリステル第一王女の手を取り、まずは彼女の事を皆に紹介した。クリステルを紹介すると、俺はついにレッドドラゴンの発見について報告をする事にした……。

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