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第三十三話「最愛の姫」

 ギルドに戻るとダリウスが出迎えてくれた。ダリウスは既にファルケンハインの第一位王女が誘拐された件について、仲間に説明をしてくれたらしい。ヘンリエッテさんはお酒を飲みすぎたのか、ロビンを抱きながらソファで寝息を立てている。


「おかえり、ラインハルト」

「ただいま、フローラ。まだ寝ていなかったんだね」

「ええ。ラインハルトを待っていたの……ファルケンハインの第一王女は無事なの?」

「勿論。陛下に今回の事件を伝えて、暫く城に滞在して貰う事にしたよ。クリステル姫殿下がアイゼンシュタインに滞在している間は、俺が警護を務める事にした。といっても、彼女が城の外に出ている間だけだけど」

「ラインハルトが警護するなら安心ね。それより、明日の誕生日パーティーはラインハルトも出席してくれるのでしょう?」

「勿論だよ。城で開かれるんだよね」

「そうよ。明日の夕方、一緒に城へ行きましょう」


 フローラは俺のために作ってくれた料理を皿に盛ると、ダリウスは冷めた料理を火の魔法で温めてくれた。どうやらブラックライカンの肉を使ったスープのようだ。スープを頂きながらパンを食べる。最近は筋肉を増やすために、食事の量を増やしているから、フローラが毎日大量の料理を作ってくれる。


 タウロスと共に森で訓練をし、体を鍛えてるからか、俺の体は爆発的に成長し、魔王城を出た時よりも遥かに筋肉が増えた。父である魔王、ヴォルフガングも屈強な肉体をしていたが、やはりタウロスには敵わない。幻獣のミノタウロスと共に体を鍛える事が出来る事に感動しながらも、俺はタウロスが決めた厳しい訓練を毎日行っている。


 毎日の激しい訓練で体中の筋肉を傷つけ、大量の栄養を摂取する事によって、傷ついた筋肉を回復させる。筋肉の使用と回復、栄養の摂取を繰り返す事によって、筋肉を増やす事が出来る。タウロスは自分が使用している巨大なヘヴィアックスを俺に持たせ、何度も素振りをさせる。持ち上げるだけでも全身の筋肉を総動員させなければならない程の斧は俺には大きすぎるが、これが筋肉を増やすためには最高の運動になる。


 ブラッドソードの暗殺者と剣を交えた日から、俺は仲間を守るために更に強くなると決意し、地獄の様な訓練を繰り返している。タウロスのヘヴィアクスで何時間も素振りをしたり、辺境の村を訪れて、木こりの仕事を手伝ったりもする。勿論、軽い魔剣を使う事はなく、タウロスのヘヴィアクスを使って木を伐る。地域のためにもなり、俺自身の筋力も増やす事が出来る、一石二鳥の訓練だ。


「ラインハルト。ファルケンハインの第一王女はどんな人だった?」

「そうだね……最初は高圧的だったけど、打ち解けてみると素直で話しやすい人だったよ。歳は十七歳で、身長はフローラと同じくらいかな」

「そう。綺麗な人なの?」

「まぁ、素敵な人だとは思うよ。どうしてそんな事を聞くんだい?」

「だって……私はギルドでラインハルトを待っていたのに、ラインハルトは今まで彼女と一緒に居たのでしょう……? もう少し私と居る時間を増やして欲しいな……」

「今日は事情があってクリステル王女と一緒に居たんだよ」

「それは分かってるけど。私のラインハルトなんだから……」


 レッドドラゴンの居場所を掴んだという事は、フローラの誕生日を祝う場で話した方が良いだろう。きっとその方が良い記念になる筈だ。本当は今すぐにでもレッドドラゴンの居場所を掴んだとフローラに教えたいのだが、話したい気持ちをなんとか堪える事にした。


 明日はフローラの十八歳の誕生日だ。美しい髪留めと魔法の杖、それからフローラの目を治すための手がかりを掴んだ事を、彼女への誕生日祝いとして贈ろう。魔法の杖は明日の朝に買いに行くつもりだ。聖属性か雷属性の杖が良いだろう。杖の事は魔術師ギルド・ユグドラシルのレーネ・フリートさんに相談しようか。彼女はいつでも俺の相談に乗ってくれる。最近はユグドラシルとムーンライト、レッドストーンが定期的に宴を開いて交流をするようにしている。


 商人ギルド・ムーンライトの行商人は、行商の護衛をユグドラシルに依頼する事もあり、ギルド同士での交流があるからか、ムーンライトの商人はユグドラシルの魔術師とも非常に仲が良い。顔見知りの魔術師に行商の護衛を頼めると、商人達はユグドラシルとの交流を喜んでおり、ユグドラシルの魔術師は、旅をしながらお楽にお金を稼げると、ムーンライトからの依頼を積極的に受けている。


 冒険者ギルド・レッドストーンは、ユグドラシルが定期的に行う魔法訓練に協力する事がある。魔術師達は俺やタウロス、ヴォルフと模擬戦を行い、日々の訓練の成果を確認している。それからレッドストーンはムーンライトの若い商人達に護身術を教える事もある。冒険者ギルド、商人ギルド、魔術師ギルドが同盟の様な、良好な関係を保っており、頻繁に交流して双方の活動をサポートしている。


「ラインハルト。ヘンリエッテさんを二階に運んでくれる?」

「分かったよ」


 俺はロビンをダリウスに任せ、ヘンリエッテさんを抱き上げると、彼女は寝ぼけて俺を強く抱きしめた。そんな様子をフローラは盲目だから見る事は出来ないが、まるで今の状況が見えているかの様に、頬を膨らませて俺を見つめた。


 ヘンリエッテさんを抱きかかえて階段を上がり、二階の客室に寝かせると、俺は魔装を脱いで魔剣を置いた。二階には広い居間があり、ここにはエレオノーレさんやフリートさんを招いてお酒を飲む事もある。居間には深紫色のソファと、美しい装飾が施された木製のテーブルが置かれており、部屋の隅には大量の葡萄酒のボトルが置かれている。ヘンリエッテさんがフローラの家に来る度に、手土産として持ってくる物が大量に余っているのだ。


 目の見えないフローラが暮らす場所だから、歩行の邪魔になる様な物はなく、家具も必要最低限の物しか置いていない。ダリウスはロビンを連れて一足先に俺達三人が使っている部屋に戻ると、俺はフローラと共にソファに腰を掛けた。二人掛けのソファに座ると、フローラの体が俺の肩に触れ、彼女が愛用している香水の匂いがした。


 まるで陶器の様な美しい肌に、長く伸びた銀色のまつ毛。彼女の横顔を見ているだけで胸が高鳴る。彼女の柔らかい手を握ると、フローラは優しく微笑んで俺を見上げた。俺は彼女の頬に手を添え、唇に唇を重ねた。俺達はお互いの愛を確認する様に、熱い抱擁を交わしながら、何度も口づけをした。


 彼女の豊かな胸が俺の体に当たり、俺はフローラの腰を抱き寄せ、彼女の美しい髪を撫でた。部屋の隅で静かに輝く魔法石が、フローラの艶のある髪を照らし、彼女の銀髪を幻想的な色合いに変えた。長く伸びた銀色の髪が、魔法石が放つ光を受けて輝いている。まるでこの世のものとは思えない彼女の美貌に見とれ、何度も口づけを交わした。


 俺はフローラを抱き上げて彼女の寝室に入ると、彼女は深緑色のローブを脱いだ。白く形の整った美しい胸が顕になり、俺の心臓は激しく鼓動を始めた。彼女の体をゆっくりと愛撫し、彼女の体に雨の様な接吻を降らせた。フローラは俺の服を脱がせると、彼女も俺を体に接吻をし、俺達はお互いの愛を確認しながら、夜のひとときを過ごした。



 フローラの寝室で目を覚ますと、俺はフローラの頬に口づけをして部屋を出た。今日はフローラの誕生日だから、朝の訓練は行わず、魔法の杖を買いに行くとしよう。今は朝の七時頃だろうか、普段は四時に起きて訓練に向かうのだが、朝から余裕がある生活は良いな……。窓を開けてアイゼンシュタインの町を眺め、通りの反対側に居る市民に手を振る。


 紅茶を一杯飲んでから、ダリウスとロビンにフローラを頼むと伝え、魔装を身に付けてから魔剣を担いだ。魔装の左胸に陛下から頂いた白金の勲章を留める。魔装は冒険者として、騎士としての正装だと思っているので、今日は魔装のままフローラの誕生日を祝う会に参加しよう。


 ギルドを出て裏手にあるヴォルフの小屋に入ると、彼は既に目を覚ましていたのか、退屈そうに俺を見上げた。それからヴォルフに朝食を与え、彼の美しい毛にブラシを掛ける。体長が三メートル近いヴォルフにブラシを掛けるのは骨が折れるが、毎朝ブラシを掛け、今後の予定や、今の心境などを伝えると、彼は俺の言葉を理解し、時には俺を勇気づけてくれる。


 すっかり機嫌を良くしたヴォルフの背中に乗り、俺達は魔法の杖についてフリートさんに相談するために、魔術師ギルド・ユグドラシルに向かって歩き始めた……。

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