第二十四話「盲目の姫と騎士」
「ラインハルト・フォン・イェーガー。アイゼンシュタインの騎士、冒険者ギルド・レッドストーンの冒険者よ。私は貴殿と出会えた事を幸福に思う。これからも王国の防衛を任せたい。そして、一人の父としてフローラをこれからも愛して欲しいと願う……」
「お任せ下さい、国王陛下。私は魔王の息子として生を受けましたが、民を守る冒険者として生きてゆくと誓っております。これからも私はフローラと力を合わせ、アイゼンシュタインを守っていきます」
「頼もしい言葉だな。私は今日、ヘルガを失ったが、まるで新しい息子が出来た様な気分だ……」
陛下は俺の肩に手を置き、暫く休むと呟いて王の間を出た。ヘンリエッテさんは商人ギルド・ムーンライトの被害を確認しに行くのだとか。タウロスは暗殺者との戦いで力を使い過ぎたのか、俺はタウロスを魔石に中に戻し、今日は城の客室に泊まる事にした。
「城で眠るのも久しぶりだわ。ラインハルト。今日はゆっくり休んでね」
「ああ。ついにブラッドソードを壊滅させられたんだ。五ヶ月間の夜警も今日で終わりだ……」
「今まで本当にありがとう。ラインハルト、これからも私の事を守ってね……」
「当たり前じゃないか。俺はこれからもフローラと共に冒険者を続けるつもりだよ」
「ありがとう。大好きよ、ラインハルト……」
フローラは俺の頬に口づけをすると、俺の手を放し、自室に戻った。それから城の兵士に案内されて客室に入ると、俺は魔装を脱ぎ、魔剣を壁に立て掛けた。ついにブラッドソードを壊滅させたんだ。アイゼンシュタインに来てから五ヶ月間、ほぼ毎日夜警をしていたからか、夜に眠るのは久しぶりだ。無理な夜警と訓練を続けた体は鉛の様に重い。町に暗殺者が潜んでいると思うと、仮眠を取る時間すら恐ろしかった。
十七歳まで魔王城で父と二人で暮らしていた。他人と一切交流する事が無かった俺が、この町に来て、守りたい存在が出来た。あんなある日、俺はブラッドソードと出会ってしまった。やはり父の言葉は正しかった『敵は必ず戻ってくる』と。俺は父の言葉に従って睡眠時間を削り、死ぬ気で訓練を積んだ。俺はついに仲間を守る力を身に付けた。これも全て父、ヴォルフガングの教育と、魔王の加護があったお陰だ。これからも魔王の加護を使い、王国を守る騎士として、冒険者として生きてゆこう……。
金の装飾が施された豪華な家具が並ぶ部屋には、広い浴室があり、俺は眠り前に風呂に入る事にした。大きな大理石の風呂に入り、ゆっくりと全身の筋肉を揉む。体には無数の傷が出来ている。今日もまた新しい傷を増やしてしまった。
アイグナーの付近の洞窟で、ヴォルフを守るためにブラックウルフから全身を噛まれ、執拗に俺達を襲うレッサデーモンからフローラを守るために、何度も背中に槍を受けた。今日はエレオノーレさんを守るために体中に矢を受け、俺の正体を知り、激昂したエレオノーレさんからは何度も剣で刺された。魔王城を出た時は傷一つ無かった体が、たった六ヶ月でここまで傷だらけになってしまうとは。回復魔法は怪我を治す事は出来ても、傷を完璧に消す事は出来ない……。
どんな攻撃を受けても即死しなったのは、父の殺人的な剣を受けて育ったからだろうか。すっかり傷だらけになった肌を見つめ、ゆっくりと体を洗ってから部屋に戻った。仲間達が居ない部屋で眠るのは、アイゼンシュタインに来てから初めてだ。寂しさを感じながら大きなベッドに入った。
明日は陛下が今日の事件を市民に話す事になっている。それから俺は陛下から勲章を頂けるらしい。騎士の身分を証明する勲章と、フローラを救出し、暗殺者襲撃事件の被害を抑え、アンドレア王妃毒殺事件の真相を明かした事を賞する勲章なのだとか。フローラや仲間を守るために必死に生きてきた事が認められるのか。やはり、正しい努力は必ず報われるのだな……。
夜警をしている筈の時間にベッドの中に居るのは不思議な気分だ。暗殺者を追い詰め、敵が居なくなったからだろうか。これから何をすれば良いのか分からない……。暫く休むのも良いかもしれないな。フローラを連れて旅に出るのも良いだろう。これから俺の冒険者としての人生が本格的に始まるんだ。俺はまだこの世界の事を殆ど知らない、フローラと共に広い世界を旅し、人生を満喫するのも良いだろう。
それから、フローラの目を治すためにレッドストーンを入手しなければならない。幻獣のレッドドラゴンに関する情報を集め、フローラと共にレッドストーンを探す旅に出ようか。ついにブラッドソードの脅威から開放されたと思うと、俺はいつの間にか眠りに落ちた……。
部屋の中で何者かが動いた。僅かな音を感じ、心臓の鼓動が高まる。部屋に敵が侵入したのか? ベッドの横に立て掛けた魔剣に手を伸ばし、敵の動きを待つ。敵は徐々に距離を詰め、ついに俺のベッドの隣に立った。
毛布をめくり、ゆっくりと俺に近づいてくる。暗殺者がまだ生き残っていたのか? まさか、城の警備を突破して客室に入れる訳が無い。今日は城の警備は特に厳重だと聞いた。目を瞑ったまま、魔剣に魔力を込めて敵の出方を待つ。
敵は俺の頬に触れると、俺は敵の手を掴んだ。目を開けて敵を確認すると、そこにはネグリジェ姿のフローラが居た。
「ラインハルト……」
「フローラ! どうして俺の部屋に……」
「ラインハルトが居ないと眠れなくて。一緒に寝てもいい……?」
「構わないけど……」
フローラの匂いを感じ、フローラの手が俺の手に触れる。ネグリジェの胸の部分は大きく盛り上がっており、目のやり場に困る。彼女は俺の隣に横になると、俺の体を抱きしめた。体にはフローラの大きなな胸が当たり、彼女の体温と息遣いを感じる。ブラッドソードと剣を交えた時よりも遥かに緊張しているのは何故だろうか。
「ラインハルト。あなたと出会ってから、毎日が幸せよ。いつも私を守ってくれてありがとう。何も出来ない私を……役立たずな私を守ってくれてありがとう。それから、身分を偽ってしまってごめんなさい」
「こちらこそありがとう。いつも俺と一緒に居てくれて。戦う事しか知らない俺をギルドに入れてくれて。居場所があるから俺は頑張れた。それに、身分を偽っていたのは俺も同じだよ。フローラ、俺の事を魔王だと知った時、俺を庇ってくれてありがとう」
「当たり前じゃない。ラインハルトが魔王だったとしても、私はあなたのこれまでの功績を知っている。金銭を受け取らずに民を守り続ける冒険者。それがラインハルトよ。これからはアイゼンシュタインの騎士として、私の事を守って頂戴ね」
「勿論。俺が君の事を守るよ、フローラ」
フローラは俺の顔に手を触れると、白く細い指で俺の唇を撫でた。彼女は俺の体に覆いかぶさると、唇に唇を重ねた。俺は始めてフローラと会った時からフローラの事が好きだった。きっと彼女も俺と同じ気持ちの筈だ……。
お互いの愛を確認する様に何度も口づけをし、フローラの艶やかな髪を撫でる。豊かな胸が俺の胸板に触れると、俺は我慢出来ずにフローラの大きな胸を触れた。信じられない程柔らかく、手からこぼれるほどの大きな胸を何度も揉む。
彼女は顔を赤らめると、俺の首に手を回し、柔らかい唇を俺の唇に重ねた。自然と彼女の舌は俺の舌と絡み合い、俺はフローラの豊かな胸を揉みしだきながら、彼女の柔らかい舌の感覚を味わった。
「ラインハルト。私の事、ずっと守ってね……」
「ああ。俺がフローラを守るよ。ずっと前から好きだった……フローラ」
「私もラインハルトが好き……」
フローラは紫色のネグリジェを脱ぐと、俺は彼女のしなやかな体に接吻の雨を降らせた。雪の様に白く、艶のある肌を撫で、彼女の体を隅々まで味わう様に愛撫し、俺達はお互いの愛を確かめ合いながら体を重ねた……。




