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第二十二話「決戦」

 俺はフローラの前に立つと、ヘンリエッテさんは風の魔力を放出させて縄を切り、大広間を跳躍して俺の隣に立った。俺の正体を知っても、俺の事を受け入れてくれるのだろうか。


 第二王女はエレオノーレさんに剣を向けているが、エレオノーレさんは放心状態で大広間の出来事を眺めている。想像すら出来ない事が目の前で起こっているからだろう。仲間だと思っていた人物が魔王で、自分の妹がビスマルクと協力して第三王女のフローラを拉致した。きっと王妃様を毒殺した真犯人はビスマルクに違いないだろう。エレオノーレさんは俺達か第二王女、どちらに加勢すれば良いのか分からないといった様子だ。


「エレオノーレさん。俺は魔王の家系に生まれました。父から魔王の加護を受け、第七代魔王になりましたが。俺は人を殺めた事もありません。俺は一人の冒険者として暮らしたかった、ただそれだけなんです!」

「そんな……どうやって信じれば良いの……? あなたは大罪人の息子じゃない!」

「確かに、俺の父や過去の魔王達は、民を殺め、大陸を支配していた事もありました! しかし、俺は魔王として生きるつもりはありません! 俺はフローラと共に冒険者としてアイゼンシュタインを守りながら生きてゆきます!」


 エレオノーレさんは困惑しながらも、ロングソードを第二王女に向けた。


「ヘルガ……あなたは私の妹を拉致し、ビスマルクに手を貸してアイゼンシュタインを民を殺めた。あなたの様な人間が、国王になる資格はない!」


 エレオノーレさんがヘルガに斬りかかると、ビスマルクがエレオノーレさんの剣を受け止めた。エレオノーレさんは狂った様に剣で連撃を仕掛けるが、ビスマルクはいとも簡単にエレオノーレさんの剣を防いでいる。実力が違いすぎるな……。俺が守らなければ、エレオノーレさんを死なせてしまうだろう。せめてヴォルフが居ればエレオノーレさんを任せられたのだが。


「ヘンリエッテさん。フローラを頼みます」

「ええ。任せて頂戴。さっきは狼狽して悪かったわね……」

「いいえ、当然の反応ですよ。俺は暗殺者を仕留めます」

「気をつけてね……!」


 五人の暗殺者の内、二人がヘンリエッテさんに剣を向け、残る三人が俺に襲い掛かってきた。全ての力を出しきらなければ、確実に仲間を死なせてしまう。暗殺者はダガーで俺に切りかかってくるが、攻撃があまりにも軽い。やはり幼い頃から父、ヴォルフガングの剣を受けていたからだろう、暗殺者程度の剣では俺に傷一つ負わせる事は出来ない。


 魔剣で敵のダガーを弾き、左手で暗殺者の顔を殴りつける。地面に倒れた暗殺者に対して炎を飛ばし、全身を燃やす。第二王女は水属性の魔法が使用出来るのか、倒れた暗殺者に水を掛けて火を消すと、暗殺者は再び立ち上がってダガーを構えた。火属性の魔法はあまり効果が無さそうだな……。


 三人の暗殺者は交互にダガーの攻撃を仕掛けてくる。良く訓練されており、お互いが信頼しあって戦っているのだろう、反撃する隙きもない。敵のダガーを受けるだけで、この場から動く事も出来ない。すっかり敵のペースに嵌ってしまった……。


 フローラは這いつくばりながら、残る力を振り絞って雷放つと、巨大な爆発音が轟いた。フローラのサンダーの魔法がビスマルク衛兵長の盾を吹き飛ばしたのだ。瞬間、エレオノーレさんの剣がビスマルクの胸の貫いた。


 騒音を聞きつけたヴォルフが屋根を踏み潰して飛び降りてきた。体は血で濡れており、屋敷の外で暗殺者と戦っていたのだろう、背中からは血が流れている。ヴォルフはヘンリエッテさんを襲う暗殺者を睨みつけると、爆発的な咆哮を放ち、目にも留まらぬ速度で暗殺者の体を切り裂いた。


 残る暗殺者は四人。暗殺者に指示を与えていたビスマルクが死んだからだろうか、暗殺者達は恐れおののいて逃げ出そうとしたが、第二王女が怒鳴りつけて静止させた。


「何処に逃げようというの? 私のために命を賭けて戦いなさい!」

「俺達は必ず勝てると聞いたからビスマルクの作戦に協力したんだ! お前の様な小娘、最初から信じるつもりは無かったわ!」

「黙りなさい! アイゼンシュタインの王になる私に口答えすると許しませんよ!」


 第二王女は杖を振って巨大な水の球を作り上げると、四人の暗殺者に向けて球を飛ばした。三人の暗殺者は防御が間に合わず、水の球によって遥か彼方まで吹き飛ばされた。残る暗殺者は逆上して第二王女に対してダガーを振り上げた。俺はその隙きを見逃さなかった。第二王女はフローラやヘンリエッテさんを誘拐した犯人ではあるが、暗殺者に殺させる訳にはいかない。城に連行して、法律によって裁きを受けて貰う。


 俺は魔剣を頭上高く掲げ、体から魔力を振り絞って魔剣に注いだ。力の限り魔剣を振り下ろして魔力の刃を飛ばす。


『ソニックブロー!』


 魔法と唱えると、魔剣からは赤い魔力の刃が飛び出し、暗殺者の背中を切り裂いた。やはり魔力を失っているからだろうが、威力は低いが、暗殺者の戦意を削ぐ事は出来た。俺は急いで暗殺者の体を縄で縛り、ヒールポーションを飲ませて傷を癒やした。この者には城で今回の事件の真相を語って貰わなければならないからな。城には自供させるための秘薬があると聞いた事がある。すぐに今回の事件の全貌が明らかになるだろう。


 第二王女は観念したのか、杖を落として呆然とエレオノーレさんを見つめると、エレオノーレさんは思い切り第二王女の頬を殴りつけた。馬乗りになって何度も第二王女を殴り続けると、屋敷の扉が開いた。


「ラインハルト! 無事か?」

「タウロス?」

「ああ。急いで駆け付けてきたぞ。国王陛下と共にな」

「陛下?」


 タウロスの背後からは、白銀の鎧に身を包んだ男性が現れた。年齢は六十代程だろうか。長い白髪をポニーテールにし、腰には剣を差している。死体が散乱する大広間を見渡すと、瞬時に事態を察したのか、フローラの肩に手を置いた。


「フローラ。今まで苦労を掛けたな」

「お父様……」

「エレノーレ。ヘルガはもう気を失っておる。自分の妹を殴るのは止めなさい」

「しかし! ヘルガが裏でビスマルク衛兵長を操り、アイゼンシュタインの民を殺め、フローラを誘拐したのですよ!」

「分かっておる。ヘルガには以前から監視を付けていたからな。しかし、何の罪もない市民を殺し、自分の妹を誘拐するなどとは思わなかった……」


 国王陛下は柔和な笑みを浮かべて俺を見つめると、俺は魔剣を収めて跪いた。陛下は腰に差している剣を抜き、俺の肩に剣を置いた。まさか、俺はこの場で処刑されるのか? 俺は大罪人の息子として生まれた。しかし、俺は人生で一度も善良な人間を傷つけた事はない。


 魔王の加護を受けた俺が、今まで生きて来られた事が奇跡だったのだろうか……。俺は今日、国王陛下の手によって命を落とすのだろう。俺が死ぬ事で魔王の家系が消滅するのならそれも良いだろう……。


「何をしているのですか、お父様! ラインハルトは私を命懸けで守ってくれました! 今回の騒動も、ラインハルトが居なければお姉様もビスマルクによって殺されていました!」


 陛下はフローラに優しい笑みを浮かべると、俺を目を見つめた。


「第七代魔王、ラインハルト・イェーガー。そなたに騎士の称号を授ける。アイゼンシュタインの騎士として、これからもフローラとこの地に住む民を守るのじゃ」

「国王陛下? 俺、いいえ。私が騎士ですか? 魔王の加護を受けた私が……」

「うむ。お主は私の娘を二人も救ってくれた。騎士の称号を授けるだけでは足りないくらいだ。後日、今回の功績を称える勲章を授けるとしよう」

「私は第六代魔王、ヴォルフガング・イェーガーから加護を受け、第七代魔王となりました。そんな私がこれからもフローラと共に居ても良いのでしょうか」

「生まれは選択出来ないからな。お主も自分の意志で魔王の息子として生まれた訳ではあるまい? どの家で生まれるかよりも、生まれてからどう生きるかが問題なのじゃ。アイゼンシュタインの騎士よ。今、この瞬間に魔王は死に、新たに民を守る騎士が誕生したのじゃ! お主が民を守るために一人で夜警をしていた事も知っておる。フローラを勇気づけ、生きる喜びを与えていた事も知っておる。お主以上にフローラの事を想える人間は存在しないじゃろう」

「国王陛下……私はこれからもフローラと共にアイゼンシュタインを守り続けます。私の事を信じて下さって、ありがとうございます」


 国王陛下は優しい笑みを浮かべ、俺の体を強く抱きしめた。まるで父の様な強さを感じる。やっと認められたんだ。魔王の息子として生まれた俺が、一国の王から騎士の称号を頂けたんだ。俺が騎士爵、準貴族になったという訳か。これからもアイゼンシュタインを守りながら生きよう。


 それからすぐに城の兵士や衛兵が駆け付けてきた。暗殺者とビスマルクの死体、生き残った暗殺者、第二王女のヘルガは城に運ばれる事になり。俺達は陛下と共に城に戻り、今回の出来事を詳しく話す事にした……。

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