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第十四話「魔法訓練」

「フローラ。まずは雷属性の基礎魔法、サンダーの魔法を習得しましょう。私は地属性にしか適性が無いので、雷属性の魔法の真の威力を引き出す事は出来ないのですが、一応心得がありますのでお教えします」


 私はサンダーの魔法石を左手に乗せると、まずは魔法石に意識を集中させ、雷の魔力を感じ取った。その状態で右手に魔力を込める。


『サンダー!』


 魔法を唱えると、右手から静電気が発生した。これが私の魔法? 魔法石を使用しながら属性の感覚を掴みつつ、何度も右手から魔力を放出する。弱かった静電気は次第と強さを増し、室内には強い雷の魔力が流れた。魔法の威力が徐々に上がり始めている。


「素晴らしいですよ、フローラ。サンダーの魔法を習得出来たみたいですね。サンダーは攻撃速度も早いので、使い勝手の良い攻撃手段です。上位魔法にライトニングという強力な攻撃魔法が存在しますが、ライトニングは魔力の消費量が多いので、サンダーを使う魔術師が多いです」

「暫くはサンダーを練習してみようと思います」

「そうですね。一時間ほど魔法石を使用しながらサンダーを練習してみて下さい。魔力が枯渇したと感じれば、マナポーションを使用して魔力を回復させて下さい。ここにマナポーションを置いておきますので、ご自由にお使い下さい」

「何から何までありがとうございます」


 それから私はサンダーの魔法石を使用し、ひたすらサンダーの魔法を使い続けた。弱かった静電気は強い雷へと進化し、威力も徐々に上がってきた。魔力が枯渇する瞬間は、まるで貧血を起こした時の様な感覚だけど、マナポーションを飲んで暫く体を休めていれば、魔力が回復する。魔力の総量は、魔力の使用と回復を繰り返す事によって上昇させる事が出来るのだとか。


「そろそろ一時間が経過しましたね。それでは、私が土の壁を作りますので、魔法石を使わずに、土の壁に対してサンダーの魔法を使用してみて下さい」

「分かりました」


 威力も徐々に上がり、私は自分の魔法に可能性を感じ始めた。魔法の練習ってこんなに楽しいんだ。もっと早くに始めていたら、今頃強い魔力を身に着けていたかもしれない。今日から毎日魔法の訓練をしよう……。


 サンダーの魔法石を離すと、属性の感覚が失われた。魔法石が体内に供給していた属性の魔力が無くなると、私は一気に自信を喪失した。何も感じない……。魔法とは無の状態から作り上げるもの。魔法石は一時的に魔法を使用出来る魔石だという事を忘れていた。


 レーネさんは地属性の魔力を放出し、ギルドの床に土の壁を作ってくれたみたい。実際には見えないけれど、強い土の魔力を感じる。アースウォールという土の壁を作り出す魔法で、サシャ・ボリンガーという古い時代の勇者が好んで使用した防御魔法らしい。


 右手をレーネさんに向けて、体内から魔力を集める。右手に雷の魔力を集めた状態で魔法を放つ。


『サンダー!』


 魔法を唱えると、私の右手からは弱々しい静電気が発生した。やっぱり魔法石が無ければ威力が随分落ちるのね。そう簡単には魔法は習得出来ないみたい。


「魔法石は一時的に魔法を習得する道具です。魔法石を使えば魔法の威力が上昇したと錯覚しますが、魔法石を使用しても、魔法本来の力を発揮する事は出来ません。威力は大体五分の一程でしょうか。私が一度手本を見せますね」


 レーネさんがギルドの中央に立つと、爆発的な魔力を肌に感じた。肌を刺す様な強い魔力が発生すると、レーネさんが魔力を放出させた。


『サンダー!』


 巨大な爆発音が轟くと、次の瞬間、土の壁が粉々に砕けた。これがギルドマスターの魔法? 私のサンダーとは比較にならない程の威力だった。しかも、レーネさんは雷属性に適性がある訳でもない。


「魔法の適性がなくても、努力をすれば魔法を習得出来ます。しかし、適性がある者が努力を積んだ方が、魔法の持つ力を引き出す事が出来るのです」

「凄い威力ですね……」

「まだまだ練習中ですが、私も一応魔術師ギルドのマスターですからね。基本的な属性魔法は全て使用出来るんですよ」


 私もレーネさんと同様、ギルドマスターではあるが、実力がまるで違う。マスター本人が強くなければ、ギルドメンバーを増やす事は難しいのかもしれない。そう考えると、暗殺者をいとも簡単に退けられるラインハルトが私のギルドに加入してくれたのは、奇跡の様な事だ。マスター自身が強くならなければならないんだ……。


 それから私は魔法石を用いた練習と、魔法石を使わない練習を繰り返した。ラインハルトが来るまで魔法を学び、少しでも力をつけよう。私は強い冒険者の力を借りるだけの女にはなりたくない。魔法を学んで私自身が強い冒険者になるんだ……。



〈ラインハルト視点〉


 商人ギルド・ムーンライトを出てから、ヘンリッテさんとヴォルフと共に町を歩く。商業区には様々な露店や飲食店があり、ヴォルフが肉料理を食べたいとねだったので、俺は彼のために次々と料理を購入し、彼の胃袋を満たしながら町を歩いた。


「ラインハルト。レッドストーンという冒険者ギルドはどんなギルドなの?」

「フローラ・シュタインという十七歳の女の子がマスターを務めていて、先月から活動を始めた新設ギルドみたいですよ。まだメンバーは俺とフローラしか居ないんです」

「メンバーが二人しか居ないギルドも珍しいわね。言い方は悪くなってしまうけど、どうしてそんな弱小ギルドに加入した訳?」

「確かに弱小ギルドですが、俺はギルドマスターの人柄に惹かれたんです。俺が傍で支えたいと思う様な女性というか、彼女は必ずレッドストーンを最高の冒険者ギルドに出来る人だと思うんです」

「随分フローラの事が好きみたいね……私の事ももっと見て欲しいな……」

「え? 何か言いましたか?」

「なんでもないわ。ラインハルトの馬鹿……」


 ヘンリエッテさんは優しく微笑むと、俺の手を握った。やはりヘンリエッテさんと居ると落ち着くな。これが大人の女性の魅力だろうか。確か二十五歳だと言っていたな。俺よりも八歳年上だが、ヘンリエッテさんは俺みたいな子供と一緒に居れくれる。面倒見が良く、頼れる仲間だ。


「ラインハルト。ブラッドソードとの戦いはくれぐれも気をつけてね。勿論、私も戦闘に参加するつもりだけど、相手は王国の衛兵ですら捕らえられない暗殺者集団。いくらラインハルトが強くても、敵が複数で襲ってきたら勝ち目が無いと思うの」

「ヘンリエッテさん。俺は民を守る冒険者になるために、この王国に来ました。不当に人間を殺める暗殺者を見過ごすつもりはありませんよ。俺はこれから更に訓練を積み、暗殺者集団に対抗出来る力を身につけるつもりです」

「その言葉を聞いて安心したわ。ラインハルトは幻魔獣に認められた冒険者なのだから。そう簡単に負ける訳無いよね」

「はい。もう少し俺を信じて下さいよ、ヘンリエッテさん」

「そうね。ごめんなさい。敵があまりにも悪名高いから、弱気になってしまったのかしら」


 ヴォルフはまだ食べ足りないのか、俺達の会話を無視して一軒の露店の前で立ち止まると、つぶらな瞳で俺を見つめた。露店では、幻獣のブラックライカンという希少な魔物の肉から作られた乾燥肉を販売しているらしい。拳ほどの大きさの乾燥肉の塊が一つ三百ゴールドもする。高級な乾燥肉みたいだ。お酒のツマミにもなるらしく、酸味が強い葡萄酒とよく合うのだとか。


 俺はブラックライカンの乾燥肉を購入し、その場でヴォルフに与えると、店主は憤慨した表情で俺を見つめた。


「幻獣のブラックライカンの肉を、そんな狼に与えるなんて! お前さんは何を考えているのかね?」

「すみません。しかし、そんな狼と呼ばれるのは心外です」

「狼じゃなかったら何なんだね?」

「この子は幻魔獣のフェンリルですよ。幻獣のブラックライカンよりも高位な魔物です」

「なんだって? 幻魔獣? というと、お前さんが昨日ブラッドソードの連中を退治したっていう冒険者かい?」

「はい、そうですよ」


 露天商は驚きながらも、満面の笑みを浮かべて俺の手を握った。


「幻魔獣を従える冒険者が俺の店の肉を買ってくれた! ありがとうよ、冒険者さん。俺達露天商もブラッドソードの連中から金を巻き上げられているんだ。歯向かえば何をされるか分からないから、売上金を奪われても、抵抗しない奴が多いな」

「露店も狙われているんですね。ますます許せません。露天商さん、冒険者ギルド・レッドストーンが、ブラッドソードを壊滅させてみせます」

「そいつは頼もしいよ。ブラッドソードに殺害された仲間だって居るんだ。俺達は暗殺者を許すつもりはない。冒険者さん、さっきはあんな狼なんて言ってすまなかったな」

「いいえ、気にしないで下さい」

「そうだ、俺の店の肉を持っていってくれ。そのフェンリルはまだまだ育つだろう。確かフェンリルは体長は三メートル以上になるんだよな。栄養を切らさないように、大量の食事を与えるんだぞ」


 露天商はすっかり機嫌を良くして、大量の乾燥肉を分けてくれた。それから露天商が仲間の商人に声を掛けると、ブラッドソードの被害に遭った露天商達が集まり始め、持ちきれない程の肉やチーズ、パンを分けてくれた。


「いつでも来るんだぞ! 魔物と力を合わせて、ブラッドソードの連中を叩き潰してくれ! 俺達露天商はお前さんを応援しているからな!」

「ありがとうございます! 皆さん!」


 俺は何度もお礼を述べ、必ずブラッドソードを崩壊させると誓ってから商業区を後にした。レッドストーンに戻り、荷物を置いてからフローラと合流しようか……。

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