メモリーズホールに向かえ
〈PBR〉犬塚たちは、データの世界へと迷い込んでしまった。通知を見た。犬塚の記憶に残っていた人物は、鮫島、鰐渕、上狼塚の三人だけだったのである。犬塚は、成人式があったこと、同窓会があったことを完全思い出せずにいた。頭の中で喋り声が聞こえる。どこかで聞いたことがある声だった。犬塚はすぐに思い出した。鮫島の声、鰐渕の声だった。また、新しい声が聞こえた。「あっ、上狼塚じゃないか」と犬塚は言った。犬塚は辺りを見渡した。しかし、誰もいない。「おいおい、どこにいるんだ」と犬塚は問いかける。「頭の中にいるんだ」と三人の声が聞こえた。犬塚の頭の中に三人はいた。多重人格に近い感覚なのかはわからないが、たぶんそんな感じなのだろうと犬塚は思った。犬塚は頭の中に問いかけた。「お前たちは何か知ってるのか」と犬塚は問いかけたが、返事がない。今度は口に出して、問いかけてみた。頭の中に返事が返ってきた。「知らないなぁ」と鮫島だった。「だが、俺たちは犬塚、お前のフォローにあたる用になっている、それがここから出る唯一のキーだ」と上狼塚が言った。「お前が助かると俺たちも助かる」と鰐渕が付け足した。なんとなくだが、彼らが言っていることはわかるが、何故、何のために、俺の中に彼らがいるんだ。理解できなかった。俺じゃなくてもよかったのではないか、と考えていた。「向かう場所がある」と上狼塚が言った。「向かえ、犬塚早く向かえ」と鰐渕が急かしている。「どこに向かえばいいんだ」と犬塚は聞いた。「向かう場所は、メモリーズホール」と鮫島が言った。犬塚はスマートフォンで検索した。どうやら、電波は受信しているらしい。犬塚はナビアプリを開いた。どうやら割と近いらしい。「ここに向かっているやつがいるな」と上狼塚が言った。「メモリーズホールを目指しているやつは、俺たちだけじゃないってことか」と犬塚は言った。犬塚はメモリーズホールを目指し歩き始めた。
〈PBR〉猫田もメモリーズホールを目指していたのだった。猫田の頭の中でも、犬塚と同じことが起きていた。猫田の頭の中には、亀田、熊田、狐塚の三人がいた。リーダーシップを発揮していたのは、狐塚だった。「メモリーズホールに行けば何かがわかる」と狐塚が言う。それを信じて、猫田はメモリーズホールを目指す。「フォローは、しますよ」と亀田、熊田が言う。猫田の現在地からは、少し遠ようだ。
〈PBR〉メモリーズホールを目指すのは、この二人だった。
〈PBR〉龍澤が蝶野のもとに現れた。「やっと、動きだしましたね」と蝶野が呟いた。龍澤は頷きながら「そうですね」と言った。
〈PBR〉犬塚が、メモリーズホールを目指し歩き始めて、データ世界内で一時間が過ぎていた。「おいおい、まだ着かねえのかよ、もうだいぶ歩いたぜ」と犬塚は言った。いびきらしき音が聞こえる。鮫島は寝ていた。「おい、ふざけんな、起きろ」と犬塚が言った。鮫島は「あー、わるいわるい」と言って起きた。「もうそろそろ見えるはずだ」と上狼塚が言った。確かにナビアプリを見ると、メモリーズホールはもうすぐそこだった。だが、犬塚の目の前には、川が流れていた。ここを渡れば、もうメモリーズホールなのだが。「くそー、遠回りするしかないか」と犬塚が言っていると、鮫島が「任せろよ」と言った。「ラインの俺を選択して、フォルムチェンジと送ってくれ」続けて鮫島が言った。犬塚は鮫島の言う通り、ラインにフォルムチェンジと書いて鮫島に送ってみた。その瞬間犬塚は身体の異変に気付いた。手と足は有る、鮫のようなフォルムになっていた。「なっ、これで泳げるだろよ」と鮫島が言った。この世界はいったいどうなっているんだと、犬塚は思った。「でかしたぞ」犬塚は言って、川を泳ぎ出した。犬塚はメモリーズホールを目の前にしていた。「ここがメモリーズホールか…」と犬塚は言った。
〈PBR〉猫田は熊のフォルムで、陸地を走っていた。メモリーズホールまで距離はあったものの、走るスピードが速かったので、一時間くらいで到着した。「気配を感じる」と猫田は言った。「気をつけて、誰か先着がいるようだわ」と狐塚が言う。
〈PBR〉メモリーズホールの犬塚は表側、猫田は裏側に到着した。二人以外には誰もいる気配はない。二人は、それぞれの入り口からメモリーズホールに入ろうとしていた。