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誰にも邪魔させない、私たちの青春。  作者: 青木ユイ
第一章 2016年度 高校一年生
6/35

番外編 入学式の日①(奏音目線)

今回は番外編です。

「やったあ、同じクラス!」

「え、本当? やった!」


 入学式を終えた。

 手を叩き合う女子二人を横目で見ながら、俺は背伸びをしてクラス分けの紙を見ようとする。が、目の前の背の高い男子のせいでよく見えない。これだから、身長が小さいのは不便だ……。


 今日は、高校の入学式。受かる可能性は20%と言われていたが、受かってやった。今日から俺、桧原奏音もここ池谷高校の生徒だ。

 制服の学ランのボタンを開けてみた。だらしなく見える……か、な? 学ランだし、中学生にまだ見えるかもなあ。

 平均よりちょっとだけ(・・・・・・)背が低いからいつも年齢より小さく見られてしまうけど、まあ、高校の制服(中学と何も変わらないけど)を着ていれば少なくとも小学生には見られないはずである。高校生が小学生に見られることなんて滅多にないと思う。中三が限度だ。中三の時は私服でいると小学生と間違われることもあった。(自分でもきっとそれもありえないとわかってる)

 と言っても、そこまで小さいわけでもない。150センチ、あるはず……多分。四捨五入すれば、きっと。去年から伸びてるし、うん。


 人が少なくなったところで前の方に行き、25番あたりを見る。『桧原』だから、そこらへんにあるはずだ。

 A組から見ていくと、すぐに見つかった。一年A組の28番だ。すぐ後ろの29番は、小学校の時同じクラスになったことのある廣山だった。中学で仲の良かった隆夜とも一緒だし、いい感じのクラス分けになったな。

 俺はさっそくA組に向かった。あんまり遅いと遅刻扱いになるかもしれないし、入学式から遅刻は避けたい。ちょっと走ることにした。


 C組の前の廊下はまだ人がいた。時間は大丈夫みたいだ。

 人と人の間をすり抜けていくと、人が少なくなったところでしゃがんでいるツインテールの女の子を見つけた。しんどいの、かな?


「大丈夫?」


 俺はできるだけにっこり笑ってそう言った。彼女は顔をあげてぽかんとしている。

 なんて言ったか聞こえなかったのかもしれない。今度は言葉を変えて尋ねた。


「お腹痛いの?」


 うずくまっていたから、腹痛かもしれないと思ってそう言ったが、そういうわけではなかったらしい。顔色が悪そうだったので目線を合わせるためにしゃがんでからそれも聞いてみたけど、彼女はこくこくとうなずいた。


「あ、うん。大丈夫」


 とりあえず大丈夫だというので、立ってもらうことにした。


「立てる?」


 そう言いながら、手を差し出してみる。

 すると彼女は少しびっくりしているようだったけど、またこくこくうなずいて手をとり立ち上がった。

 その時、気づいてしまった。


 ――――俺より、背が高い……?


 しゃがんでいる時は小さく見えたから、ショックだった。やっぱ俺、チビなんだ……。

 その気持ちは相手の方も同じだったらしく、自分との背の差を測ろうとしていた。やめていただきたい。


「あ、俺、一年A組の桧原奏音。よろしく!」


 気を取り直してそう言うと、彼女は小さな声で自己紹介をする。


「一年A組の、佐野優樹菜です……」


 佐野優樹菜。彼女は偶然にも同じクラスの子だった。



(なんであそこにいたんだ?)


 隆夜に遅いと怒られてしまったり、A組に着いた頃には俺ら三人以外はとっくに自分の席に座っていたりなどの不幸が降りかかってきたが、なんとかホームルームというやつには間に合った。そんで、自己紹介。

 入学式の日にこんなことするものなのかと思うが、担任がしろと言うのだから仕方ない。しかし、俺は自己紹介なんてほとんど聞いてなかった。


(なんでC組の前でしゃがんでたんだ?)


 俺には、それがわからなかった。佐野優樹菜。謎すぎる。

 気分が悪かったわけでもないらしいし、すぐに立ち上がってたし、めまいがしたりするわけでもなかった。じゃあなんで? つーか、何故C組? C組に知り合いでもいたのか?

 ……いやいや、それは関係ないだろ。佐野さんがC組の前にいようが、その理由がなんだろうが俺には関係ない。それ知りたいって、俺は変態かよ。初対面なのに、ありえない。


「好きな人は、そこにいるカナです」


 隆夜が、そう言いやがった。

 あいつはいつもいらないことばかり言う。いらんこと言いだ。迷惑である。

 それも、たまにではなく毎日のように言うわけだから、もうツッコミを入れるのもそろそろ疲れた。たまにはまともなことを言ってほしいものである。

 隆夜のおかげで散々視線を浴びてしまった俺は、ため息をついて顔を背けた。あいつ、にやにやしやがって。ほんとやだ。

 しばらくすると、佐野さんが立ち上がった。彼女の番のようだ。

 俺はさっきまでまったく聞いていなかったのに、なぜだか聞く気になってしまった。やっぱり、気になる。


 佐野さんの自己紹介が終わると、俺の興味というやつは一瞬でなくなった。俺は佐野さんが、佐野さんだけが気になるらしい。初対面でこれはないよな。恥ずかしい。本人に知られたりしたら多分死ぬ。

 こういうのを変態って言うのかもしれない。高一の春に変態デビューしましたって、それはないだろ。うわー、もう、いろいろと恥ずかしい。

 自分の自己紹介を終えて席についたその時、後ろから背中をつつかれた。振り向くと、


「かーなーねーちゃん♪」

「誰がかなねだ! 女子じゃねえし!」

「あはは」


 笑っている廣山がいた。廣山宇美。小学校の時同じクラスになったことがある。

 桧原奏音。たしかに、かなねとも読めなくはないのかもしれない。だけど、俺の名前は桧原(ひはら)奏音(かなと)だ。かなと(・・・)

 かなね、と読むと女子っぽく聞こえるから嫌だ。まあ、そもそも奏音っていうこの字の時点で女子っぽいのかもしれないけど。


「カナ、何顔赤くしてんだよ」

「してねえよ!」


 いつの間にか現れた隆夜が、にやにやしながら頬をつついてくる。こいつ、絶対俺のことバカにしてる……。

 別に顔赤くなんかしてない。だいたいなんで廣山と隆夜の前で顔赤くしないといけねーんだよ。そんなことしてたら、逆に怖いわ。


「え~? どうだか。好きな人でもできちゃったんじゃないの?」

「ばっ、そ、そんなことあるわけねーだろ!」


 隆夜と同じようににやにやしながらささやく廣山、女子だけどすげー殴りたくなった。あと、動揺している自分も殴りたい。恥ずかしい。死にたい。

 あと、否定する時声裏返ったし。余計クロだと思われたかもしれない。そんなんじゃねーんだっつーの……。

 これだから恋愛脳のやつらはいやなんだよな。すぐそういう方向に持っていこうとする。あーやだやだ。ほんとやだ。


「ほらあー、照れちゃってー」

「違うって言ってるだろーが!」


 廣山はしつこいやつだ。一度そうだと思い込んだものは変えない。

 いい迷惑だ。俺が誰かを好きになることなんてないだろ。あんなことがあったの(・・・・・・・・・・)()。今さら誰かを好きになるとか、バカげてる。

 ……まあ、佐野さんのことが気になってるっていうのは事実だけど。それと恋とはまた違う気がする。わかんないけどさ。


「こら、廣山。カナいじめんなよ」

「尾川だっていじめてんじゃん」


 というか、隆夜の方がたちが悪い気がする。廣山はしつこいけど、隆夜はもっと、なんか違うんだ。なんつーか……。


「隆夜は、意地悪?」

「はあっ!?」


 耳をつんざくような声が耳元で聞こえた。こ、鼓膜つぶれるっ……!

 もちろん声の主は隆夜である。毎度毎度声でかいんだよ。だー、もう、うるさいなあ……。


「あはっ、意地悪だって! 言えてる~。たしかに尾川、意地悪そうな顔してるもんね!」

「失礼だな、お前も……」


 楽しそうに笑う廣山を、隆夜は苦笑いで見つめていた。

 あ、なんか変な描写になったけど、多分隆夜にそんな気はないと思う。


「まあまあ、そんな怖い顔しないのー。ただでさえイカツイのに、怒ったらもっと怖いよー?」


 廣山はにやにやしてそう言う。からかってるように見えるけど、なんだかんだ言って本音なんだと思う。あ、でも、イカツイはちょっとひどいんじゃないか?

 その時、隆夜が面倒くさそうに、


「あーもううるさい」


 と吐き捨てた。

 間髪入れずに廣山が顔をしかめ、あごを突き出す。


「はあー? 人がせっかく忠告してあげてるってのに、ったくかわいくないなあっ」

「お前にかわいいって言われても困るな」


 隆夜はそう言ってにやにやしたけど、廣山は嫌な顔をすることはなかった。それどころか、彼女はにこっと笑って「それもそうね」と言う。

 な、なんだ……? 廣山、怖いんだけど。いろんな意味で。


「はい、席についてー」


 そんな時、担任の吉川先生がやってきてそう言ったので、隆夜は自分の席に戻っていった。俺たちは座ったままだったから特に何もないけど。


 この時間では、どうやら委員会とかを決めるらしい。高校って、中学とそんなに変わらないんだなあ。

 変なのを押しつけられたりするのも面倒なので、手の上がらなかった体育委員にさっさと希望を入れてそれになった。

 体育委員とか、楽勝! どうせ、体育祭の時に放送とかやるくらいだろ? 体力もそんなに使うようなのじゃなさそうだし、いっちょ働いてやるか!


「それじゃあ、委員会の人は明日集まりがあるからね~」


 まじかー。隆夜はたしか何も入ってなかったな。じゃあ、一緒に帰れないかー。

 残念だけど、委員会の仕事だから仕方ない。明日は一緒に帰れないって、隆夜に伝えておかないとな。


「隆夜!」

「わかってるから、もういいよ」


 呆れ顔で言われた。たしかに、先生の声はクラスの人たち全員に言ったわけだから、隆夜に聞こえていてもおかしくない。というかむしろ聞こえてなかったら難聴だ。そっちのがおかしい。

 それにしても、明日は集まりがあるのか。結構突然なんだな。委員会って、どれもそんな感じだもんなー。

 書記とか、楽そうなのにしとけばよかった。あ、でも俺、字綺麗じゃないからだめか。他の人が読めない。

 つまり俺には体育委員がお似合いだったということだ。なんか、けなされてる気がするのは気のせいだろうか。


 今日は隆夜と一緒に帰る予定だ。何もないし。

 中学の時もよく一緒に帰っていた。家が近いのは、いろいろ便利である。小学校も一緒だったはずなのだが、お互いの存在に気づくこともなく卒業。中一で初めて同じクラスになって「小学校同じだったっけ!?」と叫んだのを覚えている。


「カナ、帰るぞ」

「あっ、はいはいちょっと待って」


 隆夜に急かされ、俺は慌てて荷物をカバンに詰めた。新しい教科書だ。

 って、あれ? そういえば教科書って、高校は有料なんじゃなかったっけ? こんなとこで配られるのかな?


「カーナー早く~」


 隆夜が教室の入り口付近で手招きしている。俺は叫んだ。


「あーもう、わかったって!」


 仕方ないのでまとめて教科書をカバンに押し込むと、俺は走って隆夜の元に向かった。

 歩きはじめると、彼に「お前ほんとトロいな」と言われた。悪かったな、トロくて。でも、きっとトロかったんじゃない。


「教科書詰めてたんだよ。トロかったんじゃないっつの」

「同じようなもんだろうが。言い訳すんなバカカナ」


 頭をコツンとやられた。意外と痛い。俺は涙目になりながら頭を押さえた。


「馬鹿力」


 ぼそっとつぶやくと、隆夜が鬼の形相で振り返った。うわ、俺またいらないこと言ったかも……?


「いだいだいだいだ!」


 こめかみをぐりぐりされて、俺は叫び声をあげた。だってめちゃくちゃ痛い! やっぱ馬鹿力だろ、隆夜!


「お前、今なんつった?」


 聞こえてるくせにそんなこと言わないでほしい。馬鹿力って言って怒ったからぐりぐりしてきたんだろ。これ、もし俺が言ったことが隆夜をけなすような言葉じゃなかったら土下座でもしてくれんの?

 少し口角が上がった。うわっ、自分怖い。


「そーいうのいいからさっさと帰ろう? まだ学校からそんな離れてないし」


 本当に迷惑だ。隆夜のせいで全然歩けてない。ほぼ、というか全然進んでない。俺はさっさと帰りたいのに……。


「あーハイハイわかりましたよー。ったくカナのくせに指図しやがって」

「隆夜は日に日に性格悪くなっていってるな」


 振りかぶってくる隆夜の拳をよけて走る。もちろんすぐ追いつかれて捕まったけど。


「つか、後ろ誰かいる? 視線感じるんだけど」

「そうか?」


 横を向いて隆夜と話してるフリをして後ろを見ると、なんと佐野さんがいた。中学、たしか違ったよな? こっち方面なのか?

 そう思いながら隆夜にはこそっと佐野さんがいることを教えておいた。下手に振り向かれたりしたら困るからだ。あと、嘘はついてない。


「じゃあなー」


 隆夜が細い路地に入っていったところで、一人になった。と言っても家はもうすぐそこなので、大したことはない。さっさと帰ってしまおうと思った。


 家の鍵を開け部屋に入ると、窓を開ける。その時、彼女はいた。


「あれ、佐野さん……?」


 そう、さっき俺が歩いてきた家の前の道に立っておろおろしているのは、紛れもなく佐野さんだった。


「佐野さん?」


 声をかけると、彼女は目を見開いていた。そして、おろおろしながら「あ、あの、私……」と言って視線をあちらこちらに向けている。


「部屋の窓から外見たら、佐野さんが迷ってるっぽく見えたから……。もしかして、道に迷ってた?」


「あ、う、うん……」


 びくびくしてる。どうしたんだろう? 怖がらせちゃったかな。俺、あんまり佐野さんタイプの女子と話さないしなー。


「そっか。なら、帰ろっか」

「え?」


 笑顔でいうと、彼女はぽかんとしていた。だって、迷ったんだったら帰らないといけない。

 ものわかりが悪いのか混乱してるのか、佐野さんはすぐに動こうとしない。ったくもう……。


「だって、迷ってるんでしょ? だから送るよ」


 仕方ないから、そう言う。


「でも、お昼ご飯……とか、は?」


 佐野さんは今さらどうでもよさそうなことをささやいた。本当に心配しすぎだと思う。

 昼ごはんなんか、あとで食べればいい。別にお腹空いてないし、大丈夫だ。


「いーから。そういうのは気にしないで、女の子は素直に甘えとけばいいんだよ」


 佐野さんはこういう子なんだ。多分、人のこととかを考えて遠慮しちゃうタイプなんだろう。

 でも、俺はこれでも男だし、女の子に気を使わせる訳にはいかない。だから、こういうのは素直に甘えてくれた方が助かる。まあ、いいことなんだけどな、人に気を使えるってのは。



 こうして俺たちは、佐野さんの家に向かうことになった。親とかいたらやばいから、さっさと行ってさっさと帰ろ~……。

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