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中二病でも恋が死体!

作者: てこ/ひかり

「たいへんなんです、わたしのへやに…し、したいがころがっていて…」

「ははぁ」


 電話口の向こうから、女性の慌てた声が聞こえてきた。したい処理班である私は、早速女性の住む一人暮らしのマンションへと車を走らせた。


「はやく!こっちです!」


 呼び鈴を鳴らすなり扉が勢いよく開けられ、怯えた様子の女性が私を部屋へと引っ張り込んだ。私は冷静に部屋の中を見回した。特段荒らされた様子はない。肝心のしたいは、部屋の隅で小さく体操座りしていた。そのしたいはまだ中学生くらいの、幼い少女の姿をしていた。私は唸った。


「なるほど…これは酷い」

「一体何で…誰がこんなことをしたのでしょう…」


 混乱する女性がすがるように問いかけた。私は彼女を手で制した。


「まぁまぁ、落ち着いて。それはしたいに聞いてみましょう」


 私は今にも泣き出しそうな顔のしたいにゆっくりと近づき、優しく話しかけた。


「やぁ、こんばんは。君は一体『何したい』なんだい?」

「…………」

「…………」

「……たい」

「ん?」


 小さなしたいはチラリと私を見上げ、すぐに目線をそらすと、やがて小さな声でぽつりとつぶやいた。


「……恋がしたい」

「恋…君は『恋がしたい』なんだね」

「……うん」

「ほかには?」

「…活躍したい。…おしゃれしたい。…楽したい。話したい!愛したい!それから…」

「ははぁ」


 私は頷いて、優しく「したい」の頭を撫でた。ぎゅっと自分の体を抱きしめていた「したい」は、緊張が解けてしまったのか、やがてその目から大粒の涙を流し始めた。


「何か分かりましたか…?」


 私の後ろから、女性が恐る恐る尋ねた。私は振り返って彼女に言った。


「ええ。この『したい』は…貴方が生んだものですね」

「ええっ」


 驚く彼女に私はゆっくり説明を始めた。この『したい』は、貴方が心の中で『こうしたい』という欲求の具現化したようなものであること。貴方が自分を殺し、欲求を抑えれば抑えるほど『したい』は苦しみ続け、今後も『したい』は増えていくだろう、ということ。私の話を聞いて、この『したい』の「殺人犯」である彼女は、部屋の隅っこの少女を怖々眺めて言った。


「そんな…この『したい』は、ど、どうすればいいんでしょうか…?」

「『して』あげてください。今度は貴方も一緒に、心の声にちゃんと耳を傾けて」


 私は彼女を見つめながらそう告げた。彼女は一瞬戸惑ったような表情を見せたが、やがてゆっくりと、恐る恐る自分の『したい』のそばに腰を下ろした。


「ごめんね…あなたは、私だったんだね…」


 『したい』はゆっくりと顔を上げ、やがて「母親」の胸の中に飛び込み、大きな泣き声を上げた。彼女もまた、涙を流していた。私は深く帽子を被りなおした。私の仕事はここまでだ。二人の幸せを祈りながら、私はそっと、次の現場へ向かうことにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 言葉遊びが楽しいお話です。最近オチを想像しながら読むのが楽しみになってます
2015/10/21 08:44 退会済み
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