朝の楓
言うなればこれはもどかしさだ。
心の隅に芽生えていた小さな苛立ちが今加速する。
脚が地面を蹴り体を浮き上がらせる。
着地した足裏でまた地面を蹴る。
空気をいくら吸い込んでも肺が不十分だと訴える。
腕を振るとナイロン製のジャケットが発てる音が少し耳障りだ。
安物のランニングシューズでも柔らかい土の上ならばそこそこ役に立つ。
早朝の草原に響く楓の走り込みはいつの間にかただがむしゃらに体躯を前進させているだけとなっていた。
ポケットに入れていた携帯端末機が時間を知らせていた。
徐々に速度を落とし立ち止まる。
草むらにしゃがみこんだがすぐに身を投げ出した。
燃え盛る全身に草の露の冷たさが心地好い。
まだ走りたい気持ちがあるが時間的にそうもいかない。
荒い呼吸を繰り返しながら見上げた空は薄い水色だった。
今日も晴天だろう。
楓は起き上がりため息をついた。
管理棟関係職員並びにその親族は境界探索の抽選から外されるらしい、そんな噂を耳にしたのはいつだっただろうか。
両親の任務期間を短期にしてもらえるのではないか。
その切実な願いが水晶病市民対応所への入所の動機になった。
しかし管理棟直属でもない地方の一職員にその恩恵は与えられなかった。
あやふやな噂に期待するべきではなかった。
落ち込みはしたが入所を志願した理由は他にもある。
独立帰還者の地位向上だ。
つまりは藤を取り巻く環境を少しでも良くしたい。
しかし先日のスズの言動で思い知らされた。
この半年の間で具体的に何ができただろうか。
このままあの場所で働き続けて自分は何ができるのだろうか。
歩きながら考えるがこれぞという妙案は浮かばなかった。
市外と市内を分ける柵の前に来た。
手を掛けると軋んだ音を発てながら開き楓を市内へと帰した。
閲覧数が0が長く続き(当たり前なのですが)少しでも読んでもらいたいと思って中途半端なところで更新してしまいました。




