夜空
上り坂へ出た。
荷台から下りた藤は自転車の後ろを歩く。
すぐに引き離されて坂の上で待つ影へ駆けた。
再び荷台に乗る。
遠く山々の青黒い稜線が夜空を断ち切る。
視線を下げるとちらちらと月光を跳ね返す川面が見えた。
こーっという音が聞こえ振り向くと下流で小さな四角の光が一直線に連なり川を渡っていく。
一部の区間で地上を走る地下鉄だ。
地下鉄は嫌いなので出来るだけ乗らないようにしている藤だが、あの区間は好ましく思っている。
対岸は古い居住区だ、灯りの点った家屋は少なく暗闇に沈む。
土手を走る自転車とすれ違う自動車は無かった。
ふと見上げた空に浮かぶ雲の流れは早く月が出たり隠れたりを繰り返している。
川沿いだからなのか風がやや冷たい。
藤は立て続けにくしゃみをした。
「鼻水、背中につけていないよね、トー」
慌てたように楓が大声でそう訊いてきた。
「暗くて見えない」
「えー」
勘弁してくれと呟いている。
心配もせずに何という言い種だろうか。
藤は腹立たしくなり前の背を平手で打った。
「何で」
抗議の声が上がるが無視を決めこむ。
トーと呼ばれるのは久しぶりだった。
とう、ではなくトーと語尾が上がる呼び方はどうも子供っぽいと楓が気にしているらしく今では滅多と口にしない。
ただ油断すると出る。
楓は右側へ車体を傾け橋の上へ滑り込ませた。
風がより一層強く吹きつけてくる。
桔梗屋は居住区を抜けた先だ。
ひとまず打てたところまで上げてみました。
続きは明日上げれるといいなと思っています。
また続きを読んで頂けると嬉しいです。




