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  作者: こここ
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水晶病市民対応所にて

四肢末端結晶化病変において身体に現れる症状は次のものになる。

四肢末端の硬化

意識の消失

手足指先の一部分にみられる硬化の形状は元の形を保ったまま石に似た質感で光を透す。

いわば発症者は水晶のような半透明の指を持つ。

水晶病という通称名はここからきている。

多くは夜間の睡眠時に発症する。

完治するまで発症者の意識が戻ることはない。

放置すればやがて全身が結晶化し死に至る。

(全身の完全な結晶化は半年から一年)

完治すれば再発はない。

発症の原因も未だ不明であるが治療法は確立されていた。

ただ一つのその治療法は独立帰還者と呼ばれる人々の手によって支えられている。


朝、駅までのバスは空いているがその後の地下鉄は混む。

大勢の通学通勤客が地下鉄の入り口へ続く階段を下りていく。

楓は地下鉄ではなく隣接する高架鉄道の駅舎へ向かった。

半年以上前、通学は地下鉄を使っていた。

それは少し遠い日のように思えた。

駅舎は閑散としていた。

作業員が掃除道具をぶら下げて去っていく。

鳥の羽ばたく音が聞こえ見上げると高い天井で影が横切る。

巣でもあるのだろうか。

公共交通機関で電子市民証が使えないのはここくらいだろう。

窓口で切符を購入しなければならない。

「時雨坂まで」

切符を差し出しながら駅員は「次に来る車輌は望ヶ原止まりだから墨淵で乗り替えて」と教えてくれた。

革靴の底が化粧石を打ち静かな駅舎にこつんこつんと響く。

窓から差し込む朝日が磨かれた床に落ちて眩しい。


水晶病市民対応所は管理棟指導の下、各都市で運営されている施設だ。

水晶病発症者は基本的にこの施設の病棟へ収容され治療を受ける日を待つ。

十雪市では一日平均約二十人の患者が入れ替わる。

入院と退院がほぼ等しいのは十雪市に配属されている独立帰還者が勤勉である証だ。

時雨坂は新しい居住区として計画された区画だったが造成途中で中止となり、その後対応所だけが建設された。

今もなお対応所以外に他の施設はない。

時雨坂駅で降りた乗客は楓を含めて三人しかいなかった。

女性二人が楽しげに連れ立って前を歩く。

途中五台の自動車が楓たちを追い越して行った。

対応所には何十台と停まれる駐車場が完備されているが、(いらないよな)と辺りの広大な空き地を眺める。

(二輪の免許早く取りたいな)

そんな事をぼんやり考えながら施設の敷地へ入った。

右側に病棟、左側に事務所がある。

数年前に建て替えられた病棟は著名な建築家が携わったもので壁面を覆う窓が日の光を内部にふんだんに取り入れる設計となっている。

現代的な意匠のきらびやかな病棟に比べ事務所は簡素極まりなかった。

煤色の外壁には何ヵ所かひびが走り事務所を示す看板は錆びが浮き日に焼けて文字が薄くなっている。

楓としては病棟よりも古ぼけた事務所の方が落ち着けた。

むしろこちらで安心した。

事務所に入ると年配の男性が窓際の鉢植えに水をやっていた。

「おはようございます」

挨拶をすると溝口が振り返った。

一瞬の間が空き「おはよう。い、今日からか」と呟く。

「ええっと」

「遠野楓です」

「ああ、そう遠野君。いや、すまない」

事務所へ配属されて二ヶ月はいたがその後四ヶ月管理棟へ行っていた。

名前くらい忘れられていても仕方がないのかもしれない。

「おはようございます、あら、遠野君だ。久しぶりだね」

楓の横へ栗色の髪の女性が並ぶ。

甘い香りがした。

「おはようございます。榛野さん」

「よく帰ってきたね」

榛野が背伸びをして頭をなでてくる、更に甘い香りが漂い少し顔が赤くなるが楓の浅黒い肌では分かりにくい。

「三田さんて覚えているかな」

榛野より年上の女性だ。

榛野と仲が良く楓にも親切にしてくれた。

「産休に入ってね、人が足りなくて困ってたの。良かったよ、本当に。今帰ってきてくれて」

そう言いながら自分の席にいく。

楓はどこが自分の席か迷い並ぶ机に視線をさまよわせた。

「ここ、ここに来て」

察した榛野が自分の隣の机を指す。

駆け寄る楓を見て溝口が目を丸くした。

「一度に部屋が狭くなったようだよ」

座る榛野も楓を見上げ「そうだね」と頷く。

(それほど大きくもないけどなあ)

半年前にも同じ事を言われた、と楓は思い出した。

まだ続きます

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