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  作者: こここ
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藤、地下へ行く

巨大な鉄の門扉をくぐり短い階段を下りる。

艶のある飴色の壁に等間隔に取り付けられた卵形の照明が辺りに光を投げかけている。

階段の先には昇降機が二台並んでいた。

一台が小さく音を発して開き藤を招き入れる。

右側にある階層表示のうち八を押した。

ここより上階はない、二から八の数字は全て地下を指す。

八は最下層である。

二百年前と推測される旧世代の建造物で、十雪市では最も古い遺跡とされている。

現在は草木に覆われほぼ野原と同化してしまい外観は定かではない。

門扉さえなければただの小高い丘と見えよう。

しかしその向こう側は都市とも市外とも違う空間である。

下降する箱の中で音声が流れるが聞き取れるものではなくなっている。

・・ミナ・・・ソ・・メ・・カイセ・・・

音声に混じって雑音が入る。

この雑音を楓は海の波音に似ていると言う。

海に行ったことのない藤はそうなのかと思うだけだった。

いつか一緒に行こう

海で楽しい遊びをしたのが忘れられないようで楓は時折藤を誘う。

誘われたところでどうせ行けはしない。

藤は勿論だが、楓自身も海に行ったのは随分と昔で最早旅行など簡単に行ける時勢ではないのだ。

根拠もなく楓はそのうち行けると本気で考えているようだ。

できもしない約束を藤はしない。

だが行きたい気持ちがないわけではない。

霧のかかる緑深き渓谷、向こう岸が霞むほど広い川、幾重にも上下に円を描く立体交差道路、写真や映像で見た風景を、そして想像すらつかない景色をこの身で感じてみたい。

ハッソウニトウチャクシマシタ

到着を告げる音声は未だにいきている。

長く薄暗い通路に出る。

靴音が孤独に響く。

誰よりも自分の現状を理解しようと心がけてきたはずだ。

しかし楓の事に関してはそうではなかったらしい。

何故楓が管理棟から帰ってきたのか、平静にただその理由を聞こうとした。

けれど再び繰り返された以前と同じ日常がこれほど苦しいものだとは思いもよらなかった。

叶わなかった願いに落胆している自分がいた。

どうして帰ってきた

責めたいのは楓か自分か。

見つめた先の楓は驚いた様子だった。

「藤」と名を呼びその腕が持ち上がる。

多分肩に触れようとしたのだろう。

避けたくて咄嗟に蹴りを食らわせてしまった。

短い叫び声を上げ蹴られた脚を押さえている楓に(やりすぎた)とすぐ反省したが謝るなどできない。

背を向け居間に戻るが後ろから楓が文句を言いながらついてきた。

一人になりたくて寝室へ向かうが、当然のようについてくる。

素早く扉を閉めた。

「藤」

扉を叩く音がひとしきり続く。

心配そうな声が聞こえる。

「なあ、どうかした?腹でも痛い?」

いつもこの一つ年下の幼なじみは間の抜けたことを言ってくる。

「どこも痛くない」

普通に声が出せ密かに安堵のため息をもらす。

藤はきっと扉の前で待ち続けるだろう、一人になれたとは言い難い状況だ。

仕方がなく扉を開けた。

足をだらりと伸ばして楓は座っていた。

出てきた藤を見て嬉しそうだ。

黙っているとその中身に合わず剣呑な風貌だが笑顔は人懐っこく幼さが残っている。

これがたった一人でどこかへ行ってしまうような真似をするはずがなかった。

最初からそんな希望は存在しなかったのだ。

「阿呆だな、お前」

罵倒だけが口から出た。

「うん」

気の抜けた顔で楓が素直に頷いた。


通路の終点に着く。

閉まる扉の右横に青白く光る小さな硝子面がある。

藤は袖を捲り手首を硝子面に当てた。

ジジッ、検知器が作動する。

・・トウ・・カ・・ニュウシツ・キョカ・・・

扉が左右へ滑り開く。

目の前に晴れ渡る空とその青を映す水面があった。

水天一碧、空と水面は地平線で交わる。

一歩足を踏み入れると水面が揺れ波が広がった。



まだ続きます

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