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  作者: こここ
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見知らぬ二人

階段が見えた瞬間違和感が体を走る。

目に見える明確な異変はない。

卵形の照明は一つとして欠けるでもなくいつもと同じ飴色の壁を照らしている。

帰還者が有する勘のようなものだ。

今地下に降りてくるとすれば楓しかいない。

舌打ちし藤は昇降機へ飛び乗った。

もう来るなと言ったはずだ。

怒鳴って首根っこ掴んで引きずり出してやる。

八層目の通路終点にある扉はもうすぐそこだ。

息巻く藤が楓の大声で呼ぼうとした扉が開いた瞬間だった。

声を失った。

茫然と室内を見渡す。

飴色の壁には幾つもの配管が絡み合うように這い床は白い人工大理石が敷かれている。

広がる青空と水面の美しい光景は消えていた。

室内の中心には天井まで届く奇妙な機械が鎮座する。

その表面は数々の配管と歯車と計器で覆われている。

かつては水面に大樹が静かに根を下ろしていた場所だ。

誰かの話し声が室内に響く。

「入力してみる?」

「いや、いい」

機械の陰から二人の男が現れた。

黒い上着の男と帽子を被った男、どちらも年の頃は二十代と思しき見覚えのない人物だ。

ただ髪の色は二人とも薄墨色だった。

睨む藤に男達も気付く。

「君がここの担当?ええと、辻川君だったかな」

黒い上着を着た男が話しかけてくる。

森崎からは何も聞いていない、彼女に限って連絡漏れなどあり得ない。

「お前ら誰だ、どうしてここにいる」

藤が警戒心を露わに問いつめると男達は顔を見合わせて笑う。

「帰還者が職場に来ただけじゃないか」

もう一人の帽子を被った男が言う。

「森崎さんからは何も聞いていない、勝手な事をするなっ!」

「森崎?」

黒い上着の男が忌々しそうに顔を歪める。

「同じ帰還者同士、忠告してやるよ。あの女を信用するな」

「出ていけっ!」

もう我慢がならない、一刻も早くこの場から男達を去らせたい。

まだ何か言葉を継ごうとした黒い上着の男に帽子の男が「時間だ」と囁いた。

「もうそんな時間か。ここは感覚が狂うな」

二人は扉へと歩きだした。

黒い上着の男は通りすがり藤の肩を軽く叩く。

藤はその手を払い打とうとしてあっさり避けられてしまった。


その様子に男達はまた笑う。

「くだらない縄張り争いは止めようぜ」

「そうそう。俺達は同じ帰還者、仲間だ」

「またな」

二人は笑いながら去って行った。

一人残った藤は機械の元へ走った。

横へ回り込み緑色の仄かに燐光を放つ硝子面に手を置く。

内部から発した起動音が室内の空気を震わす。

あちこちで計器の針と歯車が動き内側へ収納されていた軽自動車程の大きさの台座がゆっくりと姿を表す。

殻と呼ばれる入力台である。

殻の内部にある座席へ藤は乗り込むと怒りに手を震わせながら盤上を操作する。

前方の画面に表示された数字に素早く目を通しキィを叩く。

再び室内に青空と水面が投影された。

同時に機械も大樹へと姿を変えた。

未だに震えの止まらない手を強く握り締める。

拳を盤上へ叩き込む。

表示が一瞬乱れる。

何度も何度も固く握った拳を打ちつけた。

悔しさと怒りは収まらない。

何故誰かも知らない人間にこの光景を奪われなくてはならないのだ。

「ごめん、雪さん」

藤の謝罪の言葉は誰に聞かれることもなく青空と水面に消えていった。






ちょっとでもまた読みたいと思ってもらえたらいいのですが…。

次も読んでもらえると嬉しいです。

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