王女の世話係
今回は違う視点で書いてみました。次の更新は木曜か、金曜になる予定です。
おはようございます。私は天唄ファームでキングプリンセスを担当する村田です。今回は愛しのプリンセスのお気に入りの牡馬、シキノテイオーについて話したいと思います。
愛しの我がプリンセスの気をひきやが…引く彼はうちの牧場の中でもトップクラス、いえ、トップの有望株だと思います。非常に遺憾な…嬉しいことですが、正直悔しいという気持ちがあります。私はこのプリンセスをうちの一番株として推していきたかったのです。
彼女は父親がキングカメカメハということもあり、非常に期待されて生まれてきました。ディープインパクトがいなければしばらくの間年間リーディングランキングトップを更に続けられたはずの父親でありますし、うちの牧場は方針として、サンデーサイレンス系以外のG1馬を沢山生産したいと考えているので、生まれたときから世話をしている私としては、この馬こそが筆頭株だど考えていました。
彼女が生まれてから時間が経ち、親離れの一環としてやっているとねっこ放牧でシキノテイオーと初めて遭遇…いや、出会いました。
彼を含めて他に10頭以上のとねっこがいましたが、彼はまったく見向きもせず、一人で牧場を走り始めました。ほかのとねっこが追う暇もなく、牧場を駆けていきます。かなり速い。今まで沢山のとねっこを見てきましたが、彼はそのどの馬よりも速いと思ってしまいました。そしていやな感じがしたので、プリンセスに視線を戻しましたが、予感があたってしまいました。彼女が元いた場所におらず、彼の方へと駆けていってしまったのです。
それからはかなりの驚愕の連続でした。プリンセスは行動の端々に賢さや、運動能力の高さが見えます。親ばかではありますが(本当の親ではないですが)、かのダイワスカーレット、ウォッカ、ジェンティルドンナ、ハープスターなどの有名馬を超えていける才能があると思っています。それだけの身体能力を持っていると思っているのです。そのプリンセスが一回もシキノテイオーを抜くことができなかったのです。一回も。彼女が抜こうとすると、彼はギアを上げペースアップします。しかも彼女が追ってきているかどうか見ている素振りまでみせています。
ここで数日前に同僚の同じく親ばかの部類にはいる坂下に言われたことを思い出しました。
「確かにプリンセスちゃんは凄いわねー。いい体格に、長い脚、知的な目。確かに一級になれる素質はあるかもねー。でもね、私の(坂下のじゃないでしょ)テイオーには勝てないわよ?彼は生まれてから20分で立ち上がり、母親もいないのに精神的に安定してるわ。なによりたのとねっこを圧倒する馬格と、将来が期待できる柔らかい筋肉。残念だけど、テイオーには勝てないわよー」
そのときはそんなバカな、と思いスルーしていたがまさか本当とは思っていなかった。プリンセスと走っているときも少しずつ走行フォームが変わっているようにも見える。走りの中でフォームを変える賢さまで持っているのか。本当に驚きだ。
誠に遺憾ながら、放牧が終わったあとのプリンセスのテイオーへの懐き方が凄かった。プリンセス、なんでそんなぽっと出の彼に懐いてるの!私がいるじゃない!
「プリンセス~」
と呼んでみるが、ちらっとこっちを見ただけで、テイオーに引っ付いていたので、私はその場に崩れ落ちた。