皇帝の走り(2)
読んで頂いてありがとうございます。
雪が降り積もる1月、俺は他のとねっこたちと一緒に放牧に出されている。とねっこを親離れさせ、競走馬にする第一歩なのであろうか。それにしても結構とねっこの数多いぞ。ざっと一緒に走っているだけで10馬近くいる。それに加え他のグループが違う場所に放牧されているのでもっと沢山いるな。施設の綺麗さや大きさからなんとなく分かっていたけれど、うちの牧場って結構大きい部類に入るよね。前世でいう○台とかビック○ッツトとかかね?
まあ牧場が大きいに越したことはないけれど、最近とねっこたちと走っていて思うのが、俺いつも先頭なんだけど(笑)というかほかのとねっこたちがひっついてくるんだよ。俺が走ろうとすると皆ついてくるし、俺が昼寝しようとごろんと転がると、一緒になって寝ているんだよね。本気で走らなくても基本的に他のとねっこには負けねえ!!
ボケーとつったていると、鹿毛のとねっこが俺に近づいてきて頭をすりつけてきた。こいついっつもじゃれてくるんだよね。まるで馬版坂下さんだよ。というか、何故俺がいつもとねっこリーダーをやっているかというとだな、こいつに勝ったからなんだよ。
とねっこ同士の放牧がはじまったときに、俺が悠々と走っていたら1頭のとねっこが俺に近づいてきて、横を併走しだしたんだよね。まあ馬の習性でそんなことあったからそんなもんかって思っていたのだけれど、走ってて俺を抜かそうとするんだよ。だから俺もだんだん本気になって走っていて、結局全力で走っていて、最後まで一回も抜かせず走り終えたんだよね。というか汗だくになったわまじで。
それからあいつはずっと俺の後ろ、もしくはちょっと横を走ったりすることがほとんどである。
転生してる俺と張り合うって凄いと思い、厩務員さんの話を盗み聞きしていたら案の定、彼女2013年度サイアーランキング2位のキングカメカメハ産だった。というか俺の記憶が間違ってなければ上位はほとんどサンデーサイレンス系ばっかだった気がする…。余計将来種馬生活がんばらないとね。(意味不明)
今年うちの牧場で生まれたとねっこの中でも有数の優良血統馬であり、期待の牝馬であったらしい。それを打ち破った?ということで坂下さんにとっても褒められた。撫でられまくりである。
そしてどうでも良い情報だが、キンカメ産のあのとねっこは牝馬である。うん、なんでもないんだよ。
まあこんな考察はやめて、また走るか、ということでとねっこを引き連れて疾走を開始しよう。雪が積もっていて寒い今だからこそ走り回って筋肉トレーニングだ皆!少なくとも俺のグループの馬はみんな走ることが好きにしてあげよう!そして皆で重賞以上で勝利しよう!!(無責任)
後ろ足でしっかりと地面を蹴ることを意識して駆ける。見る見るうちにトップスピードにのり白銀の牧場を駆けていく。楽しいなあ…。前世では病没してしまったので、最後はまったく運動できなかったし、最高だぜ。
なんだかんだ色々考えながら走っている。後ろ足でしっかりと地面を蹴る事はもちろんだが、力を入れすぎると後ろ足が跳ね上がり、推進力に無駄が生じるので、前面に押し出すことを考えて走る。そして全身を使って走ること。イメージはかのディープインパクトの走り。何回みても他の馬とは違うあの走りを目指して日々練習である。
全身のバネを使って、意識して走ることで滞空時間が減ると思うんだよね。滞空時間が他の馬より少ないということは、その分だけ歩数が増え、更に全身のバネを使っているので一歩を大きくすることができると思うんだ。そうすれば同じ距離を走っても、スタミナも持つし、足を溜められる。多少速いペースで逃げても、二の足で逃げられるし、先行であれば良いタイミングで早めに抜け出して突き放すことができる。差しならロングスパートをかけられるし、追い込みであればいわゆる鬼脚といわれるレベルまで追い上げることができるのではないか。
まあ素人考えだし、1歳を過ぎて調教が始まって修正されるまではこのやり方でやってみよう、とねっこ相手だけど今まで負けたことはないし、大丈夫だろう。ただし油断は禁物だ。サンデーサイレンス産はときどき化け物クラスの実力を持った馬がでてくるしな。
本人は気づいていないが、彼と同じグループの馬はこのとねっこ時代の意図しない裏特訓の成果かは分からないが、全員が勝ちあがり、全員がOPクラスになり、更に7割の馬が重賞を勝ったという馬鹿げた成績を残すのである。
放牧地をほかのとねっこを引き連れて爆走するシキノテイオーを、坂下が微笑みながら見守っていた。
(やっぱり凄い速い…というか、彼は体の成長が早いから、下手すれば1歳になったとき、一年年上の馬と走っても負けないぐらいの力が身に付きそう。というか、あのキングプリンセス(キンカメ産の牝馬です)を従え、ずっと走り続けているなんて、本当にテイオーの実力ってかなり高い、というか馬鹿げた身体能力をしてるわね)
彼女の頭にはキングカメカメハ、シンボリクリスエス、デイープインパクトなどの過去の名馬のことが思い浮かんでいた。
(彼の走り方が走るごとに洗練されていっているように感じる。力が入っていないように感じるしなやかなフォーム、でも彼が走った後を見てみるとかなり力を入れて蹴っていることが分かる。けれども蹄の損傷もない。体のバランスが良いのね…。本当に将来が楽しみだわ)
日頃ぽややんとして、テイオーを甘やかす彼女であるが、しっかりと見るべきところは見ているのであった。