皇帝の走り
呼んでいただいてありがとうございます。
北海道の大地では梅雨はほぼないといっていい。柔らかな光の受けてすくすく仔馬も育つよ…って俺は育ち過ぎなんだけど!
はい、他の仔馬と比べなぜか一回りほど体が大きいシキノテイオーです。今はちょうど俺が生まれて約三ヶ月が経ちました。相変わらず坂下さんに世話をされながらすくすくと成長しています。そして毎日放牧地を走り回っています。
それにしても走るということがこんなに素晴らしいことだとは自分は思ってなかった。まだ仔馬といえども本気で走ればそれなりの速度が出る。風を切って走るのがこんなに気持ちいいとは思ってなかった。速度も結構でるんだよね。俺は母馬がいないので、いつも坂下さんが見てくれるんだけれども、彼女も俺につきっきりなんだよね。なんか完全に専属って感じ。まあ嬉しいんだけれども。
それはそうと、俺の走る能力って高いみたい。俺が走り回ってるのをみて坂下さんも喜んでいるし、褒めてくれる。適度に筋肉もついてきているみたいで生まれが早い他の仔馬たちよりも立派な馬体だ。
今日もしっかりと牧場を何周かして坂下さんのところに戻ってきて、じゃれつく。
「あら、今日も相変わらず走るの上手だったわよ。偉い偉い。テイオーはこのまましっかりと成長すればよい競走馬になれるはずだわ。ホント楽しみ」
じゃれつく俺を嬉しそうに何度も何度も撫でてくれる。その技は侮れない。彼女はもしかしてナデポ…。いやまあ別に気持ちいから構わないけれども…。
「金田牧場長、どうだね、テイオーは?」
牧場の社長室で金田牧場長と龍田社長が話し込んでいる。
「予想通り素晴らしい素質を持っていますね。何回か牧場を走る姿を見ましたが、バランスがとても良い上に速度が速い。ほかの仔馬に比べお尻の盛り上がりも良い。このまま順調に成長すれば、大柄でパワーのある馬に育つんではないでしょうか?」
「ふむ…。しかし大柄になってしまうと、色々と成長段階で問題が発生することもあるね。それについてはどう思っている?あまりデビューを遅くはしたくないのだ。少なくとも二歳時に重賞を獲らせたいと思っているのだが」
龍田は難しい顔をして金田に引き続き質問をする。実際そうで、大柄な馬は成長しきってない段階で強い調教を行うとソエという病気が発生することがある。これが発生すると調教が数週間遅れることもあるのだ。
「それはこちらとしても考えています。しかし、私が見る限りでは、骨も他の馬よりも固めだと思いますね。将来多少強い調教を行ってもそう簡単にソエにはならないと思います。もちろん、注意して調教は行うつもりではありますが、社長がいう2歳時重賞も充分可能ではと考えています」
「それを聞いて安心した。彼は他の仔馬に比べ頭がかなり良いと聞く。物覚えも良いし、なにより大人しい。この時期の仔馬なんて何をするか分からないところもあるが、見た限り非常に理知的で大人しい。しかし、放牧すると元気に半日は走り回っている。非常に有望だな」
二人は笑みを浮かべながらテイオーの将来のことを話す。本人は彼らにこれほどの期待をかけられているとは知らない。
「そうですね…。テイオーならばG1も狙える可能性が十二分にあるということですね。誰も成し遂げたことがない、凱旋門賞や、BCターフなどが将来狙えるような逸材になって欲しいと思います。その為には僕らも全力をつくさないといけませんね」
本人の知らないところで、彼への期待は高まっていく。