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ジラッフ  作者: 路傍の石
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力の差

 ガイナスは、まずフラーモの国境4方向から数千の兵を差し向け、国内への進入を試みた。フラーモの周囲には数十キロに渡って広大な森林が広がっており、その先にある国境沿いには高さ10メートル程の石壁が立ち並んでいる。これはたった1人のディーヴァによって作られた防壁だった。


 処刑された魔女の主人の情報から、魔力を増大させるフラーモの結界魔法が有効であるのが都の半径3キロ程であることを知っていたガイナスは、とにかく一部でも石壁を破壊し、そこから兵を内部へと潜り込ませる作戦を立てた。


 兵たちが石壁の前まで差し掛かった時、深い青のローブを纏った1人の魔女が姿を現す。ディーヴァと呼ばれる魔女の1人、アメーリア。有する魔力はディーヴァの中でも随一と言われ、前線で国境を守る役目を自らかって出たのも彼女だった。


 装備を整えたガイナスの屈強な戦士たちは、このたった1人の魔女によって、撤退を余儀なくされる。傷つき、疲弊した兵士たちはその印象について聞かれたとき、血の気の退いた真っ青な顔でこう言ったという。


「目の前に突然海が現れて、次々に仲間が飲み込まれていった。矢も、大砲も奴には効かない。神とでも戦っているような、虚ろな時間だった」


 更に驚くべきことは4方向から攻めた兵の全てが、青い眼、青い髪、そして青いローブを纏った魔女を目撃しているという事実だった。結界の外であっても一騎当千の力を持つ魔女が存在する、これはガイナスにとっては大きな驚異だった。


 ガイナス側の被害は死者と怪我人合わせて1200強、それに対しフラーモ側は死者どころか、怪我人さえ出すことなくガイナスの兵を短時間で圧倒した。


 アメーリアが前線で敵をくい止めている間、フラーモの都の中央に位置する大聖堂ではディーヴァ6人が集結し、戦況についての会議が行われていた。

この時まだ14歳だったリューイも、兄であるシュリに連れられ、見習いとしてその場に居合わせている。


「アメーリア1人で頑張っているみたいですね。実力は申し分ないですが、彼女は少し自信家過ぎます。そろそろ我々も動いたほうが良いでしょう」


 口を開いたのは土色の瞳を持つディーヴァ、エリザベス。その表情は妙に楽しそうだった。円卓を中央に6人が向かい合うように座っており、燭台に灯ったオレンジの光が、それぞれの顔を薄く闇に浮かび上がらせた。


「6人しか集まらないのね。どこかの非国民はこんな時にもやってきやしない。ディーヴァの役目を忘れたか」


 真紅の瞳を持つディーヴァ、サクヤが苛立ちを隠せない様子で銀のグラスから水を口に運んだ後、気付いたように部屋の隅で立ったままのリューイに視線を向けた。


「失礼、7人だったわね」

「こいつは人数に入らん。14で延焼魔法も使えん屑だ」


 黄色の瞳を持つディーヴァ、シュリが言い放つと、燭台の炎が一瞬より激しく燃え上がった。表情にさえ見せないが、リューイは兄への敵意を少しも隠そうとしていない。


「リューイ、安い挑発に乗るんじゃない。成長しないよ」


 サクヤが静かな口調でたしなめると、少し間を置いてリューイはふっと体から力を抜いた。


「おい、どうでもいいんだよそんな話は。さっさとガイナスの奴ら潰そうぜ」


 シュリと同じ、男のディーヴァであるジャンクスが円卓を乱暴に叩くと、鋭い音とともに一筋の亀裂が走った。その上を滑るようにして、掌程の大きさのつむじ風が巻き起こる。風の精霊の加護を受けた彼の特性だった。瞳の色は極めて薄い緑色をしている。


「そうですね、話を進めましょう。グリゼルダ、お願いします」

「はい」


 エリザベスが促すと、隣に座っていた純白のローブを纏う美しいディーヴァが、ゆっくりと立ち上がった。その動作は艶やかで品があり、瞳は見るものの心を映し出すような、濁りの無い白色をしていた。


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