7.やまない雨
どしゃ降りの中、クオンは佇んでいた。
普段なら肌に纏わり付く髪や衣服が煩わしく感じられただろう。
だが今はそんなどうでもいいことは考えられなかった。
何故なら―――ハロルドが死んでいたから。
前回、ルルの別れをハロルドと見送ったのが2日前。
そして今日、ルルを見送った扉の前にクオンがなんの気なしに足を運んだらハロルドが仰向けに倒れていた。
ハロルドの傍らには空になった注射器が転がっている。
ハロルドの左胸には短剣が深々と刺さり、溢れ出た鮮血が雨と混合し地面を鮮やかに染め上げていた。
触れて生死を確認するまでもなかった。
顔に生気が感じられず蒼白かったから。
どしゃ降りの中、どれくらい佇んでいたのか分からない。
クオンは無表情で、涙を流すこともしない。
哀しいのに……
クオンが微動だにせずハロルドを見つめていると、背後で水が弾ける音が聴こえた。
おもむろに振り返れば、そこにジゼルがいる。
深遠の哀しみを湛え、もう動かなくなったハロルドを見つめている。
「……ハロルドの奴、逝っちまったんだね」
「……うん」
「これでよかったのかね……」
「……ハロルドが望んだことだから。
でも……いなくなるのは寂しいね……」
「……そうだね」
雨音にかき消されそうな2人の声音。
雨のせいで泣いているのかどうかさえも曖昧な2人の姿。
羅刹の苦しみから解放されたハロルドは、きっと最期の瞬間までルルを想っていたことだろう。
静かに眠るハロルドは幸せそうに微笑んでいるように見えた―――――