14.最後のクエストへ
夜行列車で第4地区に移動するクオンとリュウセイ。
第1地区から第4地区までは夜行列車で一晩掛かる距離、到着するのは明日の早朝だ。
個室寝台付きの部屋の車窓から暗闇の中で煌めくネオンを眺める2人。
クエスト中に消費する金銭は全てグラディスが工面してくれることになっているため、金銭に関しての懸念はない。
向かい合わせに座席に座る2人、不意にリュウセイが開口する。
「グラディスは死んだお前の母親を捜せって言ってただろ。
こんなこと聞いていいのか分からないが、お前の母親はなんで死んだんだ?」
「……分からない」
「分からない?」
「うん。
研究施設に入れられる前のことはほとんど覚えてない。
私は羅刹にされてすぐ研究施設とは別の場所にいた。
記憶は曖昧だけど、たぶんどこかの屋敷だったと思う。
柔らかいベッドの上で目覚め、私を取り囲むように白衣を着た人たちがいたのを覚えてる。
それが私が覚えてる1番古い記憶。
目覚めてから数日後には研究施設に入れられて、約百年間過ごした。
だから母親のことなんて全然覚えてない」
「……母親に会いたいか?」
「……考えたことなかった。
でも……私を産んでくれた母だから、どんな人だったんだろうって思うよ」
母親という存在を気に留めたこともなかったクオンだが、1度考えてしまえばふつふつと焦がれていく気持ちが実感出来る。
クオンに命を与え育ててくれた人、母親へ芽生えたまだ新芽のような幼い想いを抱きながら、クオンは流れゆく景色を見つめた。
まともに監獄の外に出ることが初めてのクオンにとって、世界に在るもの全てが新鮮で高揚する気持ちを止められず、不謹慎と思いつつもクエスト遂行中という状況を頭の片隅に追いやり思わず列車内の散策に出発した。
真夜中だというのに、結構な人数の乗客と擦れ違う。
擦れ違う乗客全員が笑顔を咲かせ、声を弾ませているのを見ると、傍観しているクオンにまで笑顔が伝染してしまう。
―――しばらく散策を続けていると、前方でスーツとサングラスを着用した2人の男がクオンに視線を向けながら言葉を交わし合っていた。
サングラスの奥から注がれる射るような視線にクオンの身体がおののき、警鐘を鳴らす。
緊迫した空気の中に仄かに漂っているのは殺意だ。
クオンは間合いを詰めて来る男たちから踵を返すと、一目散に駆け出した。
背後を振り返る余裕などないが、2つの粗暴な足音がクオンの耳には確かに届いている。
彼らの正体なら察しが付く、おそらく武装集団か貴族のSPのどちらかだろう。
服装から察するにSPでほぼ断定だ。
クオンを狩りに来たのだろう。
ふと、クオンは思う。
このクエストに参加しているのはクオンだけではない、リュウセイだって参加している。
とすれば、リュウセイだって狩られる可能性を否定出来ない。
嫌な予感がしたクオンは一刻も早くリュウセイがいる個室に駆け付けようと走る速度を上げた―――だがその時、男たちが発砲した銃弾がクオンの肩口に命中した。
バランスを崩し転倒しそうになる足を奮い立たせ、クオンは何事もなかったかのように走り続けた。
周囲に人がいなかったのが幸いだった。
もし人がいたら、巻き添えを食っていたことだろう。
彼らは平気で殺人を犯すのだから。
男たちをなかなか撒くことが出来ないクオンは、個室寝台がある車両に駆け込み、1室に逃げ込んだ。
だが逃げ込んだ先には1人の老婆がおり、ノックもせずに入室して来たクオンを怪訝な眼差しで見つめた。
「あら、あなた何か御用?
あらあら、大変!
怪我をしているじゃない!
一体どうしたの!?」
「あの、私……」
「さあさあ、こちらへいらっしゃい。
手当をしなくちゃ」
「私は大丈夫……」
「駄目よ!
女の子なんだから、身体に傷でも残ったら大変!」
老婆はクオンに口を開く猶予すら与えず、強引に引き寄せ、手当てをしようと試みた時、廊下が騒々しいことに気付いた。
蒼白していくクオンを見つめ老婆は何かを察し―――
1室1室丹念に調べて行く2人の男。
そしてついにクオンが逃げ込んだ個室が開け放たれた―――が、そこにクオンの姿はなく、老婆がいるだけだ。
「おい、ここに赤い目の女が来なかったか?」
「いいえ、来てないけど……」
白を切る老婆。
当のクオンは老婆に促され、ベッドの下に身を潜めていた。
強張った面持ちで嵐が過ぎ去るのを待つクオン。
ふと、男たちがあることに気付く。
ベッドの側にほんの微量だが血痕が落ちていたのだ。
男たちは互いに顔を見合わせると銃口を老婆に向けた。
「女を出せ。
隠し立てすると貴様の命はないぞ」
「無粋な連中ね、こんな年寄りを脅すなんて」
「脅しじゃない、俺たちは本気だ」
「悪いけど、可愛い女の子を売るようなことが出来るほど私は非情じゃないの」
2人の男は毅然と答える老婆を冷徹に見据えると、そのうちの1人がリボルバーを構え、発砲した。
バスッ、と乾いた音が響き渡ると銃弾は老婆の左胸に命中し、床に崩れ落ちた。
ベッドの下に隠れるクオンから老婆の姿が鮮烈に窺える。
優しげにクオンを見つめてくれた目元はもう細められることがなく、瞳孔は見開かれたままだ。
左胸からとめどなく鮮血が流れ出していく。
自分に関わったばかりに優しかった人を死なせてしまった。
罪悪感と後悔が荒波の如くクオンを襲ったその時、ベッドの下から引きずり出され、床に組み伏せられた。
男たちは抵抗する猶予さえ与えてはくれず、クオンに銃口を押し当てると額を撃ち抜いた―――
暗がりに沈んでいた意識が浮遊し、クオンが目覚める。
初めに視界に映り込んだのは殺された老婆の姿。
ぼんやりとした頭に先刻の出来事が蘇える。
額を撃ち抜かれたはずなのに痛みがないのは少しばかり時間が経過し、傷が治癒したのだろう、とクオンは推測する。
ふと、ある違和感に気付く。
手足を動かそうにも思うように動いてくれないのだ。
手足に食い込む痛みにクオンが視線を向ければ、縄で縛り上げられているではないか。
もがくクオンだがきつく縛り上げられているせいで緩んでもくれない。
諦め悪く縄と奮闘すること数分、前触れもなく真っ白なスーツを着用した長身の男とSPと思われる5人の男が入室して来た。
その中には先刻クオンを追い回した2人の男の姿も確認出来る。
「目覚めたようだね」
「……君は貴族?」
「そうだよ。
君たちを狩りに来たんだ。
監獄の外でクエストが催されるなんて初めてのことでね、気分が高揚してるんだ」
「……この縄をほどいて―――」
そう言った直後、クオンの身体に異変が現れた。
引きつれるような胃の痛みと激しい喉の渇き―――飢餓感。
瞬く間に吹き出てくる脂汗、クオンは飢餓感に苛まれ、寝返りを打つように床を転げ回った。
「ん? 腹が減ったのか?
そうだ、いいこと思い付いた!」
貴族は長身には似つかわしくない無邪気な笑顔を浮かべると、意識が朦朧とするクオンをとある場所へと連行した。
クオンが車内の散策に出掛けてから30分が経過する。
クエスト遂行中という状況だ、引き留めたにも関わらず、クオンは頑としてリュウセイの言葉に聞く耳を持たなかった。
まともに監獄の外に出ることが初めてだというクオンの気持ちを尊重し見送ったものの、やはり引き留めておくべきだったとリュウセイは密かに後悔していた。
特にすることもなく窓の外の暗闇を眺めていると、不意にドアがノックされた。
「はい」
リュウセイは声を返すが、ドアが開く気配はない。
リュウセイが眉を潜めドアに手を伸ばすと、唐突に開け放たれ、男が剣を片手に襲い掛かって来た。
「っ!?」
咄嗟に発揮した瞬発力で右腕を浅く斬り付けられただけで済んだが、予想だにしなかった出来事にリュウセイはひどく動揺した。
動揺を払拭するように生唾を呑み込み2振りのダガーを手に取ると、漆黒のスーツを着用した男を睨み付けた。
その瞬間、男はリュウセイ目掛け剣を振るった。
何度も何度も、ひたすらに剣を振るうその様は狂乱者のようにも見える。
リュウセイは振るわれる刃を2振りのダガーで器用に受け流していく。
一際大きく振るわれた刃を2振りのダガーをクロスさせることで受け止めた―――が、男はなかなか仕留められない焦燥感からか、思い切りリュウセイを蹴り飛ばした。
1振りのダガーが手から零れ落ち、蹴り飛ばされたことでリュウセイは後背の窓に勢いよく激突し、衝撃で窓ガラスが割れた。
咳き込むリュウセイに戦闘態勢を整える猶予さえ与えず、男はこれが最後と言わんばかりの形相で剣を振りかざす。
しかしリュウセイだってここで死ぬわけにはいかない。
背中を駆け巡る激痛に崩れ落ちそうになる身体を気合いだけで奮い立たせると、ダガーを男の太腿に突き立てた。
「ぐあああっ!!」
悲鳴を上げ、男は剣を取り落とした。
リュウセイはその隙を突き、男の首根っこを乱雑に掴むと、割れて狂気を剥き出しにする鋭利な窓ガラスに男の喉仏を押し当てた。
「退かないと死ぬぞ」
腹の底にずしっと響くような低音に男がおののく。
ここで屈服すれば楽になれるというのに、男に楽になるという選択肢は存在しないらしく、嘲笑してみせた。
「死ぬのはお前だ」
男がそう言い捨てた直後、リュウセイのみぞおちを肘で突き、身体の自由を取り戻す。
だがその時機体が激しく揺れ、身体の自由を取り戻したせいで支えがなくなった男の喉仏は無惨にも窓ガラスに引き裂かれることとなってしまった。
ぐったりと脱力し、窓ガラスに引き裂かれた男の首は機体の振動で今にも引き千切れそうなほどぐらついている。
リュウセイはせり上げてくる吐き気を呑み込むように男から目を逸らした。
その時、再びドアがノックされた。
もしドアの向こうにいるのがクオンじゃなかったら騒ぎになるのは一目瞭然だ。
リュウセイが開けることを躊躇っていると、勢いよくドアが開け放たれ、銃を構えたSPが一斉になだれ込んで来た。
次いで貴族の男と、腕を縛られたクオンが入室して来たのを目にしたリュウセイは険しい顔で男を見据えた。
貴族の男は室内の惨状を理解した途端、愉悦に浸るように微笑んでみせる。
「私のSPを随分面白い殺し方をしたものだね」
「……俺が殺したんじゃない。
そいつが勝手に死んだんだ」
「ふーん、まあどうでもいいけどね。
替え玉ならいくらでもいるし。
そんなことより面白いことを考えたんだ」
「お前たちいかれた貴族のいかれた考えなんか聞きたくもない」
「まあそう言わないでよ。
この子、今飢餓状態に陥ってるんだ。
まだ少し理性はあるけど、そのうち理性をなくし人間を食べるために襲うだろうね。
そんなことになったら車内はパニックになっちゃうでしょ?
そこで、この子と君をここに閉じ込めたらこの子は君を食べるしかなくなっちゃうと思うんだよねぇ。
そうなったら犠牲者は君1人で済むわけだし。
どう? 名案だと思わない?」
「……どこまでも狂ってやがるな」
怒りを湛えた言葉を聞いた貴族は口端をつり上げ、不敵な笑みを浮かべた。
「さあ、2人を残して僕たちは外に出てようか。
この子の縄をほどいてあげて」
SPはクオンの縄をほどくと貴族と共に退出して行った。
この部屋から脱出しようとリュウセイはドアを開けようと試みるが、押しても引いてもびくともしない。
外からSPがドアを押さえ付けているせいだ。
「くそっ……」
焦燥感を剥き出しにし吐き捨てた時、背後から不穏な気配がリュウセイに纏わり付いてきた。
恐る恐る振り向けば、理性を失い、リュウセイをただの餌としか見ていないような無情な眼差しを宿したクオンがいる。
恐怖からリュウセイは粟立ち、必然的に後退しようと後ずさったが、背中がドアにぶつかり阻まれてしまう。
リュウセイの額に冷や汗が滲み、クオンが舌なめずりをした瞬間、クオンがリュウセイに襲い掛かった。
―――一方の貴族はドアの前に佇み、じきに聞こえてくると予想出来る悲鳴に耳をすまし、気分を高揚させていた。
だが高揚した気分は一瞬にして鎮圧されることになる。
胸ポケットの携帯電話が着信を知らせると、貴族は不機嫌な顔になり電話に出た。
語気を僅かに荒げながら通話を終了した貴族は盛大な溜息をついた。
「急な仕事が入り、至急屋敷へ戻らなければならなくなった。
これからが面白いところなのに、残念なことだね。
帰ろう。次の駅で降りるぞ」
貴族はクオンとリュウセイを放置すると、SPを伴い重い足取りでその場をあとにした。
―――浅く噛み付かれた腕の肉が僅かに喰い千切られると同時にリュウセイはクオンを突っぱねた。
クオンの口端からリュウセイの鮮血が滴り異彩の雰囲気を抱かせると、リュウセイが寄り掛かっていたドアが唐突に開け放たれた。
後背に倒れ込むリュウセイの目に飛び込んできたのはキャスケットを深く被り、拳銃を構える青年の姿。
青年は動じる様子など微塵も窺わせずにクオンと対峙すると、襲い来るクオンに発砲した。
消音式の銃のせいか銃声はほとんど鳴らずに済み、銃弾を額に撃ち込まれたクオンは前のめりに倒れた。
「危なかったっすね旦那。
大丈夫っすか?」
「―――シーザー……?」
じんべえのようなラフな衣服を纏った銀色の髪に糸目の青年シーザーはリュウセイに笑いかけた。
「お前、なんでここに……」
「やだな~、あっしは情報屋っすよ?
全世界どこにでも現れ、情報収集するのが仕事っす。
以前あっしから情報買ってくれたじゃないっすか。
第4地区に移動中に旦那に会うとは思ってませんでしたよ。
何やら隣の部屋が騒がしいと思って見に来てみれば、黒スーツを着た怪しい奴らが旦那の部屋から出て来るもんで、こりゃただ事じゃないと思って見に来たんす。
もしかしたら情報が手に入るかもしれませんからね。
そしたら誰かが襲われてるじゃないっすか。
しかも襲われてるのが旦那で、相手があの羅刹の子だったんで、何とかしなきゃと思って発砲したんす」
「お前、こいつが羅刹だって知ってたんだな」
「情報屋の情報を甘く見ないで下さいよ~」
「とにかく助かった。
だが、頭を撃ち抜くなんて少しやりすぎだ」
「羅刹に手抜きは許されません。
そんな甘いこと言ってたら殺されますよ?
現に今殺されかけてたじゃないっすか。
知ってますよ、旦那が監獄に入れられてから彼女と行動してたこと。
なんで彼女が監獄の外にいるかは知りませんが、彼女は羅刹っす。
人間を喰うんすよ?
あんまり信用するのもどうかと思いますけどね」
「……余計なお世話だ」
「これでも旦那とは顔見知りなんで心配して言ってるんすよ。
とりあえず、外に出ましょう。
彼女が起きたらまた襲われちまいますよ」
厳しい言葉にリュウセイは何も言い返すことが出来ず、沈黙したままシーザーのあとを追い、外へ出た。
―――2人が退室してすぐクオンの目が覚める。
額を撃ち抜かれ、頭部に耐えがたい激痛が走るが、今はそれよりも飢餓感のほうが辛い。
クオンが上体を起こすと、ドアをノックする軽快な音が響いた。
「クオン、目が覚めたのか?」
「リュウセイ……?」
「腹減ってんだろ?
そこに死体があるからそいつを食っとけ。
俺、隣の部屋にいるから食い終わったら来いよ」
リュウセイはドア越しにそれだけ言うと隣の個室へと戻って行った。
クオンは喉の奥に張り付く血の味に身震いする。
先刻の出来事がフラッシュバックし、自分自身に嫌悪感を覚える。
浮かない顔でのろのろと先刻リュウセイと戦闘を繰り広げた死体に近寄ったクオンは、無心に死体を貪った。
―――身体中にこびり付く死臭を不快に思いながらクオンは隣の個室に入った。
座席に座っていたのはリュウセイともう1人、クオンが知らない青年シーザー
シーザーを見つめ僅かに目を見開くクオンをリュウセイが座るよう促すと、クオンはシーザーの真正面、リュウセイの隣に着座した。
「リュウセイ、彼は?」
「こいつは情報屋だ。
金さえ払えばどんな情報でも売ってくれる。
ただ、こいつは客を選ぶけどな」
開いているのかいないのか判別もつかないような細い目がクオンを見つめると、人懐こい笑みを浮かべて開口する。
「お嬢さんのことはよく存じ上げてるっす。
あっしら情報屋は大抵の羅刹のことは把握してますんで。
―――さて、もうじき第4地区の駅に到着しますけど、到着したらちゃちゃっと降りたほうがいいっすよ。
今んとこさっきの騒動がばれてないみたいっすけど、到着したらすぐに気付かれると思いますんで」
シーザーの機転の利いた提案に2人が頷く。
ぺらぺらと饒舌に多種多様な話題を持ち掛けてくるシーザーとクエスト遂行中という状況も忘れて談笑していると、やがて第4地区の駅に到着し、3人はすぐさま下車した。
騒ぎが起こる前に駅から脱出した3人は、路地裏に続く入口で足を止めた。
「なあシーザー、ちょっと頼みがあるんだが……」
「なんすか?」
「俺たちがクエスト中なのは話したろ?
貴族共は何か仕掛けてくるってグラディス・クロフォードは言ってた。
現に列車内でも仕掛けてきた。
必ず今後も仕掛けてくるだろう。
そこでだ、少しでも貴族共の行動が把握出来るよう奴らの近辺を調べてほしい」
「また難題をふっかけてきたっすね~。
下手したらあっしが殺されちまいますよ」
「無理を言ってるのは承知だ。
だが、こんなことお前にしか頼めない。
これでもお前のことは信頼してるんだ」
「褒めても何も出ないっすよ?」
シーザーは頬を紅潮させ、まんざらでもないように笑ってみせ、しばらく難しい顔で思案した。
「旦那に頼まれちゃ断れないっす。
ただし、報酬は高くつくっすよ?」
「ああ、金ならいくらでもある。
クロフォード公爵の金だけどな」
「頂ければなんでもいいっすよ。
あ、これ携帯電話っす。
何か情報を掴んだら連絡するんで。
それじゃあ、あっしはここで失礼するっす」
軽快な口調でそう告げたシーザーは颯爽と朝もや満ちる団地が密集する住宅街へと去って行った。
「俺たちも行こう」
「うん」
2人ははグラディスから受け取った地図を広げながら屋敷がある方角を見据えると、緊張した面持ちで歩んで行った―――――




