番外編 水溜りの神様
真っ白な塵一つない地面に
ポツンと一つ小さな50cm程の水溜りが在った。
そんな小さな水溜りに男が一人、顔を突っ込む寸前な体勢で
水溜りの中を覗き込んでいる・・
いい大人が水溜りの中を覗き込む・・
中々シュールな光景であった。
「くくくっ・・」
男が思わずといった風に笑う
男が覗き込む水溜りの中では、まだ幼い黒竜と黒服が戦っているのが写っている。
「うん、やっぱりコイツを選んだ俺の判断に間違いない、面白いよ」
ニヤニヤした表情で笑う男は、黒竜を見つめた
水溜りに写る黒竜は、何やら必死な形相の男の技に少々押され始める
「おっと、ちょっと危険な展開だ」
男は、楽しげに水面を見詰めていたものの
少々思いつめる表情をした後
「うん、そうだな助けてやるか折角この俺じきじきに魂を今の体に導いてやったんだ
この程度の小物に倒されるなんて俺の手間暇かけたことが無駄になっちまう」
その瞬間、男は水溜りに手を翳す
すると水溜りの中では、黒竜の周囲が瞬時に凍りつき
黒服は死に至るような致命傷を負う、黒竜はソレを呆然と見ていた。
「どーよ、“氷竜の豪雪”なかなかの威力だろ?
お前の為に作ってやったんだ感謝しろよ」
聞こえている筈もないのに男は一人楽しげに笑いながら
呆然とする黒竜に言った。
「でも、流石にスキルLv〔+10〕の効果はやり過ぎたかな?
・・・まぁ、いいかどうせコイツには、もっと俺を楽しませる義務があるんだ
コレからもっと大変な事が沢山あるからな、多少の餞別位はいいだろう」
男が、ニヤニヤしながら言っている間にも水溜りの中の彼らの物語は進んでいく・・
黒竜の傍では黒服の一人が致命傷を負った黒服を庇っていた。
「ん~こいつ等はどうでもいいが、何時か贈ろうと思っていたし今でいいか
予行練習だ、“治療”のスキルも与えてやるか」
せいぜい頑張って治療してみろとばかりに
男は、笑って黒竜に新たなスキルを与える、そして
無事に治療を終えた黒竜を見届けると突然
まるで飽きたかのように無表情になり大きく欠伸をした。
「あぁ、つまらん・・・もう終わりか・・
・・・もっと楽しい事が起こらないものか?」
男は一言そう言うとダルそうに起き上がり、ゆっくりと水溜りから歩き出す。
男は歩きながらつまらなそうに周りを見渡した。
「つまらないつまらない・・・あぁ、誰か・・何か・・面白い事が起こらないのか?」
ぼんやりと視線を中に漂わせる男の周りにある
水溜りは、先ほどの水溜り一つだけでは決してなかった。
何十・・何百・・何千・・何億・・その数は数え切れないほど存在し
ただ真っ白な空間に水溜りの青だけが不気味な程に密集していた。
男は、暫しその場に留まり何をする事無くただ佇んでいたが
ふと男からそう遠くない水溜りが薄っすらと赤く濁る・・
ソレを見た男はまるで苦虫を噛んだ様な顔をする
「何だ・・もう滅ぶのか案外早かったな・・」
ボソッと呟き、赤く濁った水溜りに近づき中を覗く・・・
するとその中は、ただ地獄が広がっていた。
緑も水も見当たらないただ荒廃した大地を埋め尽くすほどの死体が転がる・・
老若男女その種族もバラバラな死体は、どれもが苦痛に顔を歪ませていた。
するとその死体の中に何かキラリと光るものを見つける
キラリと光を受けて反射するモノ・・・・それは小さなナイフだった。
小さなナイフだけではない、よく目を凝らせば凝らす程
生き物を殺害する事を目的としたとしか思えないような武器が
死体の隙間から死体と同じように大地を覆っている。
「戦争の後に全てが滅んだか・・・愚かだな・・」
男は覚めた目で大地を見つめていた・・・すると、ふと大地に動くものを見つける
死体に埋もれながらも必死に動くそれは、まだ幼い小さな女の子であった。
女の子は血塗れになりながらも必死に死体を掻き分け、両手を組んで空を見上げた
「神様・・お願いです。助けてください助けてください助けてくださ・・・」
只ひたすら、神へと祈る少女だが、その目はどんよりと濁り
口に出す言葉もどこか空ろで自分が何を言っているのか理解しているのかも
怪しいと感じてしまうようなそんな様子だった。
男は少女を見て小さく微笑むと小さく
「ごめんな助けてはやれないんだ」と言った。
すると聞こえている筈もないのに少女は突如、声に出すのを止めて
ぼんやりと空を見上げる・・そして、静か小さく笑って倒れた。
男は、その様子をみて悲しそうに微笑んだ
「せめて、次生まれ変わったら幸せになるように俺は望むよ」
男は、そう言って赤い水溜りから離れる
こうして次の水溜りへと歩く男・・・否、神様は小さく微笑んだ
「こんなにも世界があるんだから早く誰か俺に会いに来てくれよ・・」
もう神様で居る事に疲れた・・・
もう一人でいることは辛い・・・
神様は小さく呟いた。
この数え切れないほど存在する世界に神はたった一人だけ
水溜りとただ白い空間が延々と続くこの場所で
水溜りをみて力を貸すことしか出来ない神様は
何時か自分と一緒に居てくれる存在を待ち続ける
もしかしたら、自分もあの黒竜や少女と同じように
数え切れないほどの水溜りの中の一つのような存在でしかないのかもしれないと
自虐的に悲しそうに微笑みながら・・・・・・・・
ただ神様はソコに佇み続けた・・・・・・・
以下、話が良く分からなかった人への補足
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〔水溜りの神様〕
神様は、水溜りの中の世界に干渉する事ができる
ちょっと特殊な生きても死んでもいない人です
黒竜な主人公の事も元々は、一人で居る事に尾飽きた
神様の暇を持て余した末の遊びの一つでしかありません
簡単に言えば暇つぶしです。
ので、黒竜の行動を見ながらニヤニヤしてます
また、黒竜の行動に大きく手を貸したりもしています
でも神様も万能ではなく水溜りに干渉出来る場合と出来ない場合が在ります
それが、戦争のあった世界の少女のお話です。
主人公の場合は干渉できても少女の場合は干渉できない
神様の理解できない事情が在ります
また、神様はこの広い世界でずっと一人ボッチです
でも水溜りの世界から多くの人が楽しむ姿を眺めているので
一人淋しくこの場所に居る事に疲れてきてしまっている
そんな神様のお話でした。