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エピソード9 秘密

Episode9

登場人物

加地 伊織:主人公

吾妻 碧:本物

レイチェル:人間


一体此処は何処なんだろう。 一体何が起こっているのだろう。  見知らぬ国、見知らぬ村、見知らぬ屋敷の部屋で、伊織は碧を抱きしめていた。 良く知っているはずのその幼馴染みが良く分からない事を言って困らせる。 何で碧が一人きりでこんな所に残らなければならないと言うのだ。 どうして碧がそんな事を望む理由があると言うのだ。



混乱の淵に立つ伊織の目の前に、何時の間にか、いつか見た女が立っていた。


レイチェル:「イオリ、アズマを責めるな。」

伊織:「お前…」


レイチェルの眼差しは驚くほど穏やかだった。 それはとても敵に対して向けられる表情とは思えない。



レイチェル:「アズマはアズマなりに一生懸命悩んで決断したのだ。」

伊織:「それが何で日本に帰らないって事になるんだよ。」


伊織、立ち上がりレイチェルに詰め寄る

アリスター、立ちはだかって伊織を床に叩き臥せる

レイチェル、静かに伊織を見下ろす


レイチェル:「お前にも知っておいてもらいたい事があるのだ。 その為に此処に来てもらった。 お前がイアンと対峙する前にな。」


伊織、這い立ち上がりレイチェルを睨みつける


伊織:「何が言いたいんだ。」



レイチェル、静かにソファに腰を下ろす。


レイチェル:「聖霊と人間の関係についてだ。」

レイチェル:「ああ、お前たちは聖獣と呼んでいるのだったな。」



レイチェル、真直ぐに伊織の目を見て話し始める


レイチェル:「私が知る限り聖霊に関わる人間は大きく分けて3種類存在している。。」

レイチェル:「一つ目はサニワ、二つ目はヨリマシ、三つ目はトモガラだ。」

伊織:「よりまし? ともがら? 一体何のことだ?」


伊織、未だ腹の虫が納まらないからまともに話が耳に入らない


レイチェル:「分かりやすい日本語を選んだつもりなんだがな…。」



レイチェル:「サニワと言うのは、アリスターの父親や「さりな」の様な存在だ。 聖霊と交信し、聖霊の命令を解釈する人間だ。」


レイチェル:「ヨリマシと言うのは、イアンやアズマの様な存在だ。 聖霊と契約し聖霊の肉となる人間だ。」


レイチェル:「トモガラと言うのは、私やお前の様な存在だ。 聖霊と寄り添い共に行動する人間だ。」





レイチェル:「最初聖霊は卵の様な形で世界に保存されている。 神の戦争が近づくと、それぞれがサニワと交信して自らをヨリマシの元へと導かせる。」

レイチェル:「やがてサニワの導きによってヨリマシと契約した聖霊の卵は、ヨリマシの血肉に溶け込んで一体となる。」


伊織、日本語なのに付いていけない

伊織:「ちょっと待ってくれ。 ヨリマシの血肉と一体になるって…つまりどういう事だ? 憑依の事を言ってるのか?」


レイチェル:「聖霊はヨリマシの肉体と精神を肥やしとして自らを孵化させるのだ。」


伊織:「肥やし?」


レイチェル:「聖霊は人間の肉体をこの世界に干渉する為の拠り所としておる。 陰陽道で言うところの「式神」みたいなものだな。 その為に肉体を生かし続け、傷つけば修復もする。 肉の記憶は聖霊と一体化しており聖霊が死なない限り肉体は何度でも復活させる事が可能だ。」


レイチェル:「一方で元の人間の精神は、聖霊に喰らわれ取って代わられる。」


レイチェル:「別の言い方をすれば、ヨリマシの精神は聖霊の幼虫の餌になり、肉体は乗っ取られると言う事だ。」


レイチェル:「まあ、一種のパラサイトだな。」



伊織、やはり付いていけない。

伊織:「待て、まて、…誰が、誰に食われるって? 涼子達が聖獣に食われるって言ってるのか。 嘘だろ。」


レイチェル:「既にイアンやキースの精神は聖霊に食われて取って代わられている。 今や彼らは元の人間だったイアンやキースとは違うモノなのだ。」


レイチェル、付いて来れない伊織をそのままにして話を続ける


レイチェル:「アズマも、いずれは青龍に全て取って代わられる。」

レイチェル:「だからアズマは、もう一体の自分を作って日本に送ったのだ。 全て同じ肉体、記憶を持った完全な自分の身代わりだ。 青龍にはそれが出来るからな。」

レイチェル:「それで、家族や友人は哀しまずに済む。」


レイチェル:「まあ、それも「神の戦争」が始まるまでの話だがな。」



伊織、過呼吸、知恵熱、膝をつく。


伊織:「家族や友人は哀しまずに済むって、そんなの本人はどうするんだよ。」

伊織:「それに、碧の身代わりだって言うなら、どうして6月に俺と再会してからの記憶を消したんだ。」


碧、呟く


碧:「だって、そんな記憶もってたら辛いに決まってるじゃない。 自分がこうしなければならなかった事を知っているなんて、耐えられると思うの?」


碧:「それに、…あんたとの想い出は私だけのもんだから…」



伊織、信じられないと言った目で碧を睨みつける


伊織:「だったら、俺はお前を助けるよ!」


伊織、狂った確信で碧の奥に潜む青龍を恫喝する


伊織:「此処に居るお前を助ける。 何があってもお前を見放さない。 何か方法があるはずだ。 お前が居なくなってしまわずに済む方法があるはずだ。」



レイチェル、無表情のまま


レイチェル:「カジイオリ。 私は止めんよ…人間だからな。」

レイチェル:「青龍がどう考えるかは分からんが、足掻くと言うのならやって見るが良い。 それが、お前や私の様なトモガラの役目なんだと今になって思う。 私には出来なかったがな。」


レイチェル:「聖霊達は、自分達が人間よりも上等な存在だと思っている。」


レイチェル:「彼らは私やお前の様な存在、トモガラの命令には良く従う。 どうやらそれが彼らのルールらしい。 しかしあくまでも下等な人間に自ら甘んじて従っているという風だがな。」


レイチェル:「恐らくイアン達はお前の企てを阻止しようとするだろう。 イアンの狙いはヴァーハナとの戦いに備えて五行の聖獣を味方に引き入れることだ。 人間など端から相手にしておらん。」


レイチェル:「最初イアンはお前を聖霊から引き離そうと考えていたようだ。 代わりにもっとふさわしい扱いやすい人間をトモガラに挿げ替え様と考えていたらしい。」


レイチェル:「しかし青龍がお前を死から蘇らせた時点でお前は確固たるトモガラの地位を確立していたのだ。 だから今の彼らの狙いはカジイオリ、お前だ。」


レイチェル:「イアンはお前を凋落し洗脳しようと画策してくるだろう。 恐らく二度と再び人間的な生き方が出来ないまでにお前を解体し、彼らに従順し生きながらえるだけの存在に作り変えようとしてくるだろう。」


レイチェル:「お前が此処に来る事は既にイアンの計画なのだ。」


レイチェル:「彼らを止める事は容易ではないぞ。」



レイチェル:「彼らは4体で一つだ、

一人は大地を操り 牡牛のビジョンを持ち

一人は火を操り 獅子のビジョンを持ち

一人は水を操り 蠍のビジョンを持ち

一人は風を操り 人のビジョンを持つ。」


レイチェル:「そして、ここにいるアリスターは牡牛の聖霊だ。」



レイチェル:「お前と吾妻の身に幸運があらん事を祈ろう。」


レイチェルは最後に、祈るように目を伏せた。






レイチェルの祈りと同時に部屋の窓ガラスが砕け外側に向けて弾け跳ぶ。 いつからそこに居たのだろうか、既にそこには血まみれの四人の男が立ち控えていた。


イアン、キース、アリスター、そしてもう一人の男。 これら4人の背中には美しい光の翼が展開している


4人の表情には一点の恐怖も、呵責も、好奇心すら見当たらない。 にもかかわらず、その足元にはそれらが転がっていた。


かつて生き今も生きてはいるが、変わり果てた4人の人間の女だったもの。


伊織も碧も、それが現実であることを拒絶し続けていた。




香澄の下半身は無残に砕かれ潰されて両足はあらぬ方向に曲がっている。 下腹部はどす黒い血にまみれて恐らく肝臓を潰されているに違いなかった。


瑠奈の全身は焼かれ焦げて黒い炭と乾きかけた血の塊になっていた。 その顔は熔けて表情の術を失いかろうじて息をするだけのものに成り果てている。


涼子の両手両足は引き千切られ失われていた。 かろうじてその傷口は塞がれて失血を免れてはいるが既に正気を保っては居ないらしく、呻きとも言葉ともつかない何かを発声し続けている。


優美の全身は切り裂かれ内側のピンクの臓物とところどころ白い骨を露にしている。 かつて顔だったものは無数の裂け目へと成り果て、一つだけ残った目玉が真直ぐに伊織を凝視していた。 かろうじてつなぎとめた意識の中震える手を伊織の方に差し出す。 二本しか残っていない指の間から、半分だけのコインがこぼれ落ちた。



碧が絶望の叫び声を上げる。

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