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エピソード8 再会

Episode8

登場人物

加地 伊織:主人公

アリスター:絵描き

吾妻 碧:幼馴染み


その男、物静かな雰囲気と優しげな表情そして涼やかな眼がヒトを惹きつけて離さない。 どこか線の細さすら感じさせる体躯、背丈は180cmくらいだろうか。 清潔感のあるコロンの香りを身に纏っていた。


アリスター:「レイチェルから君を案内するように頼まれたのだ。 一緒に来てもらえるかな?」


伊織、唖然…


アリスター:「私の日本語は余り上手ではなかったかな? 通じているか?」

伊織:「あぁ、…日本語は通じている。」


アリスター:「そう、それは良かった。」

アリスター:「おとなしく言う通りにしてもらえれば、大勢のヒトが今日は死ななくても済むからね。」


伊織、気付かれないように右耳の通信機のスイッチをONにする


伊織:「レイチェルの手の者、とか言ったな。 俺を何処に連れて行くつもりだ?」


男は伊織の発言に疑いの視線を向ける。


伊織:こいつ結構鋭い?


アリスター:「大人しく着いてくれば良い。」


男はホテルの駐車場に停めてあったブルーのイギリス製スポーツカーのドアを開ける。 瑠奈の車のすぐ隣にずっと停めてあった車だ。


アリスター:「さあ乗りたまえ。 ほんの10分程だ。」



二人を乗せたスポーツカーはその挑戦的なスタイルとは裏腹に、どちらかと言えばのんびりした速度で田舎道を流していく。 未だ香澄からの連絡は無い。 もしかして通じていなかったのかも知れないと思いはじめる。


伊織:「レイチェルのところに行くのか?」


アリスター、終始無言


もしかすると盗聴されている事を警戒しているらしい。 今は香澄の通信機を信じて待つしかない。



やがて、9分53秒で車は木立に囲まれた大きな門を潜り抜けた。 そこから更に2分ほど敷地内を進んで、やがてどことなく歴史を感じさせる屋敷の前に止まる。 大金持ちの別荘の様だった。


アリスター:「着いた。」


アリスターは自分が先に降りると、助手席側のドアを開けてくれた。 と言うか、内側からは開かないようにロックが掛けてあったのだ。


アリスター:「心配には及ばない。 当方に君を殺害する意図は無い。」


確かに、最初から殺すつもりならこんな所へは連れて来たりはしないだろう。 伊織は男の言葉を信じて素直に従う事にした。



これまた大きなドアをくぐると豪勢な造りのロビーが現れる。 磨き上げられた床と正面に続く広い階段は踊り場から左右に展開する。 踊り場の中央には巨大な絵画、床には赤い絨毯が敷かれており。 恐らく金で出来ているに違いない幾つモノ装飾品が其処此処に配置されていた。 このロビーだけでも伊織の家ほどの大きさはありそうである。  ただ、挙動不審に内部を観察するも人の姿が見当たらない。


アリスターは伊織を向かって左側の部屋へと導いた。



その小部屋は40畳くらいだろうか、アンティークな調度品と大きなピアノが置かれ、眼を見張るカーペット、そして、…吾妻碧が其処に居た。



伊織、言葉が喉に詰まる。

碧、眼を丸くする。


伊織:「ど、どうして、此処に?」


碧、泣き出しそうな笑顔。 それから直ぐ黙ったままうつむく。


此処に居る碧は何だか似合わない上品そうな洋服に身を包み、しおらしく椅子に腰掛けていた。


伊織、混乱する。 日本にいる碧はDNA鑑定で本人だと確認されたはず。 それならここに居る碧は何者なのだ? でも見れば分かる。 …こいつは本物の碧だ。



伊織:「よう、元気そうだな。」


伊織、心臓の鼓動が早まるのを感じている。


碧:「どうしてあんたが…。」

伊織:「迎えに来たに決まってんジャンか。」


碧、一瞬嬉しそうな顔、でも直ぐに切なそうな顔


碧:「アタシ、いけない。」

伊織:「何でだよ。」


碧、返事しない


伊織:「とにかく、一緒に来いよ!」

碧:「無理よ、もう帰るところなんて無い!」


伊織、意味が分からない



伊織:「どういう意味だよ。」

碧:「言いたくない。」

伊織:「俺は、お前と帰りたいんだよ。」


伊織、碧に近寄り 手を伸ばす。


碧:「あんたには、…あのちっこい彼女が居るじゃない。」

碧:「どうせアタシはただの幼馴染みなんだから、…もうほっといてよ。」


碧、伊織と眼を合わせようとしない。


伊織:「何、馬鹿なこと言ってんだよ。」



碧:「それに! 日本には、もう一人のアタシが居るでしょ。」


伊織、身体がすくむ。 碧に触れられない。



伊織:「あいつは、…偽者なんだろ。」


碧、震えている


碧:「本物よ、正真正銘の…私よ。」

碧:「アタシが欲しいなら、日本のアタシに会いに行けば良いじゃない!」



今度は伊織が泣き出しそう


伊織:「お前は、…お前はどうしたいんだよ。」


伊織:「意味わかんねえよ…。」

伊織:「…なら、どうしてそのブレスレットしてんだよ。」


碧の左手には、伊織が誕生日にプレゼントしたブレスレットが着けられていた。



碧、必死に堪えていた涙が堰を切ってぼろぼろこぼれ出す。 止まらない。


伊織、堪らずに碧を抱きしめる。

碧、必死に嗚咽を堪えている。


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