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エピソード6 憑依

Episode6

登場人物

加地 伊織:主人公

難波 優美:魔法少女

キース:化物

池内 瑠奈:お姉さん1

源 香澄:お姉さん2

館野 涼子:お姉さん3


八月の昼下がり、異国オックスフォードの中心地に「四辻」の名を持つ時計塔の屋上で、伊織は人外なるモノと対峙していた。

ちなみに瑠奈は未だに息を切らしてる。 優美は街の風景を見下ろしてはしゃいでる。…見下ろすのが好きみたいだ。


伊織:「お前、何でこんな処に…。」

キース:「それはこっちの台詞だな。 僕は一応ここの学生だからね。」


きざなポーズで少し顎を上げて他人を見下した様に睨めつける。 口元がかすかに笑っている。


伊織:嫌な奴

いきなり優美が割って入る


優美:「ねえねえミジンコ、望遠鏡見ようよ!」


優美、そこでようやくキースに気付く


優美:「あっ! お前はこの前ミジンコを怪我させた悪者だな!」

キース:「今日は、誰も傷つけるつもりは無いよ。」

優美:「うるさい! ここであったが百万年だ!」


優美は右手の人差し指と中指を鉄砲のようにしてキースに向ける。

勿論ビーム…などは出ないのだが、果たしてキースは身動きを封じられた


キース:「へぇ、こんな事も出来るんだ。」

優美:「知らなかったのか、筋肉は電流で操作されてるんだ! 人間を思い通りに動かす事くらい朝飯前って奴なのだ!」


伊織:優美、お前って何者??


突然! キースの背中に光の翼が発現する


キース:「やれやれ、聞き分けのない子猫だな。」

瑠奈:「誰、この人? 意外に格好いい。」


ようやく瑠奈が戻ってきた。

上空には、既にデタラメに濃い暗雲が立ち込めている。


なんの前触れも無く強烈な雨粒が優美を直撃する


優美:「痛い! 痛い! 痛い!」

優美:「こいつぅ、よくもやったなぁ!」


どうやら本気で攻撃するつもりは無いらしい。 それでも意識を逸らされた優美の呪縛から逃れて、キースが身を翻す。


優美は左手のひらを差し出して、今度は本当に電流が発射する!? 


キースは人間とは思えない俊敏さと跳躍力で20m以上は離れていそうな隣の屋上に飛び移る。


優美:「こらまてぇ! ユーミとミジンコの恋路を邪魔する奴は、殺すリストナンバーワンだ!」


何を考えたか、優美は塔の風見鶏に飛び移ると、それを引き抜いた!?  引き抜かれた風見鶏の避雷針を軸にして地球ゴマの様に電流の輪が高速回転し始める。 やがて避雷針は優美を乗せたまま宙に浮かび上がった。


伊織:「お前! 魔法使いか?」


その優美の脳天を、コブシ大の雹が直撃した。 一発、二発、三発。


優美:「はぅ! あぅ! ひぅ!」

優美:「くうぅ~」


優美、沈黙。

避雷針は大きな音を立てて時計塔の屋上に崩れ落ちる。


伊織:「優美! 大丈夫か?」



キース:「この美しい街を滅茶苦茶にされるのは御免だからな。」


手裏剣を投げるように、キースが何かを伊織目掛けて投げる。


キース:「イオリ、受け取ってくれ。」


伊織、奇跡的にキースの投げたモノをキャッチする。 それは、折りたたまれた手紙とそれに包まれた…発信機


キース:「それは招待状だ。 君たちは青龍を取り返しに来たのだろう? 決着を着けようじゃないか。」

キース:「今日の用件はそれだけだ。 それじゃあ楽しみに待っているよ。」


キース、屋上から後ろ向きのまま飛び降りて…消える。



瑠奈:「大丈夫?」


瑠奈、優美に駆け寄り、抱き起こす。

優美、どうやら脳震盪だけの様子、見事なたんこぶが出来ている。


優美:「ミジンコ…。」


優美、意識を取り戻す


伊織:「どうした。」

優美:「御守りは持ってきた?」


伊織:「あ、ああ、持ってるよ。 それがどうかした?」

優美:「貸して頂戴。」


伊織、小銭入れの隠しポケットに忍ばせていたコインの切れ端を取り出して、優美に手渡す。

優美、自分の持っていた反対側の切れ端を取り出して、二つをピッタリとくっ付ける。


優美:「封印。」

優美:「しばらく黙っていなさい。」


優美、憑き物が落ちたように大人しくなる。


伊織:「お前、一体どうしたんだ、…まるで別人みたいだった。」

優美:「あれは、私じゃないわ。 多分…シロ。」




伊織、香澄と連絡をとって時計塔の下で待ち合わせる

一同、街のランドマークの避雷針崩壊騒ぎを避けてハイストリート沿いのカフェに退避


優美:「以前から感じてはいたわ、」

優美:「私がミジンコに対して感じるこの気持ち、切ないような、恋しいような、この感情は本当に私自身の気持ちなんだろうかって…何時も疑っていた。」

優美:「最初は分からなかった。 初めての事だったから、異性を意識するというのはこういうものなのかと納得したりもしたわ。」

優美:「でも、違和感は消えなかった。」


涼子、運ばれてきたケーキを皆に取り分けている


優美:「アレは、心の奥に封印したはずの別の人格を引きずり出してくるのよ。」

優美:「しかも逆らえない。 …逆らう理由が見当たらないといった方が良いかもしれないわ。」

優美:「まるで本当の自分がソレを望み続けていて、ずっと我慢し続けてきたソレを開放してくれているような気分。」


涼子、伊織のベリータルトをスプーンですくって伊織に食べさせる

伊織、多少戸惑いながらも あーん

優美、涼子をじっと見つめる



優美:「ところで、さっき私があの男を攻撃していた時、私の周りにシロは居たかしら?」

伊織:「いや、そう言われれば居なかったな。 まるでお前自身が攻撃してるみたいだった。」

優美:「やはり、あの時私を支配していたのはシロと考えるのが妥当そうね。」


香澄、チョコレートケーキを大口に運ぶ


香澄:「本体の精神が弱まった時にビジョンに憑依されるのかもしれないわね。」

香澄:「例えば、昨晩の泥酔状態や今朝の二日酔い状態は、本体の精神が無防備状態だったと言えるかもね。」


瑠奈、今ひとつ良く分からない風な様子


香澄:「あと、多分レベルが上がるほどその頻度は高くなるみたいね。 優美や私の事例から見てレベル2で現象が現れ始めるみたい。 池内は今のところレベル1だからまだ影響が出てないのかも知れないわ。」


香澄:「まあ、何の代償もなしにこんな不思議能力を授かるとは思っては居なかったけど、これは厄介ね。」




その夜、

伊織、再び眠れないでほーっとして居ると枕元に優美が近づいてきた。


優美:「ちょっとお話しない?」


横に眠る涼子を起こさないようにそっと立ち上がり、夜風の心地よいバルコニーに出る。



伊織:「それにしても、隠してあった優美の本性がきゃぴきゃぴるんるんの魔法少女だったとはな…。」

優美:「私は貴方に出会うまでの17年間、空想だけが友達だったのよ。 色々深い事情を察してくれるのが現実の友達ってモノじゃないのかしら?」


優美、悪戯そうに微笑む。

伊織、ちょっとホッとする


伊織:優美ってこんな顔も出来るのか…。


伊織:「まあ、どっちのお前でも俺は全然かまわないけどな。 あれはあれで可愛かったかも。」

優美:「ば、馬鹿じゃないの。」


優美、赤くなる。

伊織、思わず、その妖しい美貌に…見蕩れる



伊織:「ところで、あのコインは何だったんだ?」

優美:「言ったでしょう、お守りよ。」

優美:「イザと言う時にシロを封印する為のお守り。」


伊織、優美から少し離れてデッキチェアに腰掛ける


伊織:「何なんだ? そんな事が出来るのか。」

優美:「意外と簡単な事だったわ、基本的にシロ達聖獣は、何かに従うのが好きなのよ。 特にルールみたいなものを遵守するのが好きみたい。」

優美:「だから私とシロでルールを作ったの。 このコインがくっ付いている間、シロは「お休み」だってね。」


優美:「本当に上手く行くとは思っていなかったけど…。」



フェンスにもたれた優美のネグリジェに町明かりが透けて、美しくも華奢なシルエットが浮かび上がる。 思わず昨日の出来事が脳裏に蘇り、伊織の顔が赤くなる。


伊織:「でも、そんな一方的なルールを受け入れるなんてシロは何が楽しいんだ?」

優美:「勿論、取引するからには代償が必要だわ。」


優美:「このコインがくっ付いていない間、私が「お休み」なのよ。」


伊織、一瞬自分の耳を疑う。 優美の瞳を凝視する。


優美:「そうは言っても完全に憑依されて自分の支配権を失ってしまう訳ではないみたいね、 いつもよりもシロの支配力が強まるって感じかな。」


伊織:「なんで、…そんな危険な事をやったんだ。」

優美:「この事は、未だ香澄には言わないで。」


優美:「憑依される誘惑に負けない為よ。 あのままで居たら私はすっかり変ったままになっていたと思う。 それ位あの人格スイッチには抗いがたい快感が伴うの。」



優美:「それと、シロに邪魔されない私自身の気持ちが、本当に貴方の事を好きなのか どうしても知りたかったの。」


優美、妖しい微笑

伊織、それだけでもう十分に身動きが封じられてしまう。



優美:「お願い、このコインは貴方が持っていて頂戴。」


少女の可憐な指からソレは、伊織の掌へと託された。

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