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エピソード12 決着

Epidode12

登場人物

加地 伊織 他


真夜中26時過ぎ、暗い屋敷の廊下を一人のメイド姿の女がワゴンを押している。 やがて部屋の前に来ると、女は音を立てないようにそっとドアを開けた。 それからしばらく部屋の中を確認した後、再びワゴンを押して次の部屋に進む。


そうして女はいよいよ一番奥の部屋に到達する。 女が静かにドアを開けると、その部屋からは薄明かりが漏れてきた。



そこには、屋敷の主人の孫が立っていた。

その若者、物静かな雰囲気と優しげな表情そして涼やかな目がヒトを惹きつけて離さない。 どこか線の細さすら感じさせる体躯、背丈は180cmくらいだろうか。 清潔感のあるコロンの香りを身に纏っていた。


女が少し頬を赤らめる。


アリスター:「どうかしたのか?」


若者は直ぐに女の異常に気づいたのだが、一瞬間に合わなかった。 いつの間にか若者の両足は膝から下が切断されており、無様に床に転がった。 


間髪を入れず若者の両腕が肩から切断される。


一体どうすればそんな風に切断できるのかも不思議だったが、もっと不思議な事は、若者がそんな風に自分が切り刻まれていることをあまり意に介していない様に見える事だった。


アリスター:「お前は!」


若者は一瞬何かを仕掛けようとしたが、部屋の奥に目を配り、断念する。



ワゴンから、加地伊織が這い出してきた。


伊織:「ビンゴだな」

メイド:「はい流石です、伊織さん!」


伊織:「こいつの脳味噌すりつぶしちまえ!」

メイド:「ええっ! そんなことしてもいいんですかぁ?」


女は言いながら、うっとりしたような表情で涎をすする。


次の瞬間

若者の頭は、天辺から高速研磨されてCTスキャンした断面写真のようにどんどん削りとられて始めた! 脳髄液を撒き散らしながら、頭蓋骨や眼球ごと…


やがて下顎付近まで削り取ったところで、とうとう屍骸は痙攣を止めた。



伊織:「いいとこもって15分ってところかな、もう一寸、身体も二枚におろしとくか。」

メイド:「伊織さんって、意外と大胆なんですね。」


女が指先を振ると同時に、何処からか集まってきた細かな砂が薄い回転のこぎりのようになって男の身体を両断していく。 背骨からすっぱり左右に両断された身体は大量の体液と腸をこぼれさせて床に濃いシミを作る。


メイド:「ああ、なんだかお腹の芯が疼いてきちゃった…、抱きついても良いですか?」

伊織:「お前なあ…」


メイド、言う前から抱きついている。



伊織:「ところで、お前のことなんて呼べばいいんだ?」

メイド:「私は香澄さんの身体を頂いたので、香澄…って呼んでもらえれば良いですよ。」


伊織:「でも、それじゃあ香澄に戻ったときにややっこしくなるからなぁ。」

メイド:「じゃあ、黄龍でいいです。」


伊織:「言いにくいんだよな。 …それじゃ「お竜」にしよう。」

メイド:「なんか不本意ですけど、まあ何でも良いです。」


お竜、ちょっと投げやり。



伊織、部屋の奥で眠っていたレイチェルを起こす


伊織:「レイチェル、悪いけど一緒に来てもらう。」

レイチェル:「イオリか、…どうするつもりだ。」


伊織:「碧のところに案内してくれ。」


レイチェルの裸足がアリスターの血に濡れる。


レイチェル:「よくアリスターを退けることが出来たものだな。」


見ると、アリスターの身体は早速再生を開始していた。 粘液が集まり、盛り上がり、血の泡を吹きながら次第に顔の肉を形成していく。



伊織:「お竜! もう一回削っとけ!」

お竜:「はいはい。」


再び血飛沫を上げて研磨。



伊織:「お前が居るところではこいつら無茶な攻撃できないんだろ。 こいつらの能力は強力すぎて、屋敷ごと壊してお前を傷つけちゃうからな。」


伊織:「それに、こいつらも結局は体ごとで無いと移動できないんだろ。 だからしばらく身体が動けないようにしておいて、その間に次のコマを進めるって訳だ。」



伊織、ネグリジェ姿のレイチェルの手を引いて屋敷内を走る。

比較的近いところに、その施設はあった。


煌々と明かりが点いた、見るからに医療施設のような部屋の中央のベッドに碧は横たえられていた。 恐らく、まだ意識は戻っていない。


伊織:「青龍! …貧血! 居るんだろ。 出て来い。」


伊織の呼びかけに応じて、トカゲのビジョンがベッドの上に現れる。


伊織:「いいかよく聞け、他のビジョン達は俺の命令でみんな完全体になった。 ただし、ヨリマシのペルソナは残してある。 このコインが分かれている間は、お前たち聖獣が身体を支配する。 コインがくっついてる間はヨリマシの精神が身体を支配する。 そういうルールだ。」


伊織:「判ったか。」


青龍が大きく頷く。


伊織:「よし、じゃあ、加地伊織の名の下に、お前も碧の肉体と精神を全部食って完全体になれ。」


青白い陽炎のような輝きが碧の胸の上でひとしきり揺らめいた後、肉体に吸い込まれていく。



伊織:「30分くらいかな…。」

レイチェル:「30分とは? なんの時間だ?」

伊織:「青龍が完全体になるのにかかる時間だ。 それまで何とか逃げ切れれば…」


伊織、碧の体をワゴンに乗せる。 よく見ると布切れをパッチワークしたような手術用のガウンしか羽織っていない。 一瞬さらけ出された胸の赤い頂に伊織の動悸が激しくなる。


お竜:「あっ今見ましたね。 吾妻さんの乳首。」

伊織:「しょうがないだろ。」



振り返ると、キースが立っていた。


キース:「レイチェルを離すんだ。」

伊織:「悪いな、レイチェルは人質だ。 下手に攻撃するとレイチェルも怪我することになるぜ。」

キース:「脅しても無駄だ。 仮にレイチェルが傷ついたとしても、お前を殺して引き換えに青龍にレイチェルを再生させるだけのことだ。」


伊織:「やってみるか? 残念だけど青龍が再生するのは俺だけだぜ。」

伊織:「お前たち、レイチェルが居なくなったら、ゲームオーバなんだろ。」



いつの間にかイアンも現れている


イアン:「なかなかやるじゃないかイオリ。 まさかヨリマシを犠牲にして聖獣を完全体にするとはね、君がそんなことをするとは予想外だったよ。」



優美、もといシロが飛び込んでくる。 またまた右腕を切断されたらしい。 しかしそれも再生しつつある。


シロ:「こいつら、滅茶苦茶足が速いのだ! というか空飛んでたのだ!」



イアン:「それで、どうやってここを出て行くつもりなんだ? レイチェルを日本まで連れて行くつもりなのか? それともここでレイチェルを殺して終わりにするかい?」


イアン:「それって、ヨリマシを見殺しにするのとどこが違うのかな?」



イアンの嘲る様な笑みが伊織の癇に障る!

伊織、ぐっと苦虫を噛み潰す。


伊織:「俺の先生が言ってた。 勝てない相手とは戦わないのが正しい選択だって。」

伊織:「イアン、取引しないか。」


イアン、上から目線で睨め付ける


イアン:「まずは要求を言ってみてくれるかな。」

伊織:「俺たちを攻撃しないでくれ。 誘拐したり監禁したりするのも無しだ。」

イアン:「その代わりに何をくれるんだ?」

伊織:「ヴァーハナとの戦いでレイチェルが傷ついたら、青龍の力で回復させてやる。 それがお前たちの狙いだったんだろう。」

イアン:「約束を違えた時はどうするんだ。」

伊織:「その時は思う存分戦争するか。」



イアン、軽く失望の溜息


イアン:「イオリ、残念だけど余り魅力的な提案ではないようだ。」


イアン:「それに完全体になったとは言え、お前たち五行の聖獣ごときに僕たちが負けることはありえない。 ここで成りそこないの聖獣を殲滅して、予定通りイオリと青龍だけを手元に置くことにしよう。」



轟音とともに屋敷が大きく揺れる! 次の瞬間、天井と壁が吹き飛んだ!


信じられないことに! そこは空の上だった。 正確には竜巻の中心に居てその部屋だけが絶妙なバランスで宙に浮かんでいる。


シロ:「何なのだ! こいつは!」

オリュウ:「要するになんでもありなんですね。」


イアン:「この高さから落ちると、イオリは多分死ぬね。」


イアン、意地悪く微笑む

伊織、レイチェルを手元に引き寄せる

レイチェル、何故かイアンの元に吸い寄せられる


イアン:「イオリ、とりあえず一回死んでみようか。」


伊織、何故か竜巻に吸い出されて空へ

シロ、伊織を追って飛び降りる





竜巻に巻き込まれた伊織は洗濯機の中の靴下よろしく渦の頂点まで吸い上げられて、 …放り出される。


その時点で気を失っていなかった事が不思議だが、余計に辛かった。


長い長い落下

やがて地面が近づいてくる


伊織:痛そうだな



突然! 何かが伊織を抱きとめる。


伊織:「瑠奈…、朱雀か!」

朱雀:「もう大丈夫だ。」


朱雀は、一体どうやったのかかなりの高さまで跳躍していた。

空中で伊織を受け止めると、多少荒っぽく着地する!


伊織、腰が抜ける




朱雀:「ここで少し待っていろ。 ケリを付ける。」


朱雀、何だかワイルド


シロ、自分の周りに怪しい電流の輪っかを高速回転させて、宙に浮いている


シロ:「ミジンコ! 大丈夫?」

伊織:「お前らも何でもありだな。」



朱雀、竜巻の根元に歩いていく。 右手を差し上げると竜巻が崩れて消失した


姿を現し落下してくる屋敷の部屋。 大音響と共に着地し、粉々に砕け散る。


イアン、レイチェルを抱きかかえて宙に浮いている。




キース、落下した瓦礫の中から姿を現す。 ところどころ骨折して剥き出しになった骨が見る見るうちに再生していく。


キース:「面白いな。」


前触れ無しに朱雀めがけて超音速で飛来するこぶし大の雹

朱雀、それを着弾する直前に蒸発させる


次の瞬間! 滝のように集中飛来する超音速の水流が朱雀に叩き付ける!

しかしその膨大な水量も、やがて地上に到達する以前に気化されてしまう。


立ち込める水蒸気の中から、朱雀が姿を現す。

上空の雲が、晴れていく。


朱雀:「それでお終いか?」



朱雀、空に差し上げた手をキースに向ける

キースの肉体が一瞬で昇華した!




シロ、お竜と碧の身体をぶら下げて降りてくる

シロ:「やったのだ!」


伊織:「お前いったいどうやって飛んでるんだ?」




イアン、レイチェルを地面に座らせて、伊織達の方に歩いてくる

アリスター、戦線復帰


イアン:「さてと、次は誰が相手してくれるのかな。」


いきなり、地面が割れる!


シロとお竜が足場を失って地割れに飲み込まれる!

シロ、間一髪で浮上!


地面の割れ目は、お竜を飲み込んだまま再びふさがってしまう。


伊織:「こいつ、地面を自由に操れるのか…?」


伊織、もともと付いていけてないが、更に付いていけなくなる




イアンの背後から風が走る。 意図的に作り出された無数の真空と空気の断層がカマイタチの様にシロの身体を切り裂いていく!


同時にシロの指先から発せられた電流が、イアンの肉体を焼き焦がす! 電流は威力を増し、イアンの血肉を吹き剥がしていく。


シロ:「さっきのお返しなのだ!」


膨大な電流がとうとうイアンを骨ごと粉砕する!




地面が、割れて、吹き飛ぶ!

粉砕した砂粒が噴水の様に湧き上り、中からお竜が現れる。


お竜:「びっくりさせないで下さいよね。」


砂粒は更に細かく砕け、超高速回転した無数のディスクとなってアリスターに襲い掛かった。


アリスターだったモノは、およそ数百の肉片に切り刻まれて地面に散らばる。




そこに涼子、もとい玄武が歩いてきた。

手に何かをぶら下げている。 …人の頭らしきもの。 歩きながら何かドスの利いた声でぶつぶつ言っている。


玄武:「もっと面白い事しゃべれないの? 全くつまんない頭よね、…部屋の飾りにもならないじゃないの。 ほんと役立たずってあなたの為の言葉よね。」




玄武、伊織の姿を見るなり持っていた頭を遠くに放り投げる!

玄武、何故か急にシオラシク、真っ赤になっていたりする。


玄武:「伊織お兄ちゃん! 大丈夫だったぁ?」

玄武:「涼子怖かったけど、一生懸命頑張ったんだよぉ。」


玄武、伊織の腰に抱きつく。


伊織;「…「涼子」は止めようか。」




再びイアン達の居た所に聖霊の輝きが灯り、急速に肉体が再生され始める。


伊織:「こいつら、やっぱり四体揃うと再生能力が向上するみたいだな。」

お竜:「相生みたいなもんですかね。」



イアンの上半身が宙に浮いている。 

その表情は穏やかで、笑みさえ浮かべていた。


イアン:「まあ、五行の聖獣も予想以上に戦えるということは判った。」

伊織:「負け惜しみかよ! どう見ても完敗だったじゃねえか。」


やがて、傷ひとつ無い美男子が姿を現した。


玄武:「きゃっ! 男の人の裸…」


玄武、伊織の陰に隠れてイアンの身体を観察する。



イアン:「イオリ、良いだろう。 お前の提案を受けるとしよう。」

イアン:「冬至を過ぎた頃にヴァーハナとの戦いが始まる。」

イアン:「それまでに青龍の能力を狙う他の精霊達がお前たちを襲撃して来るだろう、それらを退けて、約束通り取引を全うしてくれることを期待しているよ。」


イアン達はレイチェルを連れてその場を立ち去っていった。




伊織:「…終わったのか、」


伊織、へなへなと地面に座り込む。

青龍、ようやく目を覚ます。


貧血:「あっ、ご主人様、お早うございます。」

伊織:「無事に完全体に成れた見たいだな。」

貧血:「ええ、お陰様で…。」



伊織:「俺たちも引き上げようか。」


伊織、立ち上がって、ふとポケットに手を入れる。

伊織、はたと気づく、コインが無い!


伊織:「ちょっと待った! コイン…落としたかも。」

シロ:「僕はずっとこのままでも一向に差し支えないのだ。」


伊織、顔面蒼白。



伊織:「馬鹿言うんじゃない! みんなで探してくれ!!」

シロ:「竜巻に吹っ飛ばされたんだろ! 見つかりっこないのだ!」

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