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エピソード11 完全体

Episode11

登場人物

加地 伊織:主人公

イアン:風を操る聖霊、人のビジョンを持つ

優美:シロ


夜の闇の中に仄かな灯りの様な小さな陽炎が立ち上る。 青、赤、黄、白、闇の五つの揺らめきはやがて小さな動物の姿へと定着し、ゆっくりと伊織の方に近づいて来た。


伊織:「通じたのか…、俺の言葉が聖獣に届いた!」


伊織の足下に集った5匹の聖獣のビジョン。 トカゲ、ニワトリ、サル、ネコ、ヘビ 。 …よく見るとふれあい動物広場。


皆めいめいに何か騒いでいるが…ビジョンの状態では喋れないらしい。 どうやら聖獣達は一生懸命何か伊織に抗議している様だった。


伊織:「何か言いたいみたいだけど、…判らないよ、何が言いたいんだ。」


伊織、焦る



イアン:「五行の聖獣達、可愛いね…。」


いつの間にかイアンが傍に来て、一緒にビジョンを覗き込んでいる。


伊織:「どぁああ!」

伊織:「…イアン、お前一体どういうつもりだ! お前は敵だろう。 気安く近づいてくんな!」


イアン、意外そうな心外そうな眼差し


イアン:「イオリ、勘違いしないで欲しいな。 僕たちはイオリを仲間にしようと思っているんだよ。」


伊織、真っ赤になって瀕死の香澄達を指差す!


伊織:「これが仲間になろうっていう人間がする事か!」


イアン、冷ややかな目

伊織:あっ、こいつら人間じゃないんだった…



イアン:「ヨリマシには興味は無い、あれは単なる苗床に過ぎないからね。」


伊織:「とにかく! 俺はこれからお前達をぶちのめす。 むこうで待ってろ!」


イアン、軽い溜息、やれやれと言った感じで


イアン:「いいだろう、時間ならまだ有る。 ゆっくり相談すると良いよ。」



イアン:「ところで青龍は連れて行くよ。 他のヨリマシを復活させられると面倒だからね。」


キース、イアンの合図で碧の身体を抱き上げる


見ると、碧の額の傷はすっかり塞がって傷一つ無くなっていた。 意識はまだ戻らないようである。 おそらく、今は青龍が脳細胞と記憶を再生している最中なのだろう。 そう言えば、以前一度伊織が死んだ際には復活して意識を取り戻すのにも3日を要したのだった。



伊織:「そんなの、駄目に決まっているだろう! 碧を其処に下ろせ!」

イアン:「止めても無駄な事は解っているだろう?」


イアン、微笑む

伊織、たじろぐ



イアン:「他のヨリマシ達も少々ダメージが大き過ぎたみたいだね。 生命維持設備の手配は済ませてあるから、準備ができ次第そちらに運ぶとしよう。」



イアン:「それじゃあ先ほどの提案の件、考えてみてくれ。」


イアン達は 伊織と四人のヨリマシを残してその場を後にする。



伊織の下には4匹のビジョンが残った。


伊織:「何とかお前達と話が出来ないかな…。」


白虎が伊織の足下をクルクル回りだす。 そうして優美の半屍骸の方に歩き出す。 やがて融け込んで…優美が身体を起こした。


優美:「もしかすると、これでミジンコと話せるのだ。」

伊織:「憑依か…。」




優美:「だいたい、ミジンコもカッスンも無茶苦茶ばかり言っているのだ。 僕たち子供の聖獣が大人の精霊に勝てる訳が無いのだ。 まともにぶつかったら、さっきと同じに3分間で二度と再び立ち上がれなくなってしまうのだ。」


優美の開いた腹から更に臓物がこぼれ出す。 もはやゾンビ…。

伊織、見ていて辛い


伊織:「その、…何とかその身体を元に戻せないのか?」

優美:「今は未だ僕の身体じゃないから無理なのだ。 多分、ユーミと完全に一体化したら直せると思うのだ。」


優美、身体は瀕死なのに表情と台詞に緊張感が無い


伊織:「それって、優美の精神を食っちまうって事だろう? それは駄目だ。」


伊織、深い溜息


伊織:「何なら、俺の命とか精神とかなら使っても良いよ…。」

優美:「僕たちはミジンコの命とかもらってもちっとも嬉しくないのだ。」


伊織、悲嘆の表情


伊織:「身も蓋もないな…。」



伊織:「本当に何とかできないのか?」

優美:「完全体になる以外の方法を僕は知らないのだ。」


伊織、閃く!


伊織:「青龍なら、出来るよな。」

優美:「貧血トカゲはあの精霊達が連れて行ってしまったのだ。」


伊織:「後手後手だなぁ…」

伊織:「なんとかビジョンだけでも呼び返せないか?」


優美:「そもそも僕たちはずっとユーミの身体と一緒にいるのだ。 カッスン達がビジョンと呼んでいるのは僕たちの本体から投影されたイメージと限定された能力の一部の事なのだ。 ヨリマシの身体がないと僕たちはこの世界に対して能力を行使できないのだ。」


伊織:「でも、レベルが上がって遠くの人間も治癒できる様になっているんじゃないのか?」


伊織、再度閃く!


伊織:「そうだよ、意思共鳴とか何とかで青龍に連絡して遠くから皆を再生してもらえば良いんじゃないか?」


優美:「貧血トカゲがその気になれば出来ると思うけど、今あいつはアズマの再生で手がいっぱいのはずなのだ。 それにカッスンが意思共鳴と言っている現象は感情の伝染みたいなもので、指示命令に使えるほど具体的な情報連絡は出来ないのだ。」


優美:「更に言うとユーミ達の身体が回復したとしても、あの精霊達から逃れる事は無理だと思うのだ。 根本的な解決にはなっていないのだ。」


伊織:「端っから諦めムードだな…。」


伊織、落胆



優美の口から血反吐が垂れる。


優美:「ミジンコ。 ユーミの身体が結構ヤバい状況なのだ。 このままだと死んでしまうのだ。 多分他のヨリマシも似たり寄ったりの状態なのだ。」


伊織:「どうすれば助けられるんだ?」

優美:「僕たちは完全体になるしか方法は知らないのだ。 」



救護班…らしき連中が辺りを取り巻き始めた。 ヨリマシの身体を生命維持装置とやらにつなぐつもりなのだろう。


優美:「多分、ユーミ達はものの数分で死ぬのだ。 何とか装置もアテにはならないのだ。 僕たちも困るのだ、このままだと半熟状態で蛹から孵ってしまうのだ。 もともとあの精霊達の狙いは貧血トカゲだけなのだ。 僕たちが半熟状態でも奴等はきっと一向に構わないのだ。」



優美:「ミジンコ、助けて。」


優美、顔じゅう傷だらけ、しかも右目が無くなっている表情で悲痛に訴えかける



伊織:「助けてって言われても…どうすれば良いんだ。」


優美:「完全体になるには、ヨリマシの精神が気付かない様に少しずつ入れ替わるか、トモガラの命令で問答無用に入れ替わるかどっちか選べるのだ。 今は後者しか道は残されていないのだ。」


伊織:「そうしたら優美はどうなるんだ? なくなってしまうのか?」


優美:「ユーミの記憶は残るのだ。 でも優美の性格や思考は僕たち聖獣と融合した時に消してしまうのだ、だけど僕たちはヨリマシが願望するペルソナを選んで使っているから、きっとユーミ達も嬉しい筈なのだ。」


伊織、理解不能



優美:「どのみちもうすぐにユーミのペルソナは滅んでしまうのだ。 それで僕たちが完全体になる道が無くなれば、 反撃の勝機も無くなってしまうのだ。」


伊織:「ペルソナって優美の性格や思考の事なんだろ。 何とか残せないのか?」


優美:「一つの身体に同時に二つのペルソナが存在したらややこしいのだ。 それに僕たちには使命が有るから、ユーミのペルソナは邪魔なのだ。」


伊織:「つまり、出来ない事は無いって意味だよな。」



伊織は、足下に転がっていた半欠けのコインを拾い上げた。


伊織:「二つのペルソナが同時に身体を支配する事はできないなら、代わりばんこに使えば良い。」


伊織:「このコインが二つくっ付いている間はユーミ達のペルソナが身体を使う。 半分ずつに別れている間はお前達聖獣が身体を使う。」


伊織:「この条件を飲むなら、ユーミ達を全部食えって命令してやる。」


優美、再び意識を失う

五行の聖獣達、何やら討論



優美、再び起き上がりしゃべりだす


優美:「判ったのだ。 ハンデは多くて難しい方がゲームは面白くなるのだ。 さっきの約束で契約成立なのだ。」

伊織:「約束って? お前、今ゲームって言わなかったか?」


優美:「加地伊織は僕たちと一緒にヴァーハナと戦うのだ。 嘘ついたらハリセンボン呑ますのだ。」

伊織:「…り、了解した。」


伊織:こいつ、本気で呑ますんだろうな…



優美:「それでは加地伊織、正式に言霊で命令を発するのだ。」



伊織、二つに割れたコインを指で挟み、聖獣のビジョンの前に突き出して見せる。


伊織:「五行の聖獣達よ、加地伊織の名の下に命ずる。 ヨリマシの肉体と精神を食って完全体になれ。 ただしヨリマシのペルソナは残し、このコインがくっ付いている間はヨリマシの精神に肉体を支配させるんだ。」


優美:「了承した。」



果たして、再び優美は意識を失った。

ビジョン達の輝きは闇の中に溶け込んで消えていき、しかも見た目には何の変化も起こらない。 


伊織:「本当に…上手く行ったのか?」



救護班が優美達の肉体をタンカに載せて運び出していく。

伊織は、救護班の一人に誘導されるまま車に乗せられて、…どこかへ連れて行かれる。

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