エピソード1 敵地
加地伊織シリーズ第四弾
聖獣の輩の続編です。
Episode1
登場人物
加地 伊織:主人公
池内 瑠奈:芸能人似のお姉さん
館野 涼子:ボディランゲージに目覚める
源 香澄:順応性高し
難波 優美:順応性低し
成田空港の出国セキュリティ審査で金属探知機が鳴り止まない。 不審そうな職員の視線に焦りを隠せない海外旅行初心者が一人。 身長は160cmあるかないか、一時よりは痩せてきたとは言え未だしまりの無い体型。 平べったい顔に一重のつり目。 見るからにとろそうな高校2年生…これが自分、加地伊織である。
伊織の後ろに並んでいた行列が他の列に並びなおしていく。
伊織:「おかしいな、これで金目のものは全部外したはずだけどな…。」
伊織の後ろでボーっと佇む少女が一人。 小柄で華奢な体つき。 肩にかかるかかからないかの髪を両サイドでツインテール風に束ねている。 顔立ちはどちらかと言えば地味な方だが美少女の部類には入ると思う。 感情表現が希薄で何を考えているのか分かりにくいのが玉に瑕だが、意外に抜け目の無い妹キャラ…これが、館野涼子である。 涼子は滅多な事では喋らない。
職員がハンディの金属探知機で伊織の全身を検査し始めた。
職員:「右耳のところに何か反応があるわね。」
伊織:耳! あれか!!
伊織の右耳には盗聴器、モトイ通信機が内蔵されていた。 世界の転覆を画策する? 悪の組織の博士に面白半分に埋め込まれたのだ。
伊織の額に脂汗が滲む、
瑠奈:「伊織クン、どうしたの?」
既にセキュリティチェックを終えて荷物を詰めなおした美女が駆けつけてきた。
一斉に男性職員の鼻の下が伸びる。
誰彼1:「えっ?茂森!」
誰彼2:「アユアユ? 何処何処?」
誰彼3:「アユアユ髪切ったんだ!」
この女性、見た目はとても可愛い。
…中背だがグラビアに出てきそうなグラマラスボディ、それなのにアイドル顔でショートカットの眼鏡っ娘、更に追い討ちをかける様に何だか頼り無さそうな雰囲気。とにかくギャップ感満載で、傍に居るだけで青少年のオタク心を鷲づかみにしそうな…これが、池内瑠奈である。 一応刑事である。
ちなみに茂森とかアユアユとか言うのは、瑠奈と瓜二つの現役アイドルの事である。
伊織:「池内さん、まずいッス。」
なまじ瑠奈が芸能人に似ているものだから、職員がテレビのロケかなんかと錯覚して余計にややこしい事態となったが、一応身分証名付き刑事の医療器具だと言う証言と、県警にいる鳥越啓太郎からの確認で事なきを得る。
伊織:「やれやれ、」
瑠奈と涼子は免税店をブラブラ。 伊織はゲート前の待合席で荷物番、そこへ何処かで見た事が有る様なイケメンが近づいて来た。
誰彼4:「あれタクティカルの久世くんじゃない?」
誰彼5:「うそっ!本当だ、なんか今日芸能人密度高くない?」
なぜか、タクティカルの久世が伊織に近づいて来た。
久世:「さっきセキュリティで揉めてたのオタクっしょ。 俺、あんたの事知ってんだよね。 この前赤レンガで凄い可愛い女の子と一緒に居たでしょ。 あんたあの子のマネージャかなんか?」
久世は遠慮なしに伊織の隣の席に腰を下ろすと、馴れ馴れしく話しかけて来た。
伊織:赤レンガ? 優美のことか、
確かに数週間前、久世は優美をナンパしようとしてガン無視された事があった。
久世:「もう一度あの子に会いたいんだけどさ、手配してくれないっすか。 俺のこと知ってるっしょ、テレビとか出てるし。 今日はロンドンで撮影があるからこの飛行機乗ってんだけど。 お宅も撮影かなんか?」
久世:「あの子今んとこ何処の局にも顔出してないみたいだけど、なんなら俺が口添えしてやってもいいっすよ。」
伊織:「あいつは、俺の友達ですよ。 それに多分モデルとか興味ないと思うし。」
久世:「そうなの? あの子絶対売れると思うんだよね、俺の勘あたるし。 俺の知り合いのプロデューサがさ、小学生くらいの可愛い子探してんっすよ。 あの子俺に預けてくれたらさ、絶対悪いようにしないって。 オタクにも良い思いさせてあげるし。 俺可愛い子いっぱい知り合い居るからさ、オタクにも何人か紹介してあげてもいいっすよ。」
伊織:なに、こいつロリコン?
瑠奈:「お待たせ、」
瑠奈と涼子が戻って来た。
久世:「え、茂森さん?(瑠奈が似ているアイドルの名前)」
途端に久世の顔が赤くなる。
久世:「あんた茂森さんのマネージャもやってんすか? 人が悪いっすね、それならそうと先に言ってくださいよ。」
伊織:「だから、他人の空似ですって。 それに俺はただの高校生ですよ。」
瑠奈:「伊織クン、誰?この人?」
伊織:あっ、知らないんだ…
エコノミーで揺られる事11時間
無事ヒースローに到着
伊織:「俺海外来たの初めてだよ、 指紋なんて撮られるのな。」
伊織、完全おのぼりさん状態
瑠奈:「結構涼しいね。」
スーツケースをピックアップして、国際線到着ロビーへ向かう。
到着口前のカフェで一人の女が待っていた。
長身長髪でスレンダーな体型、切れ長の眼と濡烏の髪の美女、陽の光が似合わない白い肌、大抵はバラの匂いの香水を振りまいて男子の思考を支配する…これが、源香澄である。 一応表向きは大手薬品会社研究所の博士で、伊織の耳に通信機を埋め込んだのはこの女である。
そして、…伊織の始めての女性。
香澄、とりあえず伊織に抱きつく、キスをする、なぜが舌入れてくる。
涼子、何故か張り合って伊織の腰に抱きつく。
瑠奈:「恥ずかしいから いい加減にしてよね。」
香澄:「何? 妬いてんの? 別に普通のイギリス式挨拶よ。」
瑠奈:「嘘付け。」
小型SUVで高速道路を北へ向かう。 日本で瑠奈が乗っているのと同じ車だった。
香澄:「ベーステントをMKに設置したわ、」
伊織:「MK?」
香澄:「発信源から100km位置にある目立たなさそうな田舎町」
伊織:「ところで優美はどうしたんですか?」
香澄:「ちょっと色々あってね、…寝込んでる。」
伊織:「大丈夫なんですか?」
香澄:「女には色々あるのよ。」
香澄、何故だかにやり
瑠奈:「ちょっと、もしかして月のモノ? この女密度でいると確実に感染するわね。 日程考えなおした方が良くない?」
香澄:「そうね、まずは作戦たてるのと、…戦闘体制整えるわよ。」
伊織:月の? 感染??
香澄:「ショッピングセンタ近くのマンスリーマンションを借りたの。」
車は地下駐車場へ、何処と無く日本にある博士達の秘密基地に雰囲気が似ている。
一同は車を置いてエレベータで6階にある部屋へ。
家具付きのマンションで結構広い、ベッドルーム2つとゆったりしたソファー付きのダイニングキッチン、トイレとバスタブ付きの洗面所…。
瑠奈:「へぇ、洗濯機がキッチンシンクの下にあるんだ。」
香澄:「それ、めっちゃくちゃ時間かかるから、順番決めて洗濯しないと終わんないよ。」
香澄:「とりあえずベッドルームは2つ。 それぞれツインになってるから、私と優美で一部屋、池内と涼子で一部屋で良いわよね。」
香澄:「伊織は、どっちでも好きな方に来ても良いってことで…。」
伊織:「ソファーで良いです。」
各自荷解き
伊織、優美の様子を伺う
虚ろな表情でベッドに横たわる美少女が一人。
長い睫に大きな瞳、傷一つ無い整った小顔は透き通るように白く、ウェーブした艶やかな髪は腰まで届く豊かな長髪。 まるで造り物の様な一点の欠陥も無い妖しい美貌…これが、難波優美である。
どうやら小学生体型がコンプレックスらしく、それを隠す為なのか大抵は黒のゴスロリ衣装に身を包んでいる。 今日は珍しく白のゴスロリだった…。
伊織:「大丈夫か?」
優美:「平気、ただのジェットラグよ。」
優美、頬を赤らめる。
香澄が部屋に飛び込んできた。 何故だか伊織を後ろから羽交い絞めにする。
香澄:「とりあえず腹ごしらえしない?」
優美:「あたしパス。」
優美:「どうせろくなものでないでしょ。 帰りにヨーグルトとスパークリングウォータ買ってきて。」
伊織:「お前、本当に大丈夫なのか?」
優美:「大丈夫よ、さっさと行って来なさいよ。」
優美、更に顔が赤い
一同、再び地下駐車場
香澄:「車は二台用意した。」
香澄:「あんたマニュアル運転できるの?」
瑠奈:「無理。 というか苦手。」
香澄:「直ぐに覚えて。 日本と同じ左側通行だから平気よ。」
香澄:「ランナバウトさえクリアすればね。」
瑠奈:「ランナバウト?」
香澄の運転でパブに出かける。
途中、道の真ん中に丸いサークル状のシケイン?が現れる。 交差点の各道路はこのサークル状の道に繋がっていて、それぞれめいめい好き勝手に合流、目的の方向に離脱していく。
香澄:「これがランナバウトよ。」
瑠奈:「なんでこんな面倒くさいものがある訳? 一体何時、中に入っていけば良いのよ? 皆全然止まってくれる気配ないじゃない…。」
香澄:「とにかく右から来る車に注意して後は合流できるときに無理矢理割り込んで…合流する! 慣れればどおって事ないわ。 これのお陰でイギリスの道路には殆ど信号が無いのよ。 止まる必要も無いのに止まらなくって済むって訳。」
瑠奈:「しかもこれをマニュアルでやれって言うの? 何でオートマ借りといてくれなかった訳?」
香澄:「文句言わない。 こっちは大体マニュアルなのよ。」
伊織と涼子は後部座席で右に行ったり左にいったり…
伊織:「急加速に急ブレーキ、しかもサークルで横G来るから、あんまり気持ち良いもんじゃないよな…。」
涼子:「…。」
瑠奈:「ちょっとスピード出しすぎじゃない?」
香澄:「この道60よ。」
瑠奈:「うそ、もっと出てるでしょう! 現役警察官舐めるんじゃないわよ!!」
香澄:「だから制限時速60マイルよ!」
瑠奈:「時速100km? こんな田舎道で? 危なすぎ! 路肩だって崩れてんじゃない!!」
香澄:「がたがた言わない! 慣れろ!!」
伊織:「なんかあの二人、結構仲良さそうで良かったな。」
涼子:「…。」
とりあえず、こんな感じで五行聖獣軍団のイギリス遠征がスタートする。