社交界デビュー
「足元を、気を付けて」
「ええ、ありがとう、ロック」
「エレナス!アイラへ」
「ハイ、ロック」
アイラ。
それは、エレナスの宇宙船とは違う宇宙船。
赤い、メタリックの船だ。
入ると、まず、受付があった。
「こんにちは、どちらの船ですか?」
「ああ、エレナスの、ロックだ。こっちはタニア」
「はい。エレナスのロックと、タニアさん。ですね」
「……ああ、そうだ。タニアは、人間だ」
「はい。人間ですね。会場へどうぞ」
「ありがとう。……タニア、行こう」
会場へ、
会場は、メタリックの床に、赤い絨毯が敷いてある。
煌びやかな、白い城が作られてる。
そこには、人が沢山いた。人々はみな、正装をしている。
「タニア、こちらへ」
「ええ」
一階では、優雅にオーケストラが演奏している。
「静かな、いい音色だ。そうは思わないか?タニア」
「そうね。いい音色、クラシックかしら」
「だろうね」
そう言い合う二人。
タニアは、ピンクのドレスに身を包み、頭には、ティアラを付けていた。
「あら、ロックさん、ご機嫌麗しゅう?」
「ああ、ミルさん」
そう話しかけてきた、ミルは、一見人間っぽいが、彼女もアンドロイドだ。
紫色の長い髪を束ねている。
白いドレスに身を包んで、しとやかな表情の彼女は顔も可愛い。
「こちらは?」
そう、タニアを見た、ミルは言った。
「申し遅れた。こちらは、タニアと言う、人間です」
「タニアです。よろしくミルさん」
「あら、貴方がタニアさん?今日の宴は、貴方の歓迎会だと、聞きましたわ」
「そうなんですの?私、知りませんでしたわ」
タニアは、そう言った。
「そうだった。タニアにはほとんど知らせてなかったんだ」
「そうでしたの」
その後、しばらく、話した。
「それじゃあ、この辺で、ロック、タニアさん」
ミルは、そういって、去って行った。
「ロック、私何か食したいわ」
「そうか、いいよ、行こう、タニア」
食事はバイキング形式になっていた。
しかし、並んでいるのは、高価で、美味しそうなものばかり。
「ああ、お腹空いてたの」
「そうかい、存分にお食べ」
食材を、お皿へ盛るタニア。
下にこんな文字が、
貝ときのこのクリーム和え。
パエリア。
それを、タニアは口に運ぶ。
はむはむ、
ムシャムシャ。
「ああ、美味しい」
「美味だ、そうは思わないかい、タニア」
「ええ、そう思うわ、ロック」
タニアは、ロックにそういって、微笑した。
中央には、社交ダンスを踊っている人々がいる。みな、アンドロイドなのだろうか?タニアはそう、 考えていた。
「ロック、私も、躍りたいわ」
「ダンスをかい?君には、ダンスは教えて……」
「大丈夫ですわ」
ささーー、と、タニアは、中央の踊り場に躍り出た。
ちゃん、ちゃちゃん……。
音楽に合わせて、タニアは身体を動かした。
その踊りは、島で踊っていた踊りだった。
「おお、なんだい、あのレディは?」
「綺麗だ、踊りが、彼女の情熱を表している」
そう、口々に語られた。ロックも、満足そうだ。
そこで、アナウンスが……。
―踊っていますのが、今日の、主役、タニア様でございます。
「おお、彼女が人間の……」
「ぜひ、お近きになりたい」
ざわざわ、
と、会場がざわめく。それを聞いたロック。
―彼女は、この社交界の主役になれる人だ。
そう、思った。
「ロック。あのお人は何処から?」
「ああ、彼女かい?地球だよ」
「良い人を見つけましたね。うらやましいよ、ロック」
「そうかい?」
そうは、いったものの、彼女に求愛してくる男性の多い事。見ていたロックは、
「タニア!こっちだ」
そう、叫んだ。
「ロック?どうしましたの?」
ドレスを手で浮かして、近寄ってきたタニア。その、タニアの手を握りしめて、
「疲れただろう?休憩しよう」
「ええ、そうね」
タニアは、不思議そうな顔をしながらも、ロックに従った。
―彼女は、この社交界では、少々危ないかもしれない。
ロックは、そう思った。
「このテラスで……」
すると、そこにも、タニアを追う、男たちが、
「おお。タニア、君はまさに宝石の様だ」
「僕らと、遊ぼう?人間のタニア」
「え?ええ……」
そう言って、立ち上がりかけたタニア、その時、足の方が、宙に浮いた。
「?」
ロックが、彼女を抱き上げたのだ。
「失礼」
「ロック、どうしましたの?」
「タニア、食事をしに行こうか」
「?ええ」
タニアを降ろした。ロックたちは、そういってバイキングへ、
すると、タニアの周りに、また人だかりが、
「タニア、綺麗だ」
「タニア、僕と踊ってくれ」
すると、ロックは、
「タニア、僕と踊ろう」
「ええ、ロック」
踊り場中央で、優雅に踊るロックとタニア。
〔タニア、君は僕のものだ。〕
小声で、ロックはタニアにささやいた。
「ロック……」
ひとしきり躍った後、ようやく、宴も終焉に、
二人も、アイラを後にした。




