緊迫
狭い寮の部屋だ。隠れる場所なんて限られている。
風呂場とトイレと押入れくらい・・・。
風呂場は湿気がこもらないように扉は開いているので、隠れることはないだろう。
シゲさんがトイレの扉に手をかけソーっと開ける。
・・・・・誰も居ない。
フゥ~と息をつき押入れの前に3人並んで見つ合う私達。
部屋はシーンと静まり返って緊張感が漂った時、コトッ・・・
小さな音が中から聞こえた
その瞬間シゲさんが押入れを勢いよく開けた。
私は押入れの中の裕が以前入って来た天井裏に行ける天板に思わず目を向ける。
おばさんも音がしたのが上の方だと気付いたのか、同じ方を見たらしい。
きちんとはめたはずの天板が少しズレていて、その向こうの暗闇の中の眼を見て、おばさんは悲鳴をあげた。
おばさんの悲鳴で眼は暗闇の中に隠れたが移動した気配は無かった。
シゲさんは大きな声を出した。
「そこにいるのは誰だ!出て来い!!」
5秒ほど静寂が漂った後、シゲさんの痺れが切れたのだろうか。
押入れに手を掛け片足が上がりかけた。その時、押入れの中の天板が動きポッカリと黒い四角い穴が開いた。
シゲさんは上がりかけた足を下ろして降りるスペースを空けるために後ろに下がった。
暗闇の中から足・・・胴体・・・徐々に姿が現れる。
最後に頭が出てくると、3人は誰だか理解できて安堵した。
出てきたのは裕。
隣の空き部屋となった部屋はカギがかかっておらず自由に出入りできたらしく、この部屋に入ってきたらしい。
「美那。少しの間この部屋借りるぞ」
シゲさんは有無を言わさない態度でそう言うと、裕を部屋に座らせ私とおばさんに仕事に戻れと部屋から追い出した。
おばさんは一安心したのだろうフーッと息を吐いた。
私も侵入者が裕だと分って少しホッとしたと同時に大事なことを思い出した。
「っていうか私今日休みなんですけどっっ!!」
「あ~・・・俺が戻るまで俺の代わりだ!!」
扉の中から返事があった。
ふくれっつらの私の肩に手を置き、諦めなさいと言うようにおばさんが私を会社の方へ促す。
せっかくの休日なのに歓迎されない来客ばかり
挙句には仕事させられてる・・・
「今日は厄日だ・・・」思わず声が出てしまうと会社の人たちはプププと噴出すように笑う。
フゥ・・・
私は溜め息をこぼしながら時計に目をやると、追い出されてから二時間は超えている。
外が少しずつ暗くなってきているのを見て、今日の私の休みが終わっちゃう。なんてことを考えているとシゲさんが戻ってきた。
「待たせたな。仕事ご苦労さん♪帰っていいぞ」
いやいや・・・何を喋ってたんですか?!裕は帰ったの?何しに来たの?っていうか無断で・・・教えてくれてもいいじゃない?
声にも出してなかったけれど、しっかり顔に出てたのだろう。
「聞きたいことは自分で本人に聞け」と言われてしまった。聞けと言うことは、本人はまだ居るって事だろう・・・
美那はフゥ~と溜め息をつき「お疲れ~」と自宅へ戻って行った。