来客
バタバタした前回の休日から1週間。今日は休日。
あれからすぐに裕は寮を出て仕事も辞めて自宅に戻った。それ以来、何の連絡もきていない。
今日は何の予定もないし平和な休日になりそうだ!
美那は溜まった洗濯物を洗濯機に放り込み空を見上げて伸びをし・・かけて後ろの何かに拳がぶつかった。
「いっっ・・・てぇ」
慌てて振り向くとシゲさんが顔を抑えてしゃがみこんでいた。
「シゲさん!?大丈夫??」
「あぁ・・・驚かそうと思ったらこっちがやられたよ」
シゲさんは顔をさすりながら苦笑いをしている。大丈夫そうだとホッとしたのもつかの間
「お前にお客さんが来てるぞ。可愛い子」
「はぃ??」
予想外の言葉に驚く私を気にせず言うシゲさん。
「表に立ってると思うから早く入ってもらえ。立ったままで可哀想だぞ」
言われるがまま表に向かって走り出した。
お客さんって・・・?私を訪ねて来る人なんかいたのかな?
表に出ると1人見覚えのある人物が立っていた。目と目が合って私は走ってきた足を止め、走ってきた方へ向きなおし歩き出そうとする。
「ちょっと美那!!Uターンしないでよっっ」
大声で呼び止めながら走りよってくる人物。
私の姉だ・・・・
私は大きく溜め息をついて言った。
「何しに来たの?」
「何しにって様子を見に来たに決まってるでしょう」
「だから何で見に来る必要があるの?私が何してたって気にならないでしょっ」
「あ~・・・モメてる所、大変申し訳ないのだが。」
後ろから声がするので振り向くとシゲさんだった。
「悪いんだが表でケンカされると客が逃げてくんだよな~話なら中で茶でも飲みながらしてくれないか?」
そう言ってニヤッとするシゲさん。
渋々「どうぞ」と姉を中に入れた。
お茶を準備している間、姉とシゲさんが話をしている。
私は急いで準備してお茶を運ぶと、シゲさんがまたニヤリと私に笑みを飛ばして歩いて行った。
何だかんだとシゲさんの思惑通り(?)に動かされてる気がする・・・。歩いていくシゲさんの後ろからフン!と悪態をついてみるがシゲさんには届かなかったようだった。
お茶を差し出しながら
「で。様子見て何を誰に報告するつもりなの?」
疑問をストレートに投げかける。
「そりゃ~ここで働いてるって私に教えてくれたオバーチャンよね?1番あんたの事を心配してるんだから」
姉は私の出したお茶をすすりながら応える。
「お婆ちゃんに報告するために来たの?頼まれたの?」
私はまた聞く。
「え??見に来ようと思ったのは私の意志よ。ここに行ってみると伝えたら、帰ってきたら『元気だったか』『不都合はないか』聞いたこと知らせてって言われただけよ」
「ずっと私のすること全部に無関心だったのに様子見に来ようなんて、珍しいこともあるのね」
皮肉を込めて言ったつもりだったのだが、姉は「そう?」と気にもしていないみたいだ。
「私だって2人しかいない姉妹だもの。たまには心配になることもあるわ」
正直少し驚いた。こんな事を言うのは初めて聞いた。
それから仕事の様子を聞いて姉は帰っていった。
私は、これだけで疲れ果ててしまった。
もう1日終わってしまったかのような疲れだった。
部屋に戻って今日はゴロゴロして過ごすことにしようかと思った瞬間シゲさんの叫ぶ声が聞こえた
「おい!美那!手が空いたんならサッサと洗濯物干せ!邪魔だ!」
ああ~っっ!忘れてたっ!
私は洗濯機に向かって走り出した。
洗濯機から洗い終わった洗濯物を取り出してシゲさんに
「お待たせ!あきました!」と叫び返してみる。
いつものニヤリの笑顔を私にくれて
「俺は洗濯機は使わない」と言いながら戻って行った。
一部始終を見ていたパートのおばさんが大笑いしている。
私はム~とふくれた。
私が怒った顔をしたのに気付いておばさんが口を開いた。
「シゲは最近どうもアンタが気になるみたいねぇ。今だって姉さんが来たことで洗濯物の事忘れてたろ?それを教えてくれたんだよね」
「教え・・・?教えるならもっと普通に教えてもらいたいわ」
私が溜め息混じりに言うとおばさんは再び笑い出し
「しょうがないよね~シゲはこういうふうにしか言えないもの」
・・・まぁ確かに。それで私もここに来たばかりの頃は嫌われているとも思ったし、苦手でもあった。
「それにしても、も少し素直な方が可愛気もあるのに・・・」
つい言葉に出てしまい、おばさんをまたもや笑わせてしまったので、洗濯物を抱えて慌てて寮へと戻った。
部屋に入ると何か違和感を覚えた。
ぐる~~と部屋を見渡してみる。
カギはかけて出た。誰も入るワケない・・・あ。天井裏?
いやいや裕は、もういないから天井裏は関係ない。
でも何か変・・・そう思いながら洗濯物を干すために窓を開けると冷たい風が吹き込んでくる。
あ・・・部屋が暖かい?!誰もいなかったはずなのに。
慌てて洗濯物を干して、というより、バラバラに引っ掛けるようにして部屋を飛び出した。
そのまま会社に走り込むとシゲさんが不思議そうな顔をして私を見ていた。
シゲさんとおばさんが一緒に寮に確かめに来てくれるということになり、3人で寮に戻る。
部屋に顔を突っ込んだシゲさんは
「本当に温かいな~ストーブつけたまま出たんじゃないのか?」と聞いてくるので
「朝からずっと、さっき帰った時もストーブ触ってないけど点いてる?」と聞いてみる。
部屋に上がってストーブのコンセントが抜けているのを確認。
だけど正面からの熱が先ほどまで誰かが使っていたのを教えていた。
3人は顔を見合わせてゴクリと息を呑んだ。