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Step  作者: 雅猫
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長い1日

-長い1日-


商店街の喫茶店に入ったら、休憩時間と重なってたようで会社の気に入らない上司のシゲさんが、のんきにコーヒーを飲んでいた。


私が入って来たのを目敏く見つけて手招きされてしまった。

シゲさんはとても厳しい人で、すぐ大声で「辞めて家に帰れ」と怒鳴る。

私にとって1番苦手な人だった。

話によると今日はこの休憩時間までの勤務で仕事が終わって一息ついてから帰るらしい。


タイミング悪く捕まってしまったので、早く帰ればいいのにと思いながら話を聞いていた。


じっくり話をして分ったのは、シゲさんは本当は嫌な人じゃなかったということ。

私が家に連絡も入れていないことを知っていて、家族も心配しているのだろうとか、私の今後のこととか色々心配してくれてたみたい。

それでも「帰れ」はナイと思うけどなぁ~・・・


仕事のことも細かいことまで「こうした方が楽になる」とか色々教えてくれた。ついでに寮には暖房器具がないので、寒くないか心配までしてくれて最終的に電気屋さんにまで引っ張って行かれ、電気ストーブを買ってくれた。


案外いい人だったと知って驚いたけれど、もともと声が大きくて怒鳴られてる気分になるのは、あまり変わらないかもしれない。

それでも相手の事を思って言葉にする人だということが分ったので、これからは怒鳴られても平気かもしれないなぁ~なんて思ってしまった。


そんなこんなで、いつの間にか辺りはすっかり暗くなってからの帰宅になった。

朝の出来事もすっかり過去のものになりつつ・・・。


1つ言っておくけど、ストーブを買ってもらって気分が良くなったってわけじゃないのよ?



ストーブを両手で抱えて部屋に入ると裕がくつろいでる。

「だから勝手に人の部屋に入らないでよね。いつも何でも勝手にするんだから・・・付き合わされる人の身になりなさいよね」


私は裕の顔を見たとたんに今朝のことを思い出し憎まれ口を叩きそうになる。


「今日はごめんな」

裕は苦笑いをしながら言った。

事が事なだけに珍しく反省してるみたいに見えた。


「1つ疑問なんだけど・・・」

今朝の事で気になることが私にはあった。


「裕の言葉で何も聞いてないんだけど?彼女が言ってたことは本当なの?

それとも、仕事辞めたくないから逃げる口実で私を出しただけ?」

部屋の入り口付近に腰掛けながら率直に聞いてみる。


「俺・・・人を好きになるって、どういう事か分らなかったんだ・・・。

彼女と付き合う事になったのだって、好きな人がいないのなら、そういう人ができるまでーって言われて付き合ってたんだ。」

ポツリポツリと喋り出す裕。


「こんな気持ち初めてで・・・どうしていいか分らなかった。

お前に伝えるのも・・・どうしていいか分らなかったんだ。伝えていままでと同じ毎日・・・とも行かない気がして。言えなかった。

お前は俺の事、何とも思ってないこと知ってたから。

でも・・・彼女とこのまま付き合う気になれなかったから・・・お前に言う前に彼女に言ったんだ。」


裕はそれだけ言うと、そのまま黙って下を向いていた。


ふと手に感触を感じ目をやると、ストーブを抱えたままだったことを思い出した。

畳の上に荷物を降ろしダンボールを開けていく。

裕も私が開け始めると不思議そうな顔をして見ている。


「これ何だと思う?」

私の質問に黙ったまま。でも視線は「それ何だ?早く見せろ」と言っているようだった。

出てきたストーブを見て嬉しそうな顔になった裕。

「いいでしょ~~♪私のだよ」

得意気に見せながらコンセントを刺す。


部屋が暖かくなるのを感じながらストーブの赤い光を眺めて

今日1日を振り返る。

今日は何だか色んな事がありすぎて疲れた。

悪いことも良いことも重なって感情がついてきてない気がする。

私の意志と関係なく周りがグルグルしてるのが多少気に入らないけど、これも他人と関わって生きてるから仕方のないことなのだろうか。


ふと気付くと温かくなってきた美那の部屋で眠ろうとしている裕が目に入り、慌てて立ち上がる。

「裕!こんなところで寝ないで!部屋に戻りなさい」

目が閉じかけていた裕に向かって大きな声で起こして部屋へ押し戻した。


私も疲れちゃった・・・さっさと寝てしまおう

美那は電気を消して布団の中に潜り込んだ。


そういえばシゲさんが今日、連絡できる家族には居場所をきちんと知らせておくように言われたっけ・・・

また明日の休憩時間にでも電話だけしておくかなぁ~・・・

そんなことを考えながら深い眠りに入っていった。

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