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死の都市  作者: LION
第三章 
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第二十五話 疑問 

 先程私たちが通り固く閉めたはずの門は開け放たれ、無数のゾンビが庭園に流れ込んできていた。


 いくつかの不可解な疑問が頭を過った。まず第一に扉は施錠してあったはずだ。施錠し忘れていたにしても、知能が著しく低いゾンビがあのスライド式の重い扉を開けられるわけがない。そして目が見えないゾンビは音をたてているモノにしか反応しないはず。屋敷内に私達が入った今、門の外から人間の存在に気付くことなどあるはずないのだ。しかしこうなってしまった以上ごちゃごちゃ考えている暇はない。

 

「……悪いがゆっくりしている時間はなくなってしまったようだ。相田さん、裏門まで案内してくれるか?」

「う、うん……」


 私達は各々武器や荷物を手にドアの前に集まった。佐伯くんがドアノブに手をかけ、こちらを振り返る。


「なるべくゾンビは俺と須藤……あと伊東さんで倒すようにするが、いざという時は奴らの頭を狙え。噛まれたら終わり……攻撃を躊躇しても終わりだぞ」


 戸惑いながらも二人が頷いたのを確認すると彼はドアを開いた。


……ドーーン……ドーーン……


 一階から音がする。それが吹き抜けの二階廊下まで響き、屋敷内に木霊していた。玄関扉が振動し、音がする度に扉の隙間から光が差し込んでいる。私達は階段を全速力で駆け降り始めた。


「ヤバいな……急がねぇと雪崩れ込んでくるぜ」

「音を聞く限り一、二体が体当たりしているようだが……凄まじい力だ。突破されるのも時間の問題……」


 佐伯くんの声に被って一際大きな破壊音が聞こえた。目をその方に向けると扉が傾いて隙間から青白い手が覗いている。


「走れっ!」


 一階廊下に響き渡る私達五人の足音。ただただ恐怖に煽られながら足を動かした。


 私達が裏口があるらしい部屋に滑り込んだのは扉が床に倒れ落ちる音とほぼ同時だった。


 その部屋は倉庫のようだった。木の棚には書物や箱がきっちりと並び、床には古い新聞紙が平積みになっている。相田くんが先頭になって段ボール箱に囲まれた狭い通路を進み、曇りガラスのドアの正面に立った。


「え、えと。このすぐ先に裏門があるんだけど……」

「……外にもう奴らがいるみてぇだな」


 唸るような呻き声がドアから僅かに漏れ出てきていた。すぐそこに――いる。一番廊下側にいる奈美さんが焦りを隠せない様子で佐伯くんの服の袖を引っ張った。


「ちょっと、廊下の方からも聞こえてくるよ!」

「ああ、もう引き返すことはできない。行くぞ!」


 相田さんがわきへ退き、佐伯くん、続いて須藤くんが前へ進み出た。木刀と斧をそれぞれ構える。私も相田くんに貰った警棒の長さを調節し、警棒と、もう片方の手に空き缶を強く握り締めた。


 音を立てないよう慎重にドアが開かれた。薄暗い倉庫内に昼の明るい陽光が差し、埃がキラキラと舞うのが見える。


「…………!」


 ――息が止まった。裏門までの距離は学校のプールくらいの長さで、約二十五メートル。その間にゾンビが数十体。多すぎる。裏門でさえこれなのだから正面玄関から屋敷内に入っていったゾンビの数は計り知れない。音をたてれば正面玄関から回ってこちらにやって来るだろう。それより早く突破する必要がある。


 最後尾になった相田くんが後ろ手にドアを閉める時、微かに鳴ったガチャンという音が静かな昼下がりの裏庭に響いた。


「……ぁっ」


 相田くんが思わず声を発する。手前にいた数体が一斉にこちらを向き――それと同時にその内の一体の首がグリンとあらぬ方向に曲がった。


ズシャアァ……ッ


 横から凪ぎ払うように加えられた衝撃に、ゾンビは体を大きく捻って俯せに倒れた。瞬く間にその頭部の周囲の芝生が赤黒く染まる。


「最初のミッションだな。勝利の条件は一人も噛まれずに裏門に辿り着くこと……だ!」


 そう軽い調子で言いながらも須藤くんは新鮮な血に濡れた斧を左から近付いてきたもう一体に叩き込む。右では佐伯くんが無駄のない華麗な剣さばきでゾンビの頭に次々と木刀を打ち込んでいた。


 しかし――やはり数が多い。音につられてゾンビが二人の周囲にわらわらと集まってくる。地面が土のため空き缶の音で誘導することもできず、厳しい状況にあるのは見えていた。


「……くっ!」


 斧を大きく振りかぶった須藤くんに横から別のもう一体が手を伸ばす。間が取れず後退を余儀なくされているようだ。このままでは屋敷を背に皆追い詰められてしまう。……よし、行こう。


バシィッッ……


 再び斧を持ち上げた須藤くんに掴みかかろうとするゾンビの腕に警棒を思い切り降り下ろす。意外に固く、よくしなる。腕に相当のダメージを与えたようで、ゾンビは動かなくなった片腕をブランブランとさせている。そして白く濁った目が恨みがましく私に向けられた。……怖い!


ガンッ


 白い瞳が消えた。大きく仰け反ったゾンビは後ろ向きに倒れた――頭を強打されたのだ。


「……はぁっ、女の子に変態染みた目向けてんじゃないよ、おっさん!」


 奈美さんは額に汗を浮かべて、もう動かないおじさんゾンビに吐き捨てるように言った。


 ゾンビが多い……! 倒しても倒してもきりがない。裏門に駆け抜けようにも密集したゾンビの群れが邪魔だ。佐伯くんも徐々に追い詰められている。数が多すぎるのだ。


ビシィッッ……


 奈美さんと協力して一体ずつ倒していると、聞き慣れない物音をとらえた。音のする方に目を向けると、丁度ゾンビが足から崩れ落ちるところだった。その足元の地面には小さな金属の玉が転がっている。相田くんのスリングショットだ。


 彼の放つ鉛玉はゾンビの足を的確に打ち、その衝撃にゾンビは次々と膝を地面につき倒れ込んでいった。佐伯くんたちに近寄ろうとしている少し離れたところにいるゾンビを狙っているようだ。


 倒れてもなお這いつくばって血肉を求めるゾンビ。地面を這うそれらに気付かずその背中を踏みつけたゾンビがバランスを崩す。それが連鎖となりゾンビが次々と倒れていく。


「今だ、行くぞ!」


 佐伯くんの声を合図に私たちは倒れたゾンビの群れの間を縫うように走り抜けた。


「へぇ、なかなかいい狙撃の腕持ってるじゃねぇか」


 門に着き相田くんが錠を外すと、須藤くんがこちらに這ってくるゾンビの群れを眺めながら相田くんに言った。玉のような大粒の汗を流し背中で息をする須藤くんの口元は満足そうに笑っている。相田くんも少し困ったように薄い微笑みを返した。


 門から出るとき、何気なく屋敷の方を振り返った私は先程いた倉庫に続く曇りガラスのドアに映る異様な影に気付いた。……大きい。人の原型を留めているゾンビとは明らかに違う。二メートル以上の高さに横幅もある。ガラス越しにも肌が不気味なくらい真っ白なのがわかる。背筋が凍りついた。何なの、あれは?


「伊東さん、走るぞ」


 いつの間にか私の隣に並んで立っていた佐伯くんが緊張感あふれる声で呟いた。彼もあの存在に気付いたのだろうか?


 手を伸ばし地面を這ってくる髪の長い少女のゾンビの鼻先で裏門は再び閉められた。


「走れっ……!」


 ゾンビの群れから無事逃れ安堵の息をつく間もなく佐伯くんが急かす。


「あぁ!? どうしたってんだよ」

「門を突破してきた奴らだ――油断しきってのんびり歩けば危機的状況に陥るのは目に見えてる。……まぁ詳しい話は後だ」

「どっちに行けばいいの?」

「駿が途中まで知ってるんだったよね。和泉商店街だっけ?」

「うん。この道を真っ直ぐだ」


 道路に疎らに点在するゾンビたちを避けながら私達は走った。目指すは和泉商店街だ。

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