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第二話 キャラクター紹介は重要ですbyなつめ3

「ふっふっふっ。……困っているみたいだね~、楓くん!」

「こ、この声は……!!」

 ドアが勢いよく開く。

 そこには数学担当の教師、兼この部活の顧問の瑞本楸(みずもとひさぎ)先生がいた。

 ここで先生の説明を簡単にいれておこう。えと、まず顔立ち。大人なんだけどまだ幼さが残っている感じ。子供っぽい性格にはとても合っている。髪は部長程ではないけど結構長い。大体腰辺りまである。クリーム色で、サラサラしてて柔らかい、……らしい。

 なんかこの部活、幼い感じのキャラ多くないかな……。

「気のせいでしょ」

「そうですね、気のせいで、ってなにまた人の心の中読んでるんですか、部長!!」

「私くらいになれば人の心を読むなんて朝飯前よ」

「部長はどんな存在なんですか!?」

「そんなのは楓自身で考えなさい」

 そう言うと部長は自分の席に座って、部活が始まる前に煎れたお茶を飲みながらパソコンをいじりはじめた。なんかもう僕の説明とか忘れてるでしょう、部長。

 部長と会話が途切れたのを見計らって先生が話し掛けてくる。

「さあ、楓くん。その説明、ワタシが手伝って、」

「遠慮しときます」

「返事早っ! まだ全部言い切れてない、」

「遠慮しときます」

「なにも言わせない気かぁぁぁああっっ!!」

「いや、先生がいると余計話がメチャクチャになりそうなので……。どうぞ職員室にお戻り下さい」

「ひどいよ~!」

 先生は泣きながらなつめちゃんに抱き着く。なつめちゃんは抱き着いてきた先生の頭を優しい顔で撫でて慰めていた。その姿はまるで天使のよう。

「先生、大丈夫ですよ。やり返せばいいんです。方法は私も考えてあげますから」

 ……さっきの発言は撤回で。なつめちゃんは天使の皮を被った悪魔だよ……。

「わかった! ワタシめげないよ!」

「じゃあ、早速反撃開始です」

「オッケー!」

 先生が突撃してくる。僕はそれを横に避けようとしたが、その行動は読まれていたらしくガッシリと捕獲された。

「楓くん、ゲットだぜ!」

 そしてそのままほお擦りされる。

「あぅ、やーめーてー」

「かわいいな~、楓くんは」

 振りほどこうとしたけど全く振りほどけなかった。

 諦めて部室を見渡すといつのまにか梓がいなくなっている。

「あれ? 梓は?」

「梓さんなら電話があって“ちょっと助っ人に行ってくる”って出ていきましたよ」

 なつめちゃんはいつの間にか読んでいた本から顔を上げて答えてくれた。

 突然過ぎる。そしていったいなんの助っ人に行ったんだろう……。




 それから数分後、僕はやっとのことで先生の束縛から抜け出し、再び捕獲しようと迫ってくる先生から逃げ続けていた。

 その時、ドアが開く音が聞こえたのでドアの方を見ると、ブレザーを脱いで袖をまくった梓が入ってきた。なぜか体には沢山のアザや擦り傷を負っている。

「あつ~い。ただいま~」

 まるでなんでもないような感じで定位置に座ってお茶を啜る。

「……はぁ、お茶うまっ」

 …………。

 ………………。

 ……………………。

「って、いやいやいや、なんかほのぼのしてそのままスルーしそうになったけど、なにがあったの!?」

「え? 野球部の助っ人に行ってただけだけど……」

「どんな野球をしたらそんなに傷がつくのかな!?」

「普通にやってたら、なったんだって」

「だからそれがどんな野球なの!?」

「だから普通の野球だって」

 梓は“なに言ってるの?”といった顔でこちらを見てくる。

 ……多分これ以上聞いても同じことを繰り返しそうなので、諦めて自分も席に座る。

「で、本題のキャラ説明はどうなってるの?」

 梓が部活の進行具合を確認してくる。

「全然進んでないよ。ワタシが手伝うって言ったのに~」

「そんなこと言いながら僕をほお擦りしてただけじゃないですか、先生」

「あっれー? そうだったっけ?」

「そうでした。というより無駄話はやめて早くキャラ説明を終わらせましょう」

「賛成。野球で疲れたから早く帰りたい」

「はい、じゃあまず部長の説明から」

「ハイ!!」

「はい、じゃあ梓。部長の説明をどうぞ」

「部長は天才ハッカーだよね~」

「あと第一印象は、クールでカッコイイです」

「でも、えんじゅちゃん、第一印象は“クールでカッコイイ”だけど中身はこどもだよね~」

 僕は梓となつめちゃんとひさぎ先生が言ったことを学生カバンから取り出したノートの適当なページにまとめる。

「部長の説明を簡単にまとめるとそんな感じですね。じゃあ次は……」

「お兄ちゃん!」

「じゃあ次は僕の説明を簡単にまとめて」

「一言で、女の子より女の子な女の子!」

「え~と、女の子より女の子な女の子と」

それを僕はノートに……、

「って、ちょっと待ったーーーーーっ!!」

「なに? どうしたの?」

「“なに? どうしたの?”じゃないよっ! 女の子より女の子な、ってところはまだ仕方ないとして、最後の女の子は違うでしょ!?」

「どこが?」

「僕は男だーーーーーっ!!」

「わかった、わかった。じゃあ、女の子より女の子な男の子ね」

「まだそっちのほうがいいよ」

 どうせ否定できるような要素がないし。若干泣きそうかも。

 僕はノートに、決定したその言葉を書く。

「はい、じゃあ次はなつめちゃん。え~と“天使の皮を被った悪魔”と……」

「ヒドイです」

「そうだよ~、ヒドイよお兄ちゃん。もっと優しくオブラートに包まないと」

「そうです、そうです。…………?」

 なつめちゃんはなんかしっくりきてない顔をしていた。できればこのまま気づかないでほしい。

「ということでクリオネとかどう?」

「ピッタリあてはまるね」

「そうですか?」

「そうだよ。かわいいところなんて海の妖精って言われるクリオネにピッタリだと思うよ」

 それと、いじりがいがある人を見ると、とことんいじるところとか。まるでクリオネが食事をするときに変貌するみたいで。

 もちろん口にはせずに心の中でそう続けた。

「そうですか。うれしいです」

「じゃあクリオネに決定」

 僕はノートのなつめちゃんと書かれたところに“クリオネ(いろいろな意味で)”と書く。

「次は梓」

「私はスポーツができて、頭もまあまあよくて、それにそれに……」

「一言で言うと、いたって普通だよね」

「そうですよね。これといった特徴ってないですよね」

「な、なんか酷くない!?」

「でも事実だし……」

「そんなことないよ! あるよ、特徴!」

「例えば?」

「例えば……」

 …………。

 ………………。

 梓はその場に崩れ落ちた。

「梓は普通と」

 僕はその悲しい事実をノートに書き込む。

「さっきの助っ人の(くだり)には触れちゃいけないのかしら……」

 部長がなにかを言ったような気がしたけど、特に気にするようなことでもないような気がしたのでそのまま流しておいた。若干部長を受け流すスキルを習得しかけてる、と思う。

「次は先生。え~と、ロリコンとショタコンと」

 僕はノートにその単語を書こうとしたところで手を止める。

 先生になにか言われるかもしれないと思ったけど、特になにも言ってこない。

「いいんですか、先生。僕、本当に書いちゃいますよ」

 僕は先生の方を向いてそう聞いてみる。しかし先生は、

「別にいいよ~。事実だし」

 と言ってロリコンとショタコンということを認め……、

「あっ! ゴメン、ゴメン。間違えてた。楓くんが好きなんだよ~」

 先生は突然そう訂正して僕に抱き着く。

「うわっ! 離れてくださいよ!」

「いやだよ~」

 先生はさらにほお擦りしてくる。

 ここまできたらほぼ逃げ出せないうえに、逃げ切っても疲れるので、逃げるのは諦めてノートの先生のところに“危険人物”とだけ書いておいた。

「まとめた……。……帰ろう」

「よし、じゃあ部活終了! みんな帰るわよ!」

 後半全然喋らなかった部長がとても元気良くそう宣言すると、各々、荷物を持って部室を出る。

「お兄ちゃん! はやくはやく!」

「ちょっと待って!」

 僕は部室のドアに鍵を掛けるとみんなのところに駆け寄る。

「部長。明日はなにをやるんですか~?」

「聞きたいの、梓。それはね……、明日になるまでわからないわ!」

「……だと思いました」

 梓はやれやれと首を横に振る。なつめちゃんはそれを見てニコニコ笑っている。二人とも楽しそうだ。

 僕たちは玄関に着くと、靴を履き、外に出る。

「それじゃあまた明日」

 先生はまだ学校に残らないといけないため、玄関で僕たちのことを見送ってくれた。

 学校に続く坂道を下ったところで部長が、「それじゃ、私はここで」と、言って僕たちが帰る道とは違う道を歩いていく。

 その部長の背中を見送りながら梓が、「いや~、楽しかったね~。今日の部活も」と、微笑んで言った。

「そうですね。とても楽しかったです」

 なつめちゃんも微笑む。

「よし、じゃあこれからも楽しい部活にしていこう!」

 僕はそう言って握った拳を掲げる。

『おーーーっっ!!』

 梓もなつめちゃんもその考えに賛成してくれて、僕たちは三人で春の夕焼けに拳を掲げるのだった。


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