第二話 キャラクター紹介は重要ですbyなつめ2
「さあ、今日やることは……」
梓となつめちゃんが来てからすぐに部長は部活を始めた。今日はよっぽど早く部活を始めたいらしい。なにかいいテーマでもみつけたのかな?
「今日のテーマだけど、私は思ったの。まだ見た目等の説明が書かれていない人が一人いると」
まるで力のこもった演説のように、大袈裟な身振りをしながら部長が話す。
「へー、そうなんですか」
とりあえず、さらっと流して今日の会話のネタを聞こうとした。けど部長は呆れた顔で、
「なにそのテンション。楓自身のことを話そうとしてるのに」
「へー、そうなんですか~、って僕ですか?」
「そうに決まってるじゃない。楓視点のせいで楓以外のキャラの説明ばかり。そしてそのせいで楓自身の説明が全然できてないじゃない」
うっ、確かに他の説明ばっかりで自分の説明するのをおもいっきり忘れてた。というより、どこですればいいのか判らなかった。
「とにかく! 今日は読者に楓の容姿や性格等をお伝えしようと思うの!」
「いや、いいです。自分で伝えます」
この人にそんなのやらせたら読者の方々に変なイメージを定着させてしまう。絶対に。
「ダメよ! そんなんじゃ話が広がらなくて文字数が稼げないでしょ!!」
「知りませんよそんなこと!! しかもそれってただ単に僕をいじって遊びたいだけじゃないですか!!」
「まあ、そうとも言うかもね~」
「やっぱり。だからこれはやめて他のことをしましょう」
「二人はどう思う?」
僕のその言葉を無視し、部長は僕達が言い争っている間に楽しそうに会話をしていた梓となつめちゃんに意見を問う。
それを聞いて梓は、
「さんせ~い」
と、その一言で兄いじりに参加。そしてなつめちゃんも、
「あっ、じゃあなつめも……」
と自分の意見を主張できずに他人の意見に同調してしまう姿勢で賛成。
「ということで多数決により決定!! 今日は楓いじりだー!!」
なんかもう僕の容姿や性格じゃなくて僕をいじることがテーマになっている。
「まず見た目よ」
「見た目ですか~」
「見た目ですね?」
なんか三人で話している。ちゃんと聞いてないとなにを言われるかわかったもんじゃない。こっちを見ていないことからそのまま伝えるってことは絶対にしないっぽいし。
「髪の毛ツンツンにしちゃえば? 某有名RPG七作目の主人公みたいに」
「そこはその主人公の宿敵みたいにすごく長くするっていうのもありだと思います」
説明でもなく、こうしちゃえばっていう提案になってる!
…………。
………………。
……………………。
「えと、僕の見た目は自分で言うのもアレだけど、女の……ふごっ!?」
このままじゃ説明じゃなくなりそうだったので、自分で説明しようとした瞬間、部長に口と鼻を手で抑えられた。
「コラコラ、なに勝手に説明しようとしてるの、楓?」
「んんんっ、んんんんっっ!」
「もしまた説明しようとしたら……、酷いことになるわよ」
耳元に押し殺した声で囁かれ、口と鼻を抑えていた手が離れる。
「……はい。もうシマセン」
「よろしい」
部長は席に戻るとまた梓となつめちゃんの三人で話しはじめた。
どうしよう? 部長に脅されたから自分じゃ説明できないし……。
よし、ここは真面目に説明してくれそうななつめちゃんを説得して説明してもらおう。
「なつめちゃん……」
「はい、なんですか?」
「お願い。真面目に僕の説明してくれないかな?」
「そうですね~……」
なつめちゃんはう~んと唸りながらどうしようか考えている。できれば悩まないで協力してほしいんだけどなぁ。
なつめちゃんはしばらく考え込んだあと、「わかりました」と協力してくれた。
「じゃあよろしく」
「はい! 任せてください!」
なんかものすごい気合いが入っている。なんでだろう、若干嫌な感じが……。
「じゃあ、まずは見た目ですね」
そう言うと僕のことをジーッと観はじめる。
「ハイ、わかりました!」
容姿の説明をするのに理解はいるのだろうか。
「まず、女の子っぽいです。いや、間違えました。ぽいじゃなくて女の子そのものです。男の子には見えません。実際なつめも初めて見た時は女の子だと思いました」
「ハッキリ言うね~」
「事実だから仕方ないです!」
「そうなんだけどね~」
「そして未だにクラスメイトの中には、楓さんのことを女の子なんじゃないかって思っている男子、女子が多数です!」
「ええっ!! それはウソでしょ!?」
「残念ながら事実です!」
三か月ほどが経っているというのに出現してきた衝撃の事実! そして残念とか言ってるけど全然残念そうに見えない!
「次は声です! 声も女の子っぼいです! 女の子の輪の中にいても男の子が混ざっていると思われることはないです! 視覚的な意味でもです!」
そんなことないって言い返したいけど事実だから言い返せない!
「次は内面です! 内面まで女の子です! かわいいものが好きでぬいぐるみとか部屋に置いてあります! 寝るときは大きなイルカのぬいぐるみを抱いて寝るときもあるらしいです!」
「なんで一回も家に来たことないのにそんなこと知ってるの!?」
「それは……、禁則事項です」
とてつもなく気になる! ていうか恐いよ! 安全に過ごせる気がしない!
「え~と、他には……」
「いいよ考えなくて! これ以上恥ずかしいことを暴露しないで!!」
「あっ! そういえばこの前……」
「僕の言葉無視なの!?」
「雨の日に梓さんがバスケ部の助っ人に呼ばれて、楓さんが一人で帰ってた時のことだったんですけど、道端で縮こまってた子猫に触れようとしたら、その子猫に威嚇されて涙目になっていました。そしてこれが証拠の映像です!」
なつめちゃんはボケットから携帯電話を取り出すと、その証拠映像と呼んだものを再生しはじめた。
「やめてぇぇぇぇぇぇっっ!!」
僕はそう叫ぶと、なつめちゃんから携帯電話を奪い取り、問題の動画を消去する。
「あ~、せっかくの動画が……」
なつめちゃんはとても残念がっていた。よし、これで悪は滅び、
「まあ、自宅のパソコンにバックアップをとってあるので、消されても特に問題はないんですけどね~」
滅ぼせなかった。
「この動画をよう○べやニコニ○にアップしたら、……どうなるんでしょう?」
「神妙な顔で言ってるけど、特にどうにもならないよ!!」
「いや、もしかしたら“ヤベェ、コイツかわえぇ(注:子猫ではない)”とかいうコメントが寄せられる可能性も……」
「きません!! きたらきたでよく動画捜せたねってところでビックリだよ!?」
「ダイジョーブです! 部長さんの力でどんな検索をしても、最初にヒットするようになんとかしてもらいますから!」
部長の方を見ると親指をグッと立てて悪戯な笑みを浮かべていた。この人ならやりかねない。
「とりあえず簡単な説明は終わりました!」
「……うん、そうだね」
人選ミスりました。この人に頼んだ自分が間違ってました。
「なつめちゃんって見かけによらず相手をいじるのが好きなんだね……」
「はい、そうですよ」
なつめちゃんはあっさりと肯定した。今のなつめちゃんをファンクラブの人達が見たらどう思うんだろうか……。
僕は“この部活には僕以外、真面目な人はいないのだろうか?”と思いながら、ここからあとの展開をどうするんだろうと考えていた。