第一話 僕たちが天文部に入るまでby楓5
部活棟とは様々な部活の部室や道具置場がある五階建ての建物だ。
一、二階は運動部の部室と運動部が使う道具の物置部屋があって、三階から五階は文化部の活動場所と部室(まあ、大体の文化部は活動場所と部室は一緒なんだけれど)、それとそれぞれの部活の物置用の部屋がある。
それだけ沢山の部屋があるのにいまだに使っていない部屋もあったりして、この部活棟の巨大さを思い知らされる。さすが部活動に精を尽くしている学校。
僕たちはまだ入学したばかりで部活に所属してないけど、もうそろそろ部活紹介があったと思う。
そして今、自分たちは梓を先頭に三階の廊下を天文部に向かって歩いていた。しかし、急に梓が立ち止まって振り返る。そして、ここまでついて来た二人に悪びれる様子もせずに言った。
「天文部って……、どこ?」
「て、わからないの!? 迷いなく歩いてたからてっきりわかってるのかと思ってた!」
僕が突っ込む。
「それは、勘だよ、勘。勘以外の何物でもないよ」
「勘だったんだ!?」
「まさか、そんなわけないでしょう。これだからお兄ちゃんは……」
「梓が自分で言ったんでしょ!」
「お兄ちゃんツッコミしすぎ。そんなんじゃ敵に回すことになるよ」
「誰を?」
「この世のボケ担当の人たち」
「知らないよ、そんなの! なつめちゃんからもなんか言ってあげてよ!」
「ヒドイです。ボケ担当の人たちを敵に回すなんて……。楓さんはヒーローにでもなる気ですか?」
「僕に言うんだ!?」
「さて、お遊びはこのくらいにして早く天文部部室に行こう。ね? なつめちゃん」
「そうですね。遊んでいる場合じゃないですよね~」
梓となつめちゃんはアハハと笑いながら一緒に歩きだす。
……まあ、いいや。こんなの慣れっこだよ。
僕は一段階心を成長させると、前を歩いている二人についていくのだった。
* * *
天文部の前に着く。自分は二人と視線を合わせて頷くと、中に誰かいるか確認するためにドアをノックしようとした。
「入っていいわよ」
けれど、ノックをしようとする前に中から入るように言われた。
僕達は言われたとおりドアを開けて中に入る。
部屋の中には先生達が使っている事務用デスクが、まるで校長室の机のように部屋の中央の窓から少し離れた位置にあり、そのデスクの前に会議などで使う長机が三つ、くっつけて置いてあった。
そしてその長机にひとりの人物が腰をかけており、腕を組みながら僕たちを見て微笑んでいた。
膝くらいまでの長さがある漆黒の艶やかな黒髪に凛とした顔立ち。纏っている大人の雰囲気。クールやカッコイイという言葉がピッタリとあてはまるような容姿の人だった。
「ようこそ、天文部へ」
そしてこの日が……。僕たち三人と、柊槐部長とが、初めて出会った日となった。