第一話 僕たちが天文部に入るまでby楓3
僕たちが通う学校は私立実ヶ丘学園。勉学と部活動が盛んなことで有名な学校だ。
でも僕たちはこの学校の勉強と部活に興味があったからここを選んだ訳じゃなくて、ただ家から近いからという理由だけで親からここにいれられた。
最初ここに入学が決まった時は文句ばっかり言ってたけど、入って数週間でもうすっかりそんなことはどうでもよくなっていた。
教室に着いて時計を確認。あと数分で遅刻だった。
「……ギリギリセーフ」
息を切らせながら梓が言う。
僕は自分の席について、机に突っ伏す。
「……疲れた」
……今度からふざけるのは時間に余裕があるときにしよう。そう心に誓う。……でもふざけてたのって梓だけだ。なんで僕がふざけないように誓ってるんだろう……。
「あ、あの……大丈夫ですか? 梓さん、楓さん」
そんなことを考えてると、ポニーテールでとても幼く見える顔立ちの女の子が心配そうな表情で僕と梓のほうに近づいてきた。
あと楓というのは僕の名前。う~ん、ここにくるまで名前すらも自己紹介ができてない主人公ってどうなんだろうって思うよ……。
「あ、なつめちゃん。大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだから」
とりあえず気を取り直して返事を返す。
「そうですか……」
それでもなつめちゃんは心配そうな顔をしていた。
彼女は来栖棗ちゃん。同じクラスメイトの女の子だ。多分誰が見ても第一印象はとても静かで、病弱な女の子というイメージだと思う。そしてそのイメージそのまんまな子で、男子には大変人気がある。噂によるとファンクラブもあるらしい。
梓にもこの静かなところを少しでもいいから見習ってほしいな。ちょっとはしゃぎすぎだからなぁ。もうちょっと自重して……。
「お兄ちゃん、今、失礼なこと考えてなかった?」
「え? そんなことないよ」
一筋の汗が頬を伝った、……気がした。
「へぇ~。じゃあなんで頬に汗が伝ってるんだろうねぇ?」
ホントに伝ってた!!
「いや、それは……」
その時授業始まりのチャイムが……。
「よし、席に戻らないと……」
僕は席を立ち上がった、……けど、立ったところで妹に肩をがっしりと掴まれて座らされた。うっ、失敗した……。
「お兄ちゃんの席はここでしょ? そんなので紛らわそうとしてもムダだよ。聞き出せるまで隣からちょっかいだし続けるから」
梓はそう言ったあと、僕の右隣りの席に付いた。こういうときはホントにイヤな席……。
一時限目は授業に集中できないかなぁ。
僕はため息をつくと窓から外を眺める。
この学校は高台の上にあるから、晴れているときに外を眺めると遠くまで綺麗な景色を見ることができる。
僕は外を見ながら、時には妹のちょっかいをかいくぐったりして授業を受けるのだった。