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外伝二話 よくこんなんでクビにならないものだよねbyハルカ

「いらっしゃいま~、ってなんだ、お前らか」

「あからさまな嫌がりっぷりだな、おい」

 コウが呆れた様子でそんなことを言ってきた。

「なんだ? 茶化しにでもきたのか?」

 俺はそう言いながらコウとハルカとクーの顔を順に眺める。

 このファミレスで働いてるのは一応教えたことがあるから、もしかしたらとは思っていたが……。

「まあ、それが七割」

 平然とハルカがそう告げやがった。

「酷でーな」

「そんなやり取りしてないで早く席に案内してくれないかな?」

 立ってるのが疲れたとでも言わんばかりの表情を浮かべながらクーが俺の服を引っ張る。どんだけ体力ないんだよ、コイツ。

「確かにここで立ちっぱだと他のお客さんが来たとき迷惑だからな。……何名様ですか?」

「急にマニュアルどおりっぽい対応をし始めたぞ」

「三名です」

 コウの言葉を無視してハルカが普通に人数を挙げた。うん、やっぱりコウの扱いはこうだよな。……シャレじゃないぞ。

「三名様ですね、かしこまりましたー! では席に案内致しまーす!」

「急にテンションが上がったな」

 ハルカに同じくコウのセリフをスルーし、俺は窓側にある、四人が座れる席に案内する。

「わ~い!」

 まっ先にクーが席にダイブする。ガキかって。

「ご注文がお決まりになりましたら、そちらの壁についているボタンを押しちゃってください」

「おもいっきり消火栓って書いてあるんだが……」

「気のせいです」

「気のせいなわけあるか!」

「じゃあテーブルの上のその呼出しボタンを押してください」

「ねぇ、れんじ~」

「なんだよ、クー」

「制服似合ってるね! さすがイケメンに分類されてるだけあるね!」

「最後の一言はなんか違和感があるが、デザートひとつおごってやる」

『なに!?』

「やったー!」

 クーひとりだけ喜んでる中でコウとハルカが驚きの様子で俺を見てきた。

「なにか問題が?」

「ありまくりだろ! オレ達二人にもおごれよ!」

「そうだ、そうだ!」

「わかった、わかった。じゃあ生卵おごってやるよ」

「いらねーよ、そんなもん!」

「なっ、お前生卵をナメるなよ! 栄養満点だし、ときには武器にもなるんだぞ!」

「知らねーから、そんなの!」

「チッ、これだから下衆は……」

「今オレのこと下衆って言ったか?」

「ちょっと何言ってるか理解しかねます。日本語でお話しください、お客様」

「オレは日本語しか話してねーよ!」

「…………?」

「いやいや、首を傾げるな! 絶対わかってるだろ!」

「ちょっとハルカ。ヤバいよ、こいつ相当頭イッちゃってる」

「関わらないほうが身のためだよ。こっちも頭おかしくなっちゃうから」

 ハルカとこそこそと、しかしコウに聞こえる声量で話す。

「ほら、クーちゃんも見ちゃダメですよ」

 ハルカはさらに追い打ちをかけるかの如く、隣に座っているクーの両目を手で覆い隠した。

「テメェら、オレを虐めてそんなに楽しいか!?」

『モチ!!』

 俺とハルカは二人一緒に親指をグッと立てて清々しさ満点の表情を見せ付けてやった。

「酷い!! お前らオレに謝れ!!」

「さて、俺は仕事があるからそろそろ戻らないと……」

「ワタシはクーちゃんのお世話をしないと……」

「逃げようとするな!! てーかハルカは理由が無いからといってその逃げ口は酷すぎる!」

「…………で?」

「謝れ」

「サーセン」

「殴るぞ」

 コウとハルカ、二人のやり取りを尻目に俺は厨房のほうに消え去ろうと……、

「待て、櫺」

 チッ、バレたか。

「はい、何でしょうお客様。お手拭きは今お持ちいたしますが……」

「違げーよ!」

「ああ! そちらのお子様のおもちゃですね! 今お持ちします!」

「れんじ、……殴るよ」

 逃げ口上にクーを利用しようとしたが、余計に敵をひとり作ってしまったぜ。

「クー、すまなかった。お詫びにおもちゃ三つやるから」

「よーし、絶対殺す☆」

 満面の笑みに似つかわしくないセリフを口にしたクーに、なんかとてつもない恐怖を感じる。

「ア、アメリカンジョーク……」

 これでもかというくらいの笑顔を浮かべたつもりだったが、窓ガラスに映った自分はとても引き攣った笑みになってしまっていた。自分でもよく理解できていなかったっぽいが、それほどクーの満面の笑みに異常な恐怖を感じていたらしかった。

「……御注文がお決まりになりましたら、そちらのボタンを押してください。では、ごゆるりと」

 このままここにいたらコウとクーの両方に怒られそうだし、店長にも怒られそうなので、それだけ言い残して厨房へと消えることにした。


     *     *     *     


「あ~、暇だな~、もぐもぐ」

 厨房に入り数分。壁に寄り掛かりながら、すぐそこにある揚げたて熱々ポテトを口へと運ぶ行為を繰り返しながらそう呟く俺。揚げたてポテトは飽きないな。

「おいこら、お前は何をしている?」

 突然頭に軽いゲンコツが振り下ろされる。

「お~、アキラさんおはようございま~す。もぐもぐ」

「口に物を含みながら喋るな、行儀が悪い」

 この誰もが容易に呆れているんだろうなぁ、と予想できるほどわかりやすい表情を浮かべている人物は東雲彰(しののめあきら)さん。ここの店長だ。二十五歳にして店長という強者だが、しかしちょっぴりバカだ。

「……で、お前は何をしている?」

「見ての通り客に出すための揚げたて熱々ポテトを食してますけど……」

「いや、食うなよ!」

 アキラさんは俺にそう言うと、置いてあったポテトの乗った皿を取り上げる。

「…………アキラさんが食べるんですか?」

「違げーよ!」

「じゃあ俺が……」

「客に出すもんを食うな!」

「え~」

「『え~』じゃねぇから!」

「そんな『おめーの席ねぇから!』みたいに言わなくても……」

「んなこたぁどうでもいい。てーか言ってねぇから。とりあえず真面目に働け」

「嫌です!」

「堂々と言うな!」

「じゃあどうしたら働かなくてもいいですか!?」

「辞めろ」

「ですよねー……、というわけで注文取ってきまーす」

 平然と放たれた言葉に対してこれ以上ボケるのは辛そうだったので、とりあえずかったるさを全面に押し出してスタスタと店に出ることにする。


     *     *     *     


「……というわけで注文を取りに来てやった。ありがたく思え」

「いきなり現れたかと思ったらめっちゃ上から視点! 普通の店員じゃありえない!」

 コウ……、五月蝿いな。

「まあいいや。とりあえず注文してくれ、決まってるんだろ?」

「確かに全員決まったよね」

 ハルカが言った言葉に、『とりあえずは……』みたいな感じでコウとクーが頷く。

「んじゃ、ご注文をどうぞ」

「私は、」

「かしこまりました。おこさまセットBですね」

「よし殺す絶対殺すなにがなんだろうと殺す!」

「……スミマセン。二度とこのようなボケはかましません」

「よろしい!」

 サラッと許してくれた! 心底ビックリだ!

「…………まあ、今回だけだけだから、明日からは平気でからかうけどな」

「何か言った?」

「いえいえ、滅相もございません」

「…………………………」

 クーは長い間、疑惑の目でジッと俺のことを睨んできた。そして「……そう」とだけ口からこぼした。しかし、疑惑の目は健在して俺を見ていたので、自分はできるだけその視線を合わせないようにハルカとコウの注文を取ることにする。クーのは後回し。

「んで、ハルカは?」

「ワタシは、特製焼きそば丼」

「…………マジ?」

 炭水化物オン炭水化物でできた、あの食ったらすぐさま太りそうなものを食うとは……。チャレンジャーとしか言いようがないぞ。

「言っておくが、炭水化物を大量に摂取したからといって、腹周りに脂肪が付くだけで、胸は大きくならないぞ」

「余計なお世話だよ!」

 怒鳴られた。

「そりゃあ怒鳴られるだろうよ……」

 呆れた表情でコウが呟いてたが、そのくらい理解している。ハルカが自分の胸が小さいことを気にしていることぐらい知っている。だからわざとに決まっているだろう。

「それじゃあコウは何にする?」

「オレはロースカツ定食」

「……を、お持ち帰りで?」

「そうそう。じゃあ袋にまとめといてくれ、ってそんなわけあるか! ここで食うに決まってるだろ!」

「コウがノリツッコミとは……。珍しいな」

「そんなとこに関心しなくていい!」

「……で、いつ頃お持ちしますか?」

「その言葉は持ち帰るってことでの飯を持ってくるってことか?」

「その通りでっせ」

「オレのさっき言ったことはスルーか!? オレはここで食うぞ!」

「あ~ハイハイ、かしこまいりました~」

「なにそのやる気のない返事!?」

「……チッ、いちいちめんどくさい客だな」

「聞こえてんぞダメ店員」

「……クーは何にするんだ?」

「めんどくさくなったらすぐ無視か。これだから最近の若者は……」

「さりげなくボケんなよ。……んで、クーは何食うんだ?」

「う~んとね~、焼きそば定食」

「お前も炭水化物アンド炭水化物かよ! てゆーかメニューをちゃんと見ろ! うちに焼きそば定食はない!」

「……丼はあるのに?」

「そう、丼はあるのにだ」

 これは俺も疑問だ。まだ定食のほうが世に広がっていると思うのにな。店長は何考えてんだか。

「まあ、そういうわけだ。違うのにしな」

「じゃあね~……」

 メニューをマジマジと眺めながら何にするか悩んでいるクーを見て、こいつメニュー一度も見てないなと思った。

「よし、決めた。私、天そば!」

「天そば……、か……」

「なにその落胆したような呟き」

「いや、クーのことだから見栄を張って超ジャンボハンバーグでも頼むかな~、とか思ったんだけど……。やっぱしクーは、……うん」

 最後まで言わずに俺はただ頷いた。

「なんだか落胆と共に呆れみたいなものも混ざった頷きをされたんだけど……。なんかイラッとくる」

「気にするな。所詮クーはその程度だったってことだ」

「んなっ! じゃあ私、超ジャンボハンバーグ食べる!」

「かしこまりました~!」

「櫺、メッチャ嬉しそうだな」

 思惑通り挑発に乗ってきてくれたからメッチャ嬉しいっす。

 そんなふうにコウに目配せ、プラスガッツポーズ。

「ご注文はもうよろしいですか?」

「いいよ~」

「では、ごゆっくり」


数十分後。


「もう食べれない~」

「お前が櫺の挑発に乗って頼んだのが悪い」

「クーちゃん、今回はコウの言うとおりだよ」

「今回はってどういうことだよ!?」

「ニ、三ヶ月に一個ぐらいしか売れない超ジャンボハンバーグを頼むとか……。どうかしてる」

「櫺のせいでしょ!」

 お腹いっぱいで勢いよく叫んだせいでツライのか、「あぅ~」と言ってテーブルに突っ伏す。

 クーの前にある巨大なお皿には、大きな大きな食べかけハンバーグが、まだ半分以上残っている。

 もともと体のちっこいクーは普段からそんなに量は食べないので、これは更にツライと思う。

 悪いことしたな~、と思う。

 ……だが後悔はしていない。

「もうヤダ。食べない」

「完食できないと三千円いただきます」

「鬼……」

「挑発に乗ったクーが悪い」

「それを言われたらイタい」

「そういえばデザートおごってやるって言ったよな。盛大に大きめのパフェ持ってきてやったぞ」

 俺は背後に隠していた、高さ十五センチほどのパフェをテーブルの上に置いてやる。

「鬼畜……」

 鬼からレベルが上がったのか下がったのかわからんな。

「ハルカとコウの二人も手伝ってやれよ」

「櫺がやればいいじゃん」

「何言ってんだハルカ。店員が客に出したメシを食っていいわけないだろ。……パフェうまっ」

「説得力が皆無!」

「デザートは別だ」

「酷い差別だね!」

 仕方ない。それが俺だ。

「……もうムリ。三千円払うから残す」

「諦めんなよ! もっと熱くなれよ!」

「ムリ」

「じゃあいいや。こっちはこっちで儲かるし」

「冷めるの早ぇし、考えが最低だな!」

「会計は出入口で勘定するから行くぞ」

「相変わらずオレは無視なのな!」

 自分はレジに入り、三人の会計を終える。

「またのお越しをお待ちしてます」

「もう来ねぇよ」

 お腹いっぱいで動けないクーをおぶりながら、コウが言い捨てる。

「来ないなら来ないで俺はめちゃくちゃ嬉しいぞ」

「いちいち癪に障るな。お前の言葉」

「そうか……。クーは大丈夫か?」

「さりげなくオレの言葉流されてるよな!?」

「帰って寝る」

 だるそうにクーはそう言って目を閉じた。きっともう寝るだろう。

「じゃあ帰ろうぜ、ハルカ」

「そうだね。それじゃあ櫺、また明日ね」

「おう」

 俺が返事をすると、三人は店から出ていった。

「さて、俺もあと一時間、頑張るか」

 俺は大きく伸びをし、意気込むと、お客さんの注文をとったり、注文された品を出すために、店内を駆け回った。


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