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外伝一話 神(笑)による駄話byコウ

 バンッ!!


 昼休み。

 各々が仲良しグループで賑やかに食事をしているところ、唐突に俺は教室前方にある教卓を力強く叩いた。

 いきなりそんな大きな音がしたら大体の人間は驚いてそちらに目を向ける。それはこの教室にいた生徒たちも同じようだった。

 みんな驚いた表情で俺に注目している。口に含もうとしたおかずを途中で停止させて自分のことを見ている女子生徒もいる。

「…………よし」

 この時の止まったかのような空間で今から俺がやることに覚悟を決めると、教室全体を見渡す。

 そしてある宣言をした。

「ここに宣言する。…………俺が……」

 そこで一旦区切り、深く深呼吸し、キリッとした表情でみんなを睨むように見据えると最後の一言を、……口にする。


「神だ」


『…………』

教室中の空気が一瞬にして凍りつく。

 …………フッ、こうなることはわかってたさ。

 さて、この空気がどのようにして動きはじめるのか……。一気に恥ずかしくなってきて教室から逃げ出したい衝動に駆られたが、必死に思い止まる。

 誰でもいい。早くこの凍りついた空気を破壊してさっきまでの賑やかな昼休みに戻してくれ。

「……なあ」

 俺の願いが届いたのか、教室にいたクラスメイトのコウが隣にいた生徒に声をかける。凍りついた時間が動き出した。

「病院に電話したほうがよくね?」

「酷くね!?」

 精神異常者扱いされた!

「いや、だってねぇ……」

「判断が早過ぎだろ!? もうちょっと探りを入れてこいよ!」

 俺は教室後ろにいるコウに歩み寄る。

「櫺だから仕方ない」

「酷えぇなっ!」

「あ~、わかった、わかった。で、何であんなバカみたいなことしたんだよ、神(笑)?」

「“(笑)”ってなんだよ!?」

「そんなところにいちいちツッコミを入れるなんて小さな男だな。そんなんじゃ大きな人間になれないぞ」

「知るか!!」

 このやたらボケてくるやつは白鷺光雅しらさぎこうが。中学の頃から一緒の、……まあ、親友と言っても過言ではないやつだな。やたらボケてくるのが少々鬱陶しいが……。……まあ、俺が言えたことじゃないな。

「で、真面目になんであんな馬鹿げたことしたんだ?」

 コウが真面目に本題に戻してくる。

 なんで俺があんなことをしたのか……。それは、

「あそこを見ればわかる」

 俺は教室前方の入り口に振り向かずに親指で指差す。

 そこにいるのは、元の空気に戻った中で未だに腹を抱えて笑い続けている女子生徒。

「クククッ、まさか本当にやるとは!」

「…………またアイツか」

 コウが呆れたようにため息をつく。まあ、妥当な反応だろうな。

「いやー、ヤバい面白かった!」

 ソイツは目尻に溜まった涙を指で拭いながら俺達の方に近づいてきた。

「お前にとっちゃ面白いかもしれないけど、やるこっちの恥ずかしさは尋常じゃないからな」

「じゃあ負けなきゃいいじゃん」

「くっ、それを言われたら反撃できん!」

 このガキみたいにきゃっきゃっしているやつは榎本遥えのもとはるか。大のギャンブル好きで、ギャンブル系のゲームなら右にでるやつはいない。“無敵のギャンブラー”とか呼ばれてたりするな。でもそのほかの勝負には滅法弱くて、大体ボロ負けする。一長一短。

「櫺があそこでジャックを使わなければ勝てたかもしれなかったのにねー」

「くそっ、あそこさえ間違えてなければ初勝利できたのに!」

「まあ、ワタシはそれを見越してあのカードを残しといたんだけどね!」

 悔しがる俺に対し、ふふん、と胸を張って威張るハルカ。胸ないくせに……。マジで悔しい……。

「そういや櫺」

「なんだよ、コウ?」

「なんでいつも負けるのに“無敵のギャンブラー”に勝負挑んでるんだ? 頭おかしいのか?」

 不思議そうにコウが聞いてくる。最後の一言は少し頭にきたが、俺は大人だからそんなんで怒ったりしないぜ。

「大体の理由は“なんか今日は勝てる気がする!”っていう勘」

「当たらない勘だな」

「でも今日はジャックを出してなければ勝ててたと思うよ」

「そうかもしれないけど、今までの勝負はかすりもしてなかったぞ。……そういえばこれで戦績はゼロ勝何敗?」

「えーとだな…………………………248敗じゃね?」

「……それだけ罰ゲームやってよく懲りないな」

「俺は勝つまで諦めないぜ!」

「櫺の恥ずかしい武勇伝が増えていくだけな気がするけどな。クラスメイトと幼なじみにどれだけ辱めを受ければ気が済むんだ、れんじは?」

「それならもう吹っ切れた」

「ゲッダンか?」

「ニコ○コのネタを持ってくるな」

 確かにハンパない数の辱めを今までに受けてきた。でも槐に受けた辱めに比べたらハルカの罰ゲームなんてまだ優しいほうだ。

「さて、次はどんな罰ゲームを賭けて勝負するー?」

「早過ぎないか?」

「だってもう吹っ切れたんでしょ? それに槐に比べたらワタシの罰ゲームは生温いんでしょ?」

「確かにそう言っ、……おい、ちょっと待て。なんで俺の心の中を読んでいる? それに生温いってなんだかもっと過激な罰ゲームにしてくれって言ってるみたいだぞ」

「お望みならしてあげなくもないけど……」

「せんでええっ!!」

「あっ、クーちゃん!」

「スルーかっ!」

 ハルカが教室に入ってきた生徒を指差す。

 そこにいるのはどう見ても小学生にしか見えない女子生徒。ツインテールがさらに幼さを醸し出している。

 信じられるか? アイツあれでも俺と同じ高校二年生なんだぜ。

「……? なんか今馬鹿にされたような……」

 ハルカにクーちゃんと呼ばれたソイツは辺りをキョロキョロと見渡す。さすが小さいとか言われたりすることに敏感なやつだ。多分アイツがいないところで小さいとか小学生とか言ったらカレー大好きなあの先生みたいにすぐとんでくるんだろうな。

「クーちゃん!」

 ハルカがクーに後ろから抱き着いて持ち上げる。軽いな、さすが小学生なみ。

「はぅ~、かぁいい~」

「はーなーしーてー!」

 ジタバタとクーが暴れるが、なんの効果もない。

「……うぅ、疲れた」

「疲れるのはやっ!」

 暴れてから一分も経ってないぞ!

「……誰かたっけてー」

 グッタリとした様子で何かにすがるように両手を伸ばすクー。可哀相だな。後ろのやつは至福の表情のままクーの頭撫でたりしながらほお擦りしてるし。本人に迷惑かけてることに気付いてないな。

「助けてやれよ、櫺。お前神(笑)だろ」

「それをここに引っ張ってくるな!!」

「ええぇい! そんなやり取りしてないで早く私を助けろぉぉぉぉっ!!」

 いい加減クーがキレた。

「おっ、小学生がキレたぞ」

「誰が小学生だぁぁぁぁっ!!」

 さらにキレる。

「おいコウ。おもいっきし火に油を注いでいると思われるのだが……。後でどうなっても知らんぞ」

「大丈夫。神(笑)様がなんとかしてくれる」

「俺に罪をなすりつける気か!!」

「小学生とか言うなよ~、クーが可哀相だろ、櫺~」

「う~、れんじ後で殴る」

「もう俺のせいになった!!」

 酷いクラスメイトだ。クーに殴られても別に痛くないけど。

「とりあえず助けろぉぉぉぉ!!」

「またキレたな」

「だな」

「感心してないで助けて下さい!」

「次はなんかへりくだったぞ」

「マジで助けてもらいたいんだな」

「しかたない。いい加減助けてやるか」

 俺はそう呟くとシャーペンを手にとり、未だにクーの頭を撫でながらほお擦りしている至福の表情を浮かべたハルカに近付く。

 そして芯の出たシャーペンを振り上げると、

「いい加減にせい!!」

 そう言ってハルカの背中に振り下ろした。

「ッ~~~~!!」

 急な痛みにハルカは声にならない悲鳴を上げながら床の上で悶える。

「よし、助けてやったぞ」

「ありがとう。これでさっき小学生って言ったことは許してあげる」

「言ったの俺じゃねぇし!」

 そのとき、床の上で悶えていたハルカが起き上がり、涙目で俺のことを睨みつけてきた。

「……櫺、絶対殺す」

「…………………………」

 嫌な汗が頬を伝う。槐以外でこんな嫌な汗をかいたのは初めてではないだろうか……。

「ってそんな悠長なこと考えてる場合じゃねぇ! 頼むクー、何とかしてくれ!」

「いいけど小学生って言ったことを理由に殴るよ」

「俺関係ないが構わん! あの恐ろしい気に包まれたハルカになんかされるより、クーに殴られるほうがマシだ!」

「よぅし、よく言った」

 そう言うとクーはハルカに歩み寄っていく。そしてハルカの腰に抱き着くと上目遣いでハルカの瞳を凝視する。

「……かわいい」

 その視線に敵うわけもなく、ハルカはうっとりした表情で再びクーに抱き着く。

「助かった……。だけどふりだしに戻ってるな」

 そこにはさっきとさほど変わらない二人が……、変わっているところはハルカが後ろから抱き着いたのが、前から抱き着いたことになったくらいか。

「たっけてー」

「またかよ! ……助けてやりたいのはやまやまだが、」

「じゃあたっけてー」

「だが断る! 昼休みが終わるまで我慢しろ」

 永遠にループしそうなのでそのまま放っておくことにする。

「……後で絶対殴る」

「…………………………」

 なんか呟きが聞こえた気がするが気のせい、気のせい。

「神(笑)に見捨てられたな、クー」

「コウ、それはもういい」

 俺は冷静にコウにそう言い放つ。もうそのネタは飽きた。多分俺だけじゃないはず。

「やっぱたっけてー」

 クーが耐えられず再び助けを求めてくる。

「あー、聞こえない聞こえない」

 耳を両手で押さえて“聞こえない”を連呼する。

「お前はガキか……」

「うー!誰がガキだぁぁぁぁっ!!」

「おもいきり勘違いしている本当のガキがいるぞ」

 コウが俺に言った言葉を、クーが自分に言われたと勘違いしてキレる。

「なあ、俺思ってたんだけどさ~、この外伝の存在意義って何なんだろうな~」

 俺は遠くを見ながら、少しどうでもよさそうな口調でそう口にする。

「まさかここで今までのやり取りを全否定するメタ要素満点の一言が飛び出るとは思いもしなかった!」

「さて、次の授業の準備だ~」

 コウは驚き呆れた様子でそんなことを言ったが、無視して授業の準備に取り掛かることにする。

「あと二時間終われば部活だな。今日は何をするのか楽しみだ。……俺はそう心の中で呟くと、部活への期待を胸に、つまらない授業を受けるのだった」

「なにひとりで話を終わらせようとそれらしい文章を口にしてんだよ!!」

「え~、ダメ?」

「ダメに決まってるだろ!」

「でもこれ以上面白いこともなさそうだから別によくね?」

「よくねぇ!」

「俺達の楽しい学園生活は、まだまだこれからだ!」

「打ち切りにする気か!?」

「先生来た。そんなわけで読者の皆さんまた来週~」

「無理やり終わらせようとするな!」

「そんなに終わらせたくないなら俺を倒していけ!」

「本気でお前は何がしたい!?」

「核兵器廃絶」

「いきなりスケールでかいな!」

「全世界の核兵器を全て俺の手中に納め、それで世界を脅し、金をせしめる」

「酷い!」

「一生遊んで暮らせるぜ!」

「最低!」

「やることなくなって暇になったら暇潰しに核で世界破壊」

「もうカス以下のカス!」

「俺の物語はそこから始まる!」

「また打ち切り臭がするな!」


 そんなこんなで本当に無駄なやり取りが永遠続いた。


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