第九話 新キャラ登場ですby楓
「あなたはリア充ですか? それとも非リア充ですか?」
「はい?」
僕は引き攣った笑みを浮かべる。
友達の荷物運びを手伝い、ひとり遅れて部室に行く途中、何だかよくわからない人に絡まれました。
多分一年上の先輩です。初めて見る人です。とても綺麗な美人さんです。でも無表情で死んでるような目をしています。
そんな人に突然投げ掛けられました。「あなたはリア充ですか?」と。
「はい、そうです」なんて言えますか、世界を恨むような死んでる目をした人に。
自分はもちろん言えませんよ。
「リア充の意味がわかりませんか。リア充とは“リアルの生活が充実しているヤツ”ということです」
僕が引き攣った笑みを浮かべたまま固まってたことを「リア充が何かわからない」と判断したらしく、説明を始めた。
「いや、それはわかってますから……」
「では質問に答えて下さい。あなたはリア充ですか?」
「…………リア充じゃないです」
多分自分の生活はリア充だと思うけど、肯定したら何されるかわからないから否定しておく。
「ファイナルアンサー?」
ミ○オネア!?
「ファ、ファイナルアンサー」
「…………………………」
「…………」
「…………………………」
「…………」
「…………………………」
「…………」
「…………………………」
「…………」
溜めが無駄に長すぎるよ! み○さんもビックリだよ! しかも表情一つ変えずにいるから息が詰まりそう……。
「……では確認します」
「はい?」
長い長い間がやっと終わったかと思ったら何かよくわからないこと言い出したよ、この人。
「それはどうゆう意味ですか?」
「私はあなたのことを知っています、桐谷楓さん」
「はぁ……、つまりどうゆう……」
何が言いたいんだろうか……。
「あなたは天文部に所属していますね?」
「はい」
「今からその天文部に行って、その活動からリア充かリア充じゃないかを判断させていただきます」
「はい!?」
何か面倒臭いことになってきちゃったよ。
「ではド○クエのように後ろにピッタリと着いていきます」
そう言うとその先輩は僕の後ろに立つ。
僕は試しに一歩前に進んでみると後ろの先輩も一歩前に進む。
うわ~、本格的にドラ○エみたいなことやってるよ。
「それでは行きましょう」
先輩が僕を促す。
僕は仕方なく部室に向かって歩くことにした。もうどうにでもなれ。
「ところであなたは何なんですか?」
「私は和泉ミチルです」
「ミチルですか……」
「はい。“充実した生活を送れるように”という意味を込めてミチルです」
「そうですか……」
名前に込められた意味と真逆に育ってる……。
「ちなみにリア充撲滅委員会会長です」
「何ですか、リア充撲滅委員会って?」
「名前の通り、リア充共を根絶やしにする組織です。具体的には陰湿ないじめにより、リア充の充実している感を削ぐことを主な活動にしています」
「酷いですよ、それ」
「それくらいしないとリア充は死なないですから」
そんなゴキブリみたいに言わなくても……。
「で、陰湿ないじめってどんなのですか?」
気になる。陰湿ないじめだから公にばれないようなことをするんだと思う。それはどんなことだろう。
「例えばペンケースに崩れたししゃもを入れておもいきり振ったりですね。ペンケースの中がししゃもの卵でぷつぷつだらけになります」
「陰湿だよ! 果てしなく陰湿だよ! ひど過ぎるよ!」
「そして悪意度が上がると登校鞄の中にくさやの干物を侵入させたり……」
「周りにも大迷惑!」
「最終的には制服のポケットに粉々にすり潰した煮干しを入れて、ポケットを使用不可能にします」
「陰湿過ぎるよ!」
「それが私たち、リア充撲滅委員会です」
「なんという酷さ! そして何で魚類ばっかりなの!?」
「ま○ほりに影響されました」
「まり○りかっ!!」
そんなやり取りをしている間に部室の前に着く。
……さて、部員のみんなはどんな反応を示すかな、この掴み所のない人に。
「はぁ……」
ため息をつく。部長はどんな反応するだろうか。いきなり発砲とかしなければいいけど……。それが一番心配だよ。
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもないです」
考えても仕方ない。なんかやらかしそうになったら自分が止めればいいんだよね。
僕はそう決心するとドアを開けた。
「お兄ちゃん遅かったね~、ってその人誰?」
梓となつめちゃんと先輩が僕の方を向き、僕の後ろに立っている見ず知らずの人物を見て疑問を口にする。
部長だけはミチルさんを知っているのか、一度チラッと見るとすぐにパソコンの画面に視線を戻した。 よかった……。心配したようなことは起きなさそうだ。
「この人はミチルさん」
「こんにちは」
僕が紹介するとミチルさんはお辞儀をする。
「一つ聞きたいんだけど、何でそのミチルさんはお兄ちゃんの真後ろにいるの?」
「パーティーからはずれないと自由に行動できないんです」
『?』
梓だけでなく、なつめちゃんや先輩の頭にも疑問符が浮かぶ。
「もうその設定はいいですから!」
「いえ、そうゆうわけにはいきません。決めたことはやり通さないと。それにパーティーから外せばいいだけですよ」
「外せばいいんですね?」
「はい」
面倒臭いなこの人……。とりあえずパーティーから外そう。それが望みらしいし。
ミチルがパーティーから外れた!
「これで私は自由です」
相変わらずの棒読み加減でミチルさんが言う。
「じゃあここに座ってください」
僕が普段座っている席に促す。
「ありがとうございます」
「それで、ミチルさんは何のために部室に来たんですか?」
みんなを代表してなつめちゃんがミチルさんに問い掛ける。こうゆうときは落ち着いている人が聞くのが一番いい。
「リア充を取り締まりに来ました」
…………………………。
室内の空気が一瞬で変わった!? 一気に静かに。
「楓さん、ちょっとこっちに」
「は、はい!」
なつめちゃんが仕草でこっちに来るようにと合図してくる。すっごいにこやかだけどそれが恐ろしい。何言われるんだろう。
僕となつめちゃんと梓と先輩四人でミチルさんを背に顔を合わせる。
「(な、なに?)」
ミチルさんに聞こえないようにこそこそと小声で話す。
「(“なに?”じゃないですよ。何であんな人連れて来たんですか?)」
「(連れて来たんじゃないよ。ついて来たんだよ)」
「(どちらにせよここに来ちゃいけない人間ですよ)」
「(そうだよ! あの人、私たちを絶対敵視してるよ! だって私たちリア充だもん!)」
「(それは重々承知していました)」
「(おい、それよりどうするんだ?)」
『(うーん……)』
四人で腕を組んで考える。
「(……わかりました。なつめがどうにかします)」
「(おお〜頼もしい! それじゃあお願いね、なつめちゃん!)」
「(はい。そのかわり……)」
『(そのかわり?)』
「(各々から現金二千円を頂戴いたします)」
『あんたは鬼か!!』
三人そろって声を上げる。
「? どうかしましたか、皆さん?」
いきなり大きな声を出したためミチルさんが疑問に思い、質問してくる。
「な、何でもないです。ゆっくりお茶でも飲んでいてください」
「そうですか」
ミチルさんは納得すると梓が差し出したお茶を一口啜った。
僕たちは再び四人で顔を合わせる。
「(なつめちゃん、足元見すぎだよ)」
「(弱みを手に入れたらとことん使う。それがなつめ流です)」
ニッコリと笑い、そう言うなつめちゃん。ホントにこの人は悪魔だよ……。
「(で、どうするんですか? なつめの条件呑むんですか?)」
「(……わかったよ。僕は呑むよ)」
こうしていても仕方ない。二千円はちょっとイタいけど、ここは我慢だ。
「(お兄ちゃんが呑むなら私も)」
「(じゃあ俺も)」
「(では前払いで……)」
僕たちはなつめちゃんに二千円ずつ手渡す。
「(それじゃあお願いするよ)」
「(任せてください! 丁寧に追い返してあげますよ!)」
なつめちゃんはそう意気込むとミチルさんの真正面の席に座る。
「ミチルさん……」
「何でしょう?」
「ぶぶ漬けをお召し上がりになってください」
京都風の追い返し方キタ!! 確かに丁寧な追い返し方!!
どこからともなく出現させたぶぶ漬けをミチルさんの前に満面の笑みで置くなつめちゃん。……これは効くのだろうか。
「ありがとうございます」
ミチルさんは普通にぶぶ漬けを食べると……、
「ごちそうさまでした」
と言って相変わらずの席に鎮座。
…………………………。
「あの……、京都の風習知ってますか?」
しばらくの間のあと、なつめちゃんが引き攣った笑みで質問する。
「知らないです」
「そうですか……」
なつめちゃんは落ち込んだ様子でトボトボと僕たちの方に戻ってくると……、
「失敗しちゃいました。テヘッ」
舌をペロッと出して自分で作った拳を頭にコツッとぶつける。
『テヘッ、じゃなぁぁああああい!!』
三人でなつめちゃんのことを怒鳴り付ける。
「だってぶぶ漬けのことを知らないとは思わなかったもん!」
「かわいこぶって語尾に“もん”とかつけない! そんなことしても許さないよ! それに開き直っちゃダメ! そしてお金を返しなさい!」
「……はい」
僕がそこまで言うとなつめちゃんは素直にお金をみんなに返した。
「おい! ホントにどうするんだよ!?」
「知りませんよ! 先輩がどうにかしてください!」
「俺はムリだよ! 楓がどうにかしろよ!」
「嫌ですよ!」
僕と先輩がそんなふうに言い争っていたとき、ミチルさんが呟いた。
「楽しそうですね。羨ましいです」
『!!』
その言葉を聞いて僕はこのやり取りがもうリア充だということを証明していると思い、ミチルさんが何かしでかすんじゃないかと感じてミチルさんの方を向く。
だけどミチルさんは少し儚げな表情をしていた。
「槐さん。あなたの作ったこの部活は本当に楽しそうです」
ミチルさんは部長のことを見る。
「そう、ありがとう」
部長は素っ気なく答える。
「で、ミチルは何でここに来たの? リア充かどうかを判断しにきたっていうのは別にどうでもいいんでしょ? そんなの見に来なくてもわかるし。天文部に入りたいならそう言えばいいのに……」
部長はパソコンの画面から視線を外さずにそう言う。
「入ってもいいんですか?」
「いいわ。ミチルがいればもっと楽しくなるだろうし。大歓迎よ」
「本当にいいんですか?」
「いいわよ。何回も言わせないで」
部長は椅子を回転させ、窓の方を向く。照れてるみたいだ。
「……ありがとうございます」
ミチルさんはとても嬉しそうに微笑む。
今まで無表情しか浮かべてなかったミチルさんが柔らかな笑みを浮かべたのは、すごいかわいかった。
「お兄ちゃん、今ミチルさんのこと見てかわいいって思ったでしょ?」
梓が睨むように僕のことを見てくる。
「え? よくわかったね」
「うぅ~」
不満そうに睨んでくる。なんでだろう? なんか悪い気がするからとりあえずあとで何か買ってあげよう。
「みなさん、よろしくお願いします」
ミチルさんが僕たちにお辞儀をする。
「こちらこそよろしくお願いします」
こちらもお辞儀で返す。
「これで私もリア充の仲間入りですね」
「そういえばリア充撲滅委員会はどうするんですか? 会長がリア充じゃダメですよね?」
「? 何のことですか?」
「ええっ!? 来る途中で言ってたじゃないですか!」
「信じてたんですか?」
「嘘だったんですか!?」
「はい」
「はいって……」
こうしてミチルさんがこの天文部に入部することになりました。いろいろと面白くなりそうです。