第四話 なるほど。これがムリゲーというやつかby櫺2
「ではまず、メダルを配るわ!」
そう言って槐は、ひとりひとりに二百枚ずつメダルを配りはじめた(なぜか知らんがメダルを数える機械が置いてあった)。
「よし! 配り終えたわ!」
「じゃあ部長さん、説明をお願いします」
「わかったわ! まず、最大ベット数は五枚まで! 自信があるならレイズをしても構わない!」
「ベットって賭けることで、レイズって賭けたメダルを倍にすることでいいんだよな?」
「はぁ? そうに決まってるじゃない。何言ってるの?」
とてつもなく呆れた表情で俺のことを見てくる。
「いや、俺はルールのわからない読者の為に言ったんだが……。ルールの細かい内容はゲームで変わるし」
「そう、読者の為じゃ仕方ないわね。ちなみに今回のゲームでの“フォールド”は賭けたメダルを半分支払ってゲームから降りることね」
「読者に優しいな、お前」
「当たり前じゃない。読者は味方にしないと」
「…………………………」
もうなにも言うまい。
「では! とりあえずデッキをシャッフル!!」
「それ、デッキって言わないだろ」
「そして五枚ドロー!!」
「カード違くね? お前が頭の中で考えてるカードと絶対違くね?」
「部長、先輩、そんなやり取りいらないですからとりあえず配って下さいよ~」
梓に注意されて俺は席に着き、槐はカードを配る。
「さあ、配り終わったわ! それじゃあ、デュエル!!」
「もう止めろ!!」
「無駄なやり取りしてないで、真面目にポーカーしてくださいよ。これじゃあいつまで経っても開始できませんよ」
楓がぼやく。
「わかった、わかった。それじゃあ始めるわ」
というわけでやっとポーカーが始まった。
まず手始めにみんな三枚メダルを賭ける。槐だけは五枚賭けている。
「はい、じゃあチェンジタイム!」
カードを変える時間だ。ポーカーはいくつかの役があり、それの強さで勝敗が決まる。カードのチェンジはペアを揃えるためにいらないカードを入れ替える行為だ。
「僕は二枚換えます」
「私は三枚!」
「なつめは全部換えます」
楓、梓、なつめちゃんが各々カードを換えていく。
さて、俺はどうしたものか……。
今の手持ちはノーペアでマークもバラバラだ。マークが三、四枚揃っていればまだフラッシュを狙えるんだが……。ここはなつめちゃんと一緒で全換えでいくか? うーん……。
「早くしてくんないかな」
横を見るとイライラした槐が俺のカードチェンジを待っていた。
「わかった、わかった」
とりあえず手持ちの中で一番強いキングを残して四枚を換える。
……おっ! やった! 初っ端からキングのスリーカード! これは勝てるんじゃないか……。
「はい、レイズする?」
「僕はいいです」
「私はレイズ!」
「なつめはしません」
「俺はするぞ」
「私もするわ。それで、楓、なつめちゃんはコール? フォールド?」
「僕はコールで」
「なつめはフォールドで」
「じゃあコールしたみんなでデュエル!!」
「だからもう止めろって!!」
なつめちゃん以外がカードを一斉にオープン。
楓がワンペア、梓がツーペア、そして槐が、
「おい、ちょっと待て。……これはなんだ?」
「何って見ればわかるでしょ」
「初っ端からストレートフラッシュってなんだよ!?」
ダイヤの十、ジャック、クイーン、キング、スペードが長机の上に置かれている。二番目に強い役が開始直後に出てくるってなんだよ……。
「妥当だよ。私としては……」
「お前の妥当すげーな!」
「部長、僕思ったんですけど、一枚もカードチェンジしてないですよね?」
確かに楓の言うとおりだ。カードチェンジもしないでストレートフラッシュなんて、考えられることはひとつしかない!
「そうか! わかったぞ! お前仕組んだな!? 最初にカード配ったのお前だったからな! そのときに仕組んだんだろ!? そうじゃなきゃ初手でストレートフラッシュがくるはずがないッ!!」
「そうだそうだ~」
「そ、そうです!」
梓やなつめちゃんも俺の考えに賛同する。
「そう思うなら私以外が配ればいいんじゃない。とりあえずストレートフラッシュの配当、賭け金の五十倍、五百枚のメダルを貰うわ」
槐が冷静にそう言うとカードを俺に手渡して、ダンボール箱から五百枚のメダルを自分のケースに入れる。
俺はカードをきってみんなに配る。これなら仕組みはできないから、いきなりストレートフラッシュはこないだろう。
みんなそれぞれカードチェンジを終える。相変わらず槐だけは一枚もチェンジしていない。そんなに手持ちがいいのか……。
俺の手持ちはフルハウス。これなら勝てるだろう。
「俺はメダル五枚をレイズして十枚でコール!」
「私も!」
梓もレイズ宣言をして、メダル十枚を前に出す。
「それじゃあ私も」
槐もレイズ。
「よし! それじゃあオープン!」
楓となつめちゃんはワンペア、梓はフラッシュ、そして槐は……、
「ロ、ロイヤルストレートフラッシュ……」
机の上には十、ジャック、クイーン、キング、エースが、次はスペードで並んでいた。
「文句がある人はいる?」
槐が得意げな顔でみんなに聞いてくる。
…………………………。
誰ひとり何も言わない。
最初からストレートフラッシュのあとにロイヤルストレートフラッシュ……。ここまで俺が出したフルハウスやスリーカード、梓が出したフラッシュでさえ、最初に出ることが珍しいのに……。
結論。
「勝てるかこんなもんッ!!」
「そうですよ! 無理ですよ!」
「そうだよ~、こんなの勝てっこないよ~」
「そうです……。ムリです……」
「なに、もう諦めるの? フッ、みんな負け犬ね~」
見下すような喋り方がムカつくな……。
「負け犬呼ばわりは、気にくわねぇ……。せめて一勝はしてやる」
そう呟いてカードを手に取る。
「お~、先輩かっくいい~」
「ありがとよ、梓」
「それじゃあ僕たちも……」
楓がそう言うと、楓、梓、なつめちゃんもカードを手に取る。
「フフフッ、いいわよ。かかってきなさい」
「いいぜ、やってやるッ!!」
そして……、俺達の反撃が始まった。
十分経過。
真っ白に燃え尽きたぜ……。
静寂に包まれた部室。槐以外は机に突っ伏していて、まったく動かない。まるで屍のようだ。
これまでに部員全員が揃った状態で、ここまで静かになったことはあっただろうか。
俺は槐の方を見る。満足そうにメダルの山に手を置いて、そのメダルをいじっている。
こんなのに勝つなんて考えたのがそもそもの間違いだったんだよ……。あぁ~、選択肢ミスったなぁ……。
悔やむことしかできない。
ただ今の所持メダル……。槐、一万越え。俺達四人、百枚以下。
なにこの差……。こんだけ差がつくゲーム、今までやったことないぞ……。まさにデスゲーム……。
「で、次何する?」
「まさかの続行かよ……」
「やらないの?」
「やらねーよ」
「つまんな。じゃあ結果発表。優勝は言うまでもないから、じゃあ一番メダルが少ないのは誰?」
「はい、僕です」
楓が机に伏せていた顔をあげ、自分が最下位だと告げる。
「じゃあ罰ゲームは楓に決定ね」
「ええっ!? 聞いてないですよ!」
楓はそう言って、勢いよく自分の席から立ち上がる。
「こうゆうことやるなら、罰ゲームがあるって考えるのが普通でしょう」
「前もって教えといてくださいよ!」
「サプライズだよ、サプライズ」
「嫌なサプライズですね……」
「災難だな、楓。まあ、頑張れ」
「できれば代わってほしいです……」
楓は落胆した表情でそう訴えてきたが、残念ながら無理だ。確実に槐が許さないだろう。それに俺が罰ゲーム受けたら多分死ぬ。殺される。
「さて、なにさせよっか」
槐はすごい嫌な笑みを浮かべながら、罰ゲームの内容を思案している。
「決まってないんですか?」
「うん。罰ゲームやる人が決まってから内容決めないと、やらせたいことができないし」
「酷いですね……」
「今、一番の候補はコスプレ」
「絶対イヤ!!」
「俺、それに一票」
「ええっ!?」
「ちなみに私も」
「そしてなつめもです」
「梓となつめちゃんも!?」
「だってお兄ちゃんの女装見てみたいし」
「そして俺となつめちゃんも同意見」
「僕たち、一緒に部長に立ち向かった仲間……、だったよね?」
「それとこれとは話が別です」
「ヒドイ……」
最後になつめちゃんが放った言葉がトドメとなり、楓は椅子にへなりと座り込む。
「じゃあ、まずなに着せる?」
「まず……、ですか……」
楓はそう呟いてさらに落ち込んでいる。
「手始めにこの学校の女子制服を!」
「それならそこのダンボールの中に三着くらいあるわ」
「よし!」
提案した梓が制服を取り出して、笑みを浮かべた状態でゆっくり楓に近づいていく。そして狙われた楓は怯えた小動物の如く、部屋の端っこで震えている。
「さあ、なつめちゃん、部長、手伝って」
その言葉に応えて、槐となつめちゃんは楓を後ろから動かないように押さえ付ける。
とりあえず俺は傍観者を貫き通す。もし楓に触れたら反射的に殺されそうだし。しっかりと目と脳に焼きつけておきます!
「や、やめっ!」
「さあ、観念してね。お兄ちゃん」
梓はそう言って楓の服に手をかけ、
「あっ!」
たところで槐が声をあげた。
いきなり声があがったため、みんなの視線がそっちにいく。
「槐、どうしたんだ?」
「いや、今回ここらへんで終わりなの」
「?」
よく意味がわからない。時間的には、まだ部活が終わる時間じゃないから全然余裕なんだけど……。
「だから文章はここらへんで終わり」
「てことは……」
「読者の皆さん、それじゃあまた次回!」
「ええっ!? 何それ!? 続き書けるだろ!? てか話まとまってないし!!」
「どんな女装をさせられたかが、読者の皆さんにわからないなら僕はいいです。というわけで読者の皆さん、また次回!」
「いいのか!? 梓やなつめちゃんも納得できないだろ!?」
「私はお兄ちゃんを女装させられれば満足だから別に……」
「なつめも楓さんをたっぷり可愛がれれば別に……」
「本当にこんなオチでいいのか!?」
「いいんです。というわけで今回の話、完!」
「無理やり終わらせるなぁあああああああぁぁ!!」
完