第四話 なるほど。これがムリゲーというやつかby櫺
「先輩……死んでください」
そう言って机の上に置かれる拳銃。
「……この話の始まりが死んでくださいって、どうよ?」
思った疑問を口にする。
「先輩相手なら妥当なセリフです」
「酷くね!?」
「……はぁ、わかりました。じゃあ、命を絶ってください」
「いや、なにもわかってなくね? それより、いまさらだけど人に死ね言うな」
「先輩は人じゃないです!!!!!!!!!!!!」
「インタロゲーションマーク多過ぎだーーーーっ!!」
俺はそう絶叫したあと、ゼェゼェと肩で息をする。
ヤベェ……、なんかもう精神的に疲れた。
楓はそんな俺の様子をしれっとした顔で見てる。
「とりあえず、謝れ」
「わかりましたよ。ごめんなさい」
普通にすんなりと謝った。つまんないな。
「口だけじゃなく、態度で示さないとな」
「僕に何をやらせる気ですかっ!?」
「ちょ、冗談だから! 冗談だからその銃下ろしてくれ! なっ!?」
「ふぅ~、わかりました。僕も殺人犯になりたくないですからね」
楓はそう言って再び拳銃を机の上に置く。
危なかった、自分の悪ふざけが過ぎるところだった……。
俺はホッとしながら前に座っている楓を見る。
現在、部室には俺と楓しかいない。梓となつめちゃんは委員会の仕事らしい。普段ならいるはずの槐は、なんでか今日は部室にいなかった。
ふたりきりだから、楓はいつも以上に俺のことを警戒して近寄ることもできない。触れた瞬間発砲されそうな勢いだな……。
「なあ、何かやらないか?」
とりあえず、何もしないでただ待っているのもつまらないので、暇潰しに何かやらないか提案してみる。
「な、なにをしようというんですか!?」
「いや、普通に遊ぶことなんですけど……。あと、銃に触れないでくれ。マジで発砲するんじゃないかと、ヒヤヒヤするから」
俺の必死の想いを告げる。
「そ、そうですか……。わかりました。じゃあゲームをしましょう」
「おっ、いいな。それでなにやる?」
「それじゃあですね~。……これにしましょう!」
そう言って楓はゲームに使う道具を机の上に置く。
ゴトリ。
…………。
………………。
……………………。
えっ? 銃?
「ロシアンルーレットです。弾は一発しか入ってませんよ」
「いや、待て待て!! なぜこんな平和な日常で、しかも単なる遊びで命を賭けなきゃならんのだ!?」
「日常の中で突然生死を賭けたゲームをするなんて、よくあることですよ」
「それはマンガやゲームの話な! こんな平和な日常で駄弁るだけの話の中で、遊びで命を賭けるヤツは絶対いないと思うぞ!?」
「そうとは限りませんよ。それに先輩は主人公に値する人間です。だから大丈夫。死にませんよ」
「そんなわけあるかっ!! そう言って俺を自殺に追いやりたいだけだろ!! しかもこの銃、マガジンタイプだから一発でも弾入ってたら死ぬわ!!」
「わかりましたよ。じゃあこのリボルバータイプを……」
「そういう問題じゃねぇぇぇぇぇっ!!」
「文句ばっか言ってないで、はやく撃ってくださいよ」
「なぜそんなに俺に撃たせたい? ハッ、まさか全弾装填されてるんじゃ……」
…………。
………………。
……………………チッ。
「図星かぁああああああっ!!」
危ねぇよ! なんか今楓すげぇダークサイドに染まってるよ!
「とりあえずこれはなしで!!」
そう言って自分の後ろの棚に危険極まりない二丁の拳銃を乗せる。
「わかりました。それじゃあ……」
楓はそう言って、後ろの棚のダンボールやらの中身をガサゴソと漁りはじめ、邪魔なものを床に置いていく。
それにしてもいろいろあるな。まあ、確実に天文部に関係ないものがほとんどだけどな。
俺は床に置かれた雑多なものを見た後に部屋にある棚や、積まれたダンボールを見渡してそんなことを考える。
「先輩! いいものを見つけましたよ!」
楓が嬉々とした声で俺に呼び掛けてくる。
俺があれこれ見回している間に何かを見つけたらしい。すごい嬉しそうな顔でニコニコしてる。
ヤバい、超可愛い。今すぐ家に持って帰って飾りたい。
まあ、とりあえずそれは置いといて……、
「何見つけたんだ?」
「トランプです!」
ドドーンと後ろに隠した右手を前に出すと、まだ一回も開けられていない新品のトランプがその手に握られていた。
「やるのはいいけど、でも二人って寂しくないか?」
「それなら大丈夫です!」
そう言って次は左手を前に出す。こっちには一回も開けられていないタロットカードが握られていた。
「みんな、もうすぐ来ると思いますから、一回くらいはできますよ。だから僕が占ってあげます」
「面白そうだな。よし、頼む」
俺と楓は向かい合って席に座る。そして楓はタロットカードを机の上に落として、ばらばらにかきまぜる。
「どんな占いにします?」
「簡単なのでいいんじゃないか?」
「じゃあ七十八枚のカードを残らず使用する複雑な占いにしましょう」
「俺の言葉聞いてた? ていうかわかるのか?」
「わかりましたよ。じゃあ二十二枚のカードを使う簡単なのにしましょう」
そう言って、全部のカードから二十二枚のカードを取り出し、再びぐちゃぐちゃに混ぜる。さっきの七十八枚混ぜるの、確実に無駄だったな。
「混ぜ終わりました」
そこからいろいろと質問されたりして、どんどんカードを机の上に並べていく。これってどうゆう決まりで置いてってるのかよくわからないな。
「はい、わかりました」
「で、結果は?」
「このままの人生を続けるより、一回死んで違う人生を歩んだほうが幸せですよ」
「これからどんな人生を迎えるんだ、俺は!?」
「ちなみに今の人生が悪くなっていく原因は幼なじみです」
「アイツのせいか! それなら認めざるをえないなぁ、おい!」
「人生を良くする方法は、幼なじみを滅ぼす、です」
「そんなことしようとしたら逆に滅ぼされるな。確実に」
「とりあえず、終わったから片付けますね」
「ええっ!? ちょっと待って!! 普通に片付けるの!? 同情とかないの!?」
「先輩の人生なんて知ったことじゃありませんから」
「酷いな、おい!! とりあえず助けてくれよ!」
「嫌です」
「頼む!」
「ちょっと! 抱き着かないでくださいよ!」
「じゃあ、助けてくれ!」
頭を本気で殴られてるけど、そんなのは気にしない!
「ムリですよ! 僕にあの部長をどうにかするのなんて!」
「じゃあ、俺の心のオアシスになってくれ!」
「絶っっっ対、嫌です!!」
「ならこのまま抱き着く!」
「って、ちょっ! どこに手を――!!」
「今日も相変わらず仲いいね~、お兄ちゃん」
「ですね~、イヤよイヤよも好きのうちってことでしょうか?」
いつの間にか部室に現れた梓となつめちゃんがさらに追い打ちをかけていく。
「どこがっ!? 全然そんなふうに見えないでしょ!」
「そんな全力で否定しなくてもいいじゃないか」
「だからやめてって、言ってるじゃないですか!!」
楓の拳が俺のみぞに入る。
「ぐふっ……」
クリーンヒット。俺は膝から崩れ落ちた。
「こんなとこで寝たら踏むわよ」
「槐、もうおもいっきり、力強く背中を踏まれているんだが……」
「あら、失礼」
声に失礼って気持ちが全然こもってないぞ……。
「で、今日はなにすんだ?」
起き上がって制服に着いた埃を払い、殴られたみぞと踏まれた背中の痛みを確認しながら槐に聞いてみる。
「今日は楓の希望でトランプをやります」
「やった」
それを聞いた楓が喜ぶ。
「トランプって言ってもいろいろあるよ~。その中で何にするの~?」
「梓の言うとおり、まず何をやるか決めないとね。というわけで、梓。何がやりたい?」
「大富豪!」
「大勢でやる定番だね。でも定番過ぎてつまらない。だからナシ!」
個人的な理由だなぁ、おい。
「はい次、なつめちゃん」
「七並べがやりたいです」
「私が絶対勝つからヤダ」
さっきより個人的な理由になった!
「はい次、楓」
「ダウトがやりたいですね」
「めんどい。だからナシ。というわけで私がやりたいポーカーに決定!」
「みんなに聞いた意味ねぇぇえええええぇ!! しかも俺聞かれてねぇえええええぇ!!」
「櫺なんて知ったこっちゃない」
「そんなことだろうと思いましたよ!!」
「ちょっと喋らないでくれる? ……ウザイ」
「喋ってるだけで!?」
「違うよ。記憶の中にいるだけで……、だよ」
「さらに酷でぇぇえええええぇ!! というよりウザイならなぜこの部活に入れた!?」
「精神を極限まで追い詰めるため……、に決まってるでしょ」
「コイツ最低だぁあああああああっ!!」
「五月蝿いコイツは無視で、ポーカーを始めよう!」
「最終的に無視か!?」
「やっぱり賭けないとつまらないよね。というわけで……」
槐は席を立ち上がると、棚のほうに行き、そこからティッシュ箱程度の大きさのダンボールを二つ持ってきて机の上に置く。
ダンボールを開けると、中には箱いっぱいのメダルが入っていた。
「うわー、こりゃスゲーな」
「ですね。部長、これどうやって集めたんですか?」
「どうやってだと思う?」
楓の疑問を槐は疑問で返す。
「まさか、自分で増やした……、とか?」
恐る恐る楓が聞く。
もしこれだけの量を増やせたのなら凄いとしか言いようがないぞ……。
「まさか……。そんな訳ないでしょう。これはもう閉まったゲームセンターから貰ってきたものだよ」
「ですよね~。そんな訳ないですよね~」
楓がホッとした様子で呟く。
「ちなみに……」
楓のホッとした顔を見た槐は、そう言って再び棚に近づいていく。そして棚の一番下にあるダンボール箱を開けると……。
「これが自分で増やしたメダル。特にポーカーで」
そこには、またしても箱いっぱいのメダルが入っていた。その量机に置いてあるメダルの四倍程。
「始まりは、拾ったメダル一枚からだったわ」
……………………………………………………。
俺達は唖然とそのメダルを眺めていた。
「さて、ではポーカーを始めよう!!」
一人盛り上がっている部長を除き、俺達四人が感じたことは一つ。
(絶対勝てる気がしない!!)
こうして魔のポーカーが始まったのだった。