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深夜の散歩日記

作者: ジェミラン
掲載日:2026/06/19

日付が変わった頃、いつもの散歩に出た。


この時間の住宅街は本当に静かだ。人の声も車の音もしない。聞こえるのは自分の足音と、時々どこかで猫が動く気配だけ。それが心地よくて、もう何年もこの時間に歩いている。


今夜はいつもと違う道を選んだ。少し遠回りになるが、その先に小さな児童公園がある。ブランコと滑り台と、申し訳程度の砂場があるだけの、何の変哲もない公園だ。


公園の前を通りかかったとき、ふと足が止まった。


ブランコが揺れていた。


風はない。今夜は驚くほど風がなかった。それなのに、ブランコのチェーンが軋む音が、ギシ、ギシ、と一定のリズムで響いている。


正直に言うと、背筋が冷えた。誰もいないはずの公園で、誰も座っていないブランコが揺れている。こういう瞬間、頭の中で都市伝説やホラー映画のワンシーンが一気に再生される。「これは何かの前触れだ」「振り返ったら後ろに何かいる」――そんな考えが次々と浮かんでくる。


足音を立てないように、そっとブランコに近づいてみた。チェーンの音は止まらない。ギシ、ギシ。


公園の中に入る。誰もいない。砂場にも、滑り台の裏にも、誰の姿もない。それでもブランコだけが、規則正しく揺れ続けている。


スマホのライトをつけて、ブランコの座面を照らした。


そこには、小さなぬいぐるみが一体、紐でくくられていた。誰かが忘れていったのか、あるいは誰かが意図的に結びつけたのか分からないが、風のない夜に揺れていたのはそのぬいぐるみの重さと、チェーンの金具の緩みが原因らしかった。少し前から雨が降ったり乾いたりを繰り返していたせいで、金属部分がわずかに歪み、自重だけで微妙に揺れる状態になっていたのだろう。


つまり、ただの経年劣化と物理現象だった。


拍子抜けというより、少し笑ってしまった。一人で深夜の公園に立って、ブランコの軋み一つにあれこれ想像を膨らませていた自分が、急に滑稽に思えてきたからだ。


ぬいぐるみは小さなクマで、片方の耳がほつれていた。誰かの忘れ物なのだろう。明日の朝、管理事務所か近くの掲示板に置いておこうと思い、紐を外してポケットにしまった。


そうするとブランコは静かになった。当然だ。重さがなくなれば揺れる理由もない。


それから何事もなく散歩を続けた。公園を出て、いつものコンビニの前を通り、自動販売機の灯りだけが妙に明るく感じる道を歩いて帰った。


家に着いてから、ポケットの中のクマのぬいぐるみをもう一度見た。汚れてはいるが、特に不気味なところはない。ただの古いぬいぐるみだ。


布団に入る前にふと思った。もしあのとき怖がって公園に近づかず、そのまま帰っていたら、今夜の出来事は「深夜の公園で揺れる謎のブランコ」という、ちょっとした怪談のような記憶として残っていたかもしれない。確かめにいったから、ただの忘れ物と金具の劣化という、地味な答えに行き着いた。


怖い話というのは、たいてい確かめないことで成立しているのだな、と妙に納得しながら眠りについた。


明日も同じ時間に散歩に出るだろう。次は何の変哲もない夜であってほしいとも思うし、少しだけ、またちょっとした「謎」に出会えたら面白いとも思っている。

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