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最終話

【ナオキ視点】


『(ナオキ!!トウヤ君は無事に元気になったよ!!)』

『(ありがとうアイリ。水糸で軽減しきれなかったから焦ったけど良かった)』

『(それは仕方がありませんわ。私たちに派遣されたゴーレムとは性能の桁が違いましたから。今の私たちに出せる脳内リソースでは、最大出力の防御でした)』


玉座の間の壁に大穴が空き、皇帝が文字通り星になった後。

 俺たちが感覚共有で反省会をしていると、

 瓦礫を踏み越えて、一人の男が静かに拍手をしながら現れた。


「――素晴らしい。まさか本当に、あの『皇帝』を物理で天まで殴り飛ばすとは。特務機関のデータ(想定)を遥かに超える結果ですよ、ルカ殿」


特務機関トップ、ユリウス。

 この国の真の支配者とも言える有能なエリートは、国のトップが消し飛んだというのに、一切の動揺を見せずに冷たく微笑んでいた。


「お前……! トウヤ君たちをいじめてた黒幕っすね! お前もぶっ飛ばすっす!」

「おや、それは困る。私は皇帝と違い、ただの『非戦闘員(政治家)』ですからね」


ルカが拳を構えると、ユリウスは懐から一枚の豪奢な羊皮紙を取り出した。

 それは、システムに直結した【絶対契約書】。一度サインすれば、世界法則そのものが契約の不履行を許さないという、国の最大の政治的防壁だった。


「ルカ殿。仲間を大切にされているあなたに『取引』を持ちかけたい。……あなたがこれ以上の、国(私)への攻撃を放棄し、矛を収めるなら。私はこの国の全奴隷に対し、一度だけ『無条件での身分解放(一般市民への格上げ)』を希望するか問い、システムで保証しましょう」

「全員の奴隷の解放……!」


ルカの目が大きく見開かれる。

 ユリウスは恭しく頭を下げた。

「ええ。あなたの仲間の彼らを鎖から解き放つ。血を流さずにすべてが解決する……一個人として、これほど素晴らしい成果はないはずだ」


「……わかったっす! 私がサインすれば、みんな助かるんすね!」


ルカは罠の存在など微塵も疑わず、迷いなく羽ペンを取り、契約書にサインを書き殴った。

 俺とツカサは、その後ろで黙ってその光景を見つめていた。


『(……あなた。やはりユリウスの狙いは『一度だけ』という条件ですわね)』

『(ああ。あのエリート様は、弱者の思考を完璧に計算してやがる)』


ユリウスの口角が、勝利を確信したように歪んだ。

 奴隷の解放を「一度だけ」全奴隷に問う。一見するとルカの完全勝利に見えるが、これはユリウスが仕掛けた極悪な『リスク管理(罠)』だ。

 奴隷たちの中には、家族を人質に取られている者や、長年の恐怖で心が折れ、自ら隷属を望む(ストックホルム症候群の)者が大勢いる。

 突然システムから「自由になるか?」と問われても、彼らは報復を恐れ、そのほとんどが『拒否(奴隷の継続)』を選ぶ。そうすれば、ルカは契約に縛られてもう国を攻撃できず、ユリウスは「彼らは自ら奴隷を選んだ」という大義名分のもと、無傷でインフラ(奴隷)を保持できるのだ。


『『『システムアナウンス。勇者【ルカ】および国代表【ユリウス】の絶対契約が成立しました』』』

『『『これより、全奴隷に対し、【身分解放の承認確認】を一斉送信します』』』


システムのアナウンスが城中に、いや、国中に響き渡る。


「……はは、現実を知るがいい、勇者殿。彼らは自由など求めてはいない。自ら檻の中(奴隷)を選ぶのですよ」


ユリウスが冷酷に告げ、システム画面に『承認率(解放を望む者の割合)』が表示される。

 ユリウスは、それが「数%」で止まることを確信していた。


だが。

 システムのカウントは、一瞬の停滞すらなく跳ね上がった。


『『『――奴隷身分からの解放承認率。……100%。』』』

『『『国内の全奴隷の、完全解放(市民権の獲得)が確定しました』』』


パリンッ! パリンッ! と。

 城の地下から、そして王都の至る所から、隷属のチョーカーが砕け散る澄んだ音が、雨あられのように響き渡った。


「は……?」


ユリウスの顔から、初めてすべての表情が抜け落ちた。

 完璧なエリートの仮面がひび割れ、震える目でシステム画面を二度、三度と見直す。


「ひゃ、100%……!? ば、馬鹿なッ! 人質を取られている者もいたはずだ! 報復を恐れて、システムに『はい』と言えるはずがない!! なぜ……なぜ一人の例外もなく、反逆の意志を……ッ!?」

「当たり前だろ。そいつらの『心』は、もうとっくに繋がってたんだからな」


俺は、呆然とするユリウスの前に進み出た。


「お前は確かに頭がいいし、リスク管理も完璧だったよ。だがな、お前は『人間の心』をただの数字として見下して、一切視てなかった」

「な、なにを……?」

「俺たちは、数日前からこの城の地下で、ずーっと『希望』をバズらせてたんだよ。みんなで励まし合って、ルカの姿を共有して……なんとかその日まで耐え忍んで必死に生き続ける『見えないネットワーク』をな」


セリアから拡散した、ボトムアップの巨大なSNS(感覚共有)。

 恐怖で分断されていた奴隷たちは、すでに俺たちの盤外戦術によって、一つの『家族』のように心を繋いでいたのだ。だからこそ、たった一度のチャンスに、誰一人怯えることなく「YES(自由)」を選ぶことができた。


「ルカが、外から理不尽の扉を蹴り破る。その時、中で待ってる全員が一斉に『せーの』で飛び出せるように、ほんの少しだけ、俺たちが最初の一歩を踏み出してたんだ。お前はその人の心を、視てなかった」


「あ……ああ……ッ」


ユリウスが、ついに膝から崩れ落ちた。

 武力でも魔法でもない。彼が最も得意としていた『政治と管理』の土俵で、完全に足元をすくわれたのだ。


「こんな……こんな真似をして、タダで済むと思っているのか……!」


ユリウスが、血を吐くような声で俺たちを睨みつけた。


「国家のインフラを支える奴隷がすべて消えれば、経済は破綻し、国は滅びる! 結果として、多くの民が路頭に迷い、不幸になるのだぞ! 無知な弱者を動かすには、私が作った『管理という枠組み(システム)』が絶対に必要だったんだ!!」


それは、彼なりの正義であり、前世の腐った企業がよく口にしていた「組織の論理(言い訳)」そのものだった。

 俺はため息をつき、崩れ落ちたエリート(アホ)の胸ぐらを掴んで、無理やりルカの方を向かせた。


「……枠組み(システム)だと? んなもん、上が自分の都合で決めつけるから歪むんだよ」


俺は、満面の笑みで親指を立てているルカを見て、最高に悪い顔で笑った。


「システムなんてものはな、毎日必死に汗かいてる連中が、自分たちの手で作ればいい。お前みたいな頭でっかちのアホに、最初から用意される筋合いはねぇんだよ。俺はそれを、こいつに教えてもらった」


俺はルカに向かって、ポンと軽く手を掲げた。


「――そうだろ? ルカ」

「はいっす、師匠!! 私たちの居場所は、私たちが作るっす!!」


ルカが元気いっぱいに叫んだ、その直後だった。


「ルカ様ぁぁぁっ……!!」

「ツ、ツカサさ――ひぐえっ!?」


ツカサが、大粒の涙をポロポロとこぼしながら、誰よりも早くものすごい勢いでルカに飛びついた。


「本当によく……っ、本当によく頑張りましたわね……っ! 私たちの、自慢のルカ……っ!」


ツカサはルカをギュウゥゥッと力強く抱きしめ、泥だらけの頬に自分の顔を擦り付けるようにして泣きじゃくっている。それはずっと我慢していた、愛情の爆発だった。


「あーっ! ツカサちゃんずるいっ! 私もっ!」


そこに、同じく涙ぐんだアイリもものすごい勢いで飛びついてくる。


「もーっ、ルカちゃんったら最高っ!! 今日のステージ……宇宙一輝いてたよっ!!」

「ぐええっ!? く、苦しいっす、二人とも……っ!」


ツカサとアイリの豊満な胸に挟まれ、ルカが顔を真っ赤にしてジタバタと暴れるが、二人は「えらいえらいっ」「本当に立派でしたわっ」と頭を撫で回して、絶対に離そうとしない。


「ツカサ、さん……アイリ、さん……っ」


大人たちのごまかしのない愛情と体温に触れた瞬間。

 ここまで、どんな理不尽にも絶対に屈しなかったルカの瞳から、ついに大粒の涙がこぼれ落ちた。


「う、うわあああああんっ! 私、すっごく……すっごく、怖かったんすからねぇぇぇっ!! 師匠が裏切った時とか、本気で目の前真っ暗になったんすからぁっ!!」

「あはは、ごめんねルカちゃん! ナオキ、本当に性格悪いもんねー!」

「ええ、あんなタチの悪い大人を師匠に持ってしまったことだけは、心から同情しますわ……っ」

「お前ら、サラッと俺をディスるな」


俺が呆れたようにツッコミを入れると、ルカは「うわあああんっ」と声を上げて大泣きしながら、アイリとツカサの二人に力いっぱい抱きつき返した。

 トウヤとミヤビも駆け寄ってきて、みんなでもみくちゃになりながら、涙と笑顔を交えて抱き合っている。


「……ま、悪くねぇか」


俺はポン、と軽く肩をすくめ、その光景を眩しく見つめた。


真っ直ぐで不器用な少女が、決して曲げることなく、自分の意思で、自分の力で理不尽に打ち勝ち、最高の仲間と、少しだけタチの悪い大人たち(俺)に囲まれて、心の底から泣いて笑っている。


それは、ずっと俺が答えを探していた、本当の【自分らしいエゴを通した生き方】だった。


そして、その眩しすぎる答えをくれた救いの光景は、


まさに――この世界を照らす【光の勇者】達だった。

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