表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/49

第三十九話

(「……さて。セリア、お前にはこれから地下牢に様子を見に行ってもらうわけだが、ただのスパイをやらせるつもりはねぇ」)


感覚共有リンクを繋いだまま、俺はセリアの脳内に、ある一つの『権限プログラム』を付与した。


(『これは……? ナオキ様の魔力……?』)

(『ああ。【感覚共有】のサブ管理者権限だ。いいかセリア、俺や嫁たちの能力スペックがいくら高くても、この城にいる何千、何万という奴隷全員と直接リンクを繋げば、情報の処理量で俺たちの脳が焼き切れる。ただでさえ魔薬がドバドバでそっちの処理で手一杯だってのに、これ以上アホになるのはごめんだ』)


俺がそう言うと、ツカサが、前世のコンサル時代を思わせる冷徹な笑みを浮かべて補足した。


(『だから、ナオキ(あなた)がすべての端末(奴隷)を管理する「中央集権型」にはしません。セリア、あなたが最初の「独立機」になりなさい』)

(『……?』)

(『あなたが地下牢で信頼できる者……例えば、妹のニーナさんに触れて、私たちがあなたに与えた「この絶対的な安心感と希望(極上の体験)」を共有シェアするんです。そしてリンクした彼女たちにも、さらに別の奴隷へとリンクを広げる「権限」を与える』)


前世の言葉で言えば、自律分散型(P2P)のネットワーク構築。あるいは、SNSの爆発的なバズ(拡散)だ。

 一人が二人に、二人が四人に、四人が八人に。

 ネズミ算式に増殖する「希望の感染源」たちは、それぞれが独立したサーバーとして機能し、俺たちの魔力や脳に負担をかけることなく、地下の数千人を一瞬にして一つの巨大なネットワークへと呑み込んでいく。


(『物理的な武器も、言葉での説得もいらねぇ。ただ全員で【希望】を共有しろ。そしてもう一つ、お前らに希望として共有してもらう【光の勇者ルカ】のイメージ図を与える。こいつがお前らを助け出す時が来るまで、その希望を捨てずに堪えるんだ……そして、助けてくれるとなったときに必ず手を伸ばさせるようにしろ。できるな?』)


俺の問いかけに、セリアの瞳が、暗い復讐の炎と強烈な使命感でギラリと光った。


(『はい……っ! 奴隷たち全員の心を一つにして、必ずや、ナオキ様のための【最強の軍勢】を作り上げてみせます……!』)


若干意図がズレているような気もするが、俺は満足げに頷き、セリアのリンクを「バックグラウンド(常時接続の待機状態)」へと移行させた。

 これで、俺たちが上で美味い飯を食ってふかふかのベッドで寝ている間にも、地下の暗闇では、誰にも検知されない「静かで爆発的なクーデターの準備」が、ウイルスのごとく城中を侵食していくことになる。


これで、【原住民(メイドや兵士)】【異世界人のハズレ枠】の問題については、ほぼ勝手に片付くだろう。

 ユリウスの【特務機関】は、俺たちのことをアホだと思って警戒を緩めているはずだし、とりあえず放置で問題ない。


あとは、バルガスとかいう男をはじめとする【チート同盟の武闘派】を何とかしないといけない。


(『――だから、さっきも言ったけど、私は元トップアイドルだよ? 男の「独占欲」と「見栄」を煽って、ドロドロの人間関係を作って勝手に自滅させるなんて、魔法なんかなくても息をするより簡単だってば!』)


セリアを地下へ送り出した後。

 VIPルームのふかふかのベッドの上で、アイリは得意げに胸を張り、武闘派の将軍たちを「悪女ムーブ(ハニートラップ)」で同士討ちさせる作戦を再度力説してきた。


確かに、彼女の圧倒的な美貌と前世のアイドルスキルを使えば、知能の低い武闘派どもを骨抜きにして殺し合いをさせることなど造作もないだろう。理にかなっている。

 だが――、


(『却下だ。お前が他の男に色目を使うなんて、俺が絶対に許さん』)

(『えぇーっ!? なんで!? 一番手っ取り早くて確実なのに!』)

(『嫌なもんは嫌だ。俺の嫁が、ゴリラどもに媚び売る姿なんか一秒たりとも見たくねぇ』)


俺が即答で切り捨てると、アイリは目を丸くした。

 しかし、俺たちが繋いでいる【感覚共有リンク】は嘘をつけない。俺の奥底にある「妻への強烈な独占欲」と「他の男に見せたくないというエゴ」がダイレクトに伝わり、アイリはみるみるうちに耳まで真っ赤に染まった。


(『も、もうっ……ナオキのバカっ。ヤキモチ焼き……っ♡』)


アイリが嬉しそうに俺の胸に顔を埋めてくる。

 だが、俺の思考はそれだけで終わっていなかった。


(『……だが、待てよ。アイリがライブをやるってのはどうだ?【人妻アイドル】って響きは、最高にエロくてアリだな。俺も最前列で、アイリのガチのライブが見てぇわ』)

(『ちょっ!? なんで急にアホな性癖出してきたの!?』)


俺のアホな欲望フェティシズムが共有され、アイリがポカポカと俺の胸を叩く。

 そのやり取りを見ていたツカサが、ふと眼鏡のブリッジを押し上げ、前世の有能なコンサルタントの顔つきになった。


(『……ご主人様。それ、ビジネスモデルとして非常に優秀かもしれません』)

(『ツカサ?』)

(『武闘派の将軍たちは、全員が「純粋な悪」というわけではありません。彼らはただ、チート同盟から与えられた暴力と魔薬という「下品な娯楽」しか知らない、可哀想な筋肉バカです。……そこに、アイリ様という『圧倒的な光(本物のエンタメ)』を叩き込めば、どうなるか』)


ツカサの口角が、ニィッと悪魔のように吊り上がった。


(『彼らを同士討ちさせるのではなく、アイリ様の【狂信的なファン(親衛隊)】として洗脳……いえ、教化するのです。集金システムとファンクラブの運営は、私が完璧に構築しますわ』)

(『……乗った。アイリ、一丁この異世界に、本物のアイドルの格の違いってやつを見せつけてこい』)

(『もう、二人ともホントに悪い顔してるんだから! ……でも、ナオキが特等席で見てくれるなら、本気出しちゃおうかなっ!』)


こうして、前代未聞の【武闘派アイドル化計画】が幕を開けた。


***


翌日。

 俺はユリウスに対し、「嫁が歌いたいってワガママ言うから、中庭にデカいステージ組め。あと観客として将軍どもを集めろ」と、いかにも欲望に溺れたアホな転生者として要求を出した。

 ユリウスは監視カメラの向こうで鼻で笑いながら、「武闘派のガス抜きにはちょうどいい」と二つ返事で許可を出した。


そして――白亜の王城、中庭特設ステージ。


「なんだぁ? 新参者の女が歌うだと?」

「けっ、どうせ下品なストリップでもするんだろ。つまらなかったら殺してやる」


バルガス将軍をはじめとする数十人の武闘派のチート能力者たちが、腕を組んで退屈そうに並んでいた。彼らの目は、暴力と欲望で濁り切っている。


だが、ステージにアイリが立ち、その声が響き渡った瞬間。

 中庭の空気が、世界が、一変した。


「――みんなーっ! 今日は集まってくれてありがとう! 全力でいくよっ!!」


魔法も、魅了のスキルも一切使っていない。

 ただ、前世でドームを満員にしてきたトップアイドルの、圧倒的な歌唱力。一瞬で視線を釘付けにする完璧なダンス。そして、観る者すべての心を撃ち抜く、太陽のような笑顔。


それは、暴力と血の匂いしか知らなかった彼らにとって、劇毒にも等しい『純粋な光』だった。


「な、なんだ……この、胸の奥から湧き上がる熱いものは……!?」

「涙が……止まらねぇ……っ。俺は、俺は今まで、なんて薄汚い人生を……!」

「すまねえ……ワインに毒なんか入れちまって……あとで解毒剤を届けさせる……!! 俺のファンレターと一緒に!!!」


バルガス将軍が、ボロボロと大粒の涙を流して膝から崩れ落ちる。

 他の将軍たちも同様だった。彼らの魂は一瞬にして浄化され、「推し」というこの世で最も尊い概念に目覚めてしまったのだ。


「ウオォォォォォ!! アイリちゃぁぁぁぁぁん!!!」


屈強な筋肉ダルマたちが、その辺の木の枝をへし折って光魔法を付与し、サイリウム代わりに全力で振り回し始めた。

 完璧なコールアンドレスポンス。怒号のような歓声。中庭は完全に、熱狂のライブ会場モッシュピットと化していた。


そして、ライブが大成功を収めた直後。

 熱気冷めやらぬ会場の出口に、ツカサが満面の笑みでテント(物販ブース)を構えていた。


「皆様、本日は『ナオキ・プロダクション』のライブにお越しいただきありがとうございます! ……今なら、アイリ様公式ファンクラブ【親衛隊】への入会権と、最前列VIP席の確約チケットを、特別価格『金貨100枚』でご用意しておりますわ!」

「買う!! 俺の領地の税収を全部持っていけェェェ!!」

「俺は金貨500枚出す!! アイリちゃんの汗を拭いたタオルを売ってくれェェ!!」


チート同盟の軍資金が、まるでスパチャ(投げ銭)のように、湯水のごとくツカサの足元に積み上げられていく。


「あ、アイリちゃん……っ! 応援してます……っ! こ、これ、俺の故郷の特産品です、食べてくださいっ!」


ライブ後の【握手会(※参加費:金貨50枚、制限時間3秒)】。

 バルガス将軍が、巨大な身体を小さく丸め、顔を真っ赤にしながらアイリと握手を交わしていた。


「ありがとう、バルガスさんっ! これからも応援よろしくねっ☆」

「ブフォッ……!!(尊死)」


アイリのウインク一つで、歴戦の将軍が鼻血を吹いて天を仰ぐ。

 だが、将軍たちの態度は極めて紳士的だった。無理やり触ろうとする者など一人もいない。

 なぜなら――アイリのすぐ斜め後ろには、俺とツカサが腕を組み【目】を光らせており、調子に乗ったものは二度とライブを見ることができなくなるからだ。


「……俺の嫁の手に、3秒以上触れたら出禁にするぞ」

「ヒッ……!? プ、プロデューサー様! 3秒きっちりで離れますんで! 失礼しますッ!!」


将軍たちは俺の殺気に震え上がりながらも、完璧な規律で握手会をこなしていく。

 彼らにとって俺はもう「生意気な新参者」ではない。絶対的な権力を持つ【アイリちゃんの所属事務所の社長プロデューサー】として、逆らってはいけない神のような存在として脳に刷り込まれていた。


「……やっぱ俺の嫁たち、世界一えげつねぇわ」


俺は大量の金貨の山を前にして、思わず乾いた笑いを漏らした。

 ユリウスの監視の目を「ただの娯楽」と完全に欺いたまま、俺たちはたった一日で、チート同盟の最大武力である武闘派の一部の心と軍資金を、完全に掌握(ファン化)することに成功したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ