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第三十五話

神聖グリニア帝国の中央広場。

 視界を埋め尽くすギラギラとした白銀と黄金の街並みのド真ん中で、俺たちは完全に周囲から浮いていた。

 だが、そんなことはどうでもよかった。


「んぅ……っ、ちゅっ……ナオキぃ、この街キラキラしててすっごいねぇ……街の明かりでかっこいいナオキが百倍かっこよく見えるよぉ……えへへ、すりすり……」

「……はぁっ、はぁっ、ご主人様の、匂い……さきほどの瓦礫の上での『激しいミーティング』の熱が、まだ私に……あぁっ、人目のある屋外での密着、最高のコンプライアンス違反ですわ……っ!」


俺の右腕には、通行人の目など一切気にせず、胸の豊満な膨らみを押し付けて甘いキスを降らせてくるアイリ。

 左腕には、タイトスーツを乱したまま俺の腕にべったりと抱きつき、熱い吐息を漏らして身悶えするツカサ。


少し前の瓦礫の上の濃密な余韻と、繋ぎっぱなしの【感覚共有スリーウェイ・シンクロ】のせいで、俺たち三人の脳みそは完全に「理性」というブレーカーが落ちていた。


(『あー、ナオキの匂いすきー。もっとちゅーしたいー。でもお腹もすいたー』)

(『ご主人様……ご主人様……! 路上で押し倒されたい……!』)


頭の中に直接響いてくる二人のアホみたいな欲望。

 だが、俺の思考も大差ない。五感が完全に復活した俺は、右から伝わるアイリの柔らかさと甘い匂い、左から伝わるツカサの艶かしい体温と濡れた声に中てられ、「とりあえず美味い肉食って、ホテルのベッドでもう一回ヤリてぇな」という原始的な欲求で脳内がパンパンになっていた。


「よし、とりあえず肉だ。一番高くて美味い肉を食うぞ」


俺が両脇の二人を抱き寄せて腰を撫で回すと、アイリは「やったぁっ☆」と俺の頬にキスをし、ツカサは「ひぅっ」と甘い声を上げて脚を震わせた。

 俺たちは、もはや三人の脚が絡まり合うような密着具合で、広場に面した最高級の白亜の建築物『ホテル・マジェスティ・グリニア』へと歩き出した。


「おい、止まれ! 貴様ら、白昼堂々となんという破廉恥な……っ! ここは帝国の貴族か、とある団体の幹部様しか泊まれない場所だ! さっさと失せ――」


ホテルの玄関で、門番が顔を真っ赤にして槍を突き出してきた。

 だが、俺の腕にぶら下がったままのアイリが、面倒くさそうに首を傾げた。


「あのねぇ、お兄さん! 私たち、さっきまでいーっぱい愛し合ってすっごく疲れてるの! お肉食べてお部屋でイチャイチャしたいから、通して? きゅるんっ☆」


超至近距離から解き放たれた【超絶美少女アイドル】の一点集中魅了。

 門番の男はポカンと口を開け、鼻血を吹き出しながらその場に崩れ落ちた。


「あぁ……っ、女神、様……俺の全財産を捧げますから、どうぞ最上階のスイートへ……!」

「ありがとっ☆ 行こ、ナオキ!」


俺たちは、道を開けた門番の頭を跨ぎ、これ見よがしにイチャイチャしながら黄金色のロビーへと踏み込んだ。


「お金はどうするの? ナオキ、私タダ食いより、ちゃんとお金払って贅沢する方が好きなんだけどぉ」

「ご安心を、アイリ様……っ」


ツカサが俺の胸にすり寄りながら、片手で空中に魔力モニタを展開する。


「チート同盟の機密費口座から、当面の滞在費を数億ほど……んっ、ご主人様、そこを撫でられるとタイピングが……っ、あぁっ……よし、『横領』完了ですわ。決済しました」

「よくやった。賢いな、ツカサ」


俺が褒美としてツカサの耳たぶを甘く噛むと、彼女は「ひゃあっ!」と可愛らしい悲鳴を上げてロビーのど真ん中でへたり込みそうになった。

 ほかの客たちがギョッとしてこちらを見ているが、アホになった俺たちに羞恥心など存在しない。

 俺たちは最上階のキーを受け取ると、エレベーターの扉が閉まった瞬間に、三人で唾液を貪り合うように激しくキスを交わした。感覚共有のおかげで、誰か一人がキスされる快感が、三人全員の脳を同時に焼き焦がしていく。


王城の謁見の間すら凌駕する広さのリビング。

 だが、俺たちが興味を示したのは、窓からの絶景でも高級な調度品でもなく、銀のワゴンで運ばれてきた『グリニア・ベヒモスのサーロインステーキ』と、ふかふかの『超特大ベッド』だけだった。


「はい、ナオキ! あーーんっ☆」


俺の膝の上に跨ったアイリが、切り分けた肉を俺の口元へ運んでくる。

 俺がそれをパクリと咥え、ついでにアイリの指先までペロリと舐め上げると、彼女は「んぁっ……ナオキぃ、えっち……っ」と顔を赤くして俺の首に抱きついた。


噛み締めた瞬間、溢れ出す肉汁。舌の上で溶ける脂の甘み。


(……っ!!!)


完全に復活した味覚に、最高級の肉の旨味が直撃する。

 美味い。美味すぎる。そして、感覚共有によって、俺の感じた『美味い』という強烈な快感が、アイリとツカサの脳にもダイレクトに流れ込む。


「はぁぁ……っ! ご主人様の口の中のステーキの味……っ! 最高級の肉の旨味と、ご主人様の唾液が混ざり合って……私の脳内演算機が、完全に融解しますわぁぁっ!」

「あはは! ツカサちゃんまだお肉食べてないのにとろけちゃってるー! ほら、ツカサちゃんもワイン飲んで! それを口移しでナオキに飲ませてあげて!」


完全に頭のおかしい宴だった。

 俺たちは肉を食い、ワインを口移しで回し飲みし、そのたびに「お肉サイコー!」「ご主人様サイコー!」とアホみたいに笑い合った。

 魔力リソースを食いつぶされた脳は、もはや「快楽」と「食欲」しか処理できない。チート同盟がアホになるのも当然だ。こんなにも気持ちよくて楽しいのだから、難しいことなど考えるだけ無駄だ。


肉を平らげた俺たちは、三人絡み合うようにして巨大なソファーへとなだれ込んだ。


俺の右側には、お腹いっぱいでとろけきった顔のアイリ。

 左側には、乱れたスーツ姿で俺の腕にすり寄るツカサ。


「ツカサ。少しは休め」

「いえ、ご主人様……次なる買収案件の……んちゅっ!?」


仕事の話をしようとしたツカサの唇を、俺は強引なキスで塞いだ。

 ツカサの身体がビクッと跳ね、感覚共有のラインから『やばいやばいやばい! ご主人様の舌がっ! 私のパーソナルエリアにっ!』というアホみたいなパニックが流れ込んでくる。


「……ツカサ。お前、さっきから感覚共有がうるさいぞ。そんなに俺のキスが嫌か?」

「い、嫌なわけありませんわ! むしろ福利厚生の過剰供給で……あぁっ、もう、どうにでもしてくださいませ……っ。私、完全に『業務継続不能シャットダウン』ですわ……」


ツカサは完全に白旗を上げ、俺の胸にコテンと顔を埋めて擦り寄ってきた。

 アイリも「私もナオキとちゅーするーっ!」と反対側から俺の顔を覗き込んでくる。


「……ああ。最高だな」


世界で一番美味しい肉を食い、世界で一番可愛い女たちを両腕に抱き、四六時中イチャイチャする。

 俺は二人の温もりを同時に抱き締め、贅を尽くしたリビングのソファーで、欲望の赴くままに二人の身体を撫で回した。


ルカたちが、理不尽と戦い多くの弱者を救っているだろうその空の下。


 俺たちイカれた大人三人は、自分たちの欲望を1200%解放した『最強のアホ集団』として、この世界の主役たちから全てを奪うための準備(という名のイチャイチャ)を、華やかに満喫するのだった。



*****



ホテル・マジェスティ・グリニアの最上階。

 一日中ホテルのサービスを夜まで満喫した俺たちは、アルコールで火照った身体を冷ますため、スイート専用の広大な屋上テラスへと足を運んでいた。


夜の冷たい風が、熱を持った頬を心地よく撫でていく。


「わぁ……っ! ナオキ、見て! すっごく綺麗……!」


手すりから身を乗り出したアイリが、歓声を上げた。

 眼下に広がるのは、神聖グリニア帝国の夜景だった。無数の魔晶石の街灯が放つ光が、まるで地上に星空を敷き詰めたようにギラギラと煌めいている。


「ええ……魔力の無駄遣いもここまで来ると、一つの芸術アートですわね」


夜風に髪を揺らしたツカサが、俺の隣で目を細める。

 俺の右腕にはアイリが抱きつき、左腕ではツカサが「愛人としての福利厚生です……」とかなんとか呟きながら、俺の肩に頬を擦り寄せていた。


(……愛人、ね)


ルカがいなくなった寂しさに耐えきれず、ツカサが「やり場のない母性と変態性をぶつけさせてください」と夜這いをかけてきたあの日。アイリも「三人で繋がってみたい」と顔を真っ赤にして提案してきて、結局あの夜から、俺たちはなあなあで三人で抱き合う関係を続けてきた。


だが。

 理性のタガが外れ、五感が完全に復活し、自分の『強欲さ』を1200%肯定できるようになった今の俺にとって、その「なあなあ」な関係は、ひどく気に食わないものに思えた。


「おい、ツカサ」

「んぁっ、はい、ご主人様……ちゅっ」


俺が声をかけると、ツカサは甘い声で応え、俺の首筋にキスを落とした。


「お前、自分のこと『愛人』って言うの、今日でやめろ」

「……えっ?」


ツカサの動きがピタリと止まった。

 感覚共有のラインから、『愛人契約の打ち切り(解雇)!?』という、彼女の心臓が凍りつくようなパニックが流れ込んでくる。アイリも驚いて振り返った。


「悪いが、感覚共有も、少し切るぞ」


「ナオキ!? なんでそんなこと言うの! ツカサちゃん、すっごくナオキのこと好きなのに!」

「ご、ご主人様……っ、私、何かコンプライアンス違反を……っ、捨てないで、ください……私、もう貴方なしでは……っ」


ツカサの瞳から、ボロボロと大粒の涙が溢れ出した。

 あぁ、違う。俺の言葉足らずだ。悪い方にしか考えられないらしい。


「泣くなって。捨てるわけねぇだろ」


俺は二人の頭をポンポンと撫で、アイリの左手を取った。


「愛人なんて、そんな中途半端なポジションで俺の隣に立たせるつもりはねぇって言ったんだ。……それに、アイリ」

「えっ、わ、私……?」

「昔、約束したよな」


帝都の絶景を背に。

 俺は懐から『二つの小さなベルベットの箱』をスッと取り出すと、二人の前でパカッ、と開けた。

 そこに入っていたのは、帝都の国宝級とも言える、まったく同じデザインがあしらわれた『大粒のダイヤモンドの指輪』。一切の不純物を持たない純真無垢な二つのダイヤが、背後の夜景の光を反射して、この世のものとは思えないほどの輝きを放っている。


「なっ……!?」

「ええっ……!? いつの間に!?」


「さっきお前たちを置いてホテルから出たとき、見繕っておいたんだ」


言葉を失い、キョトンとする二人の前で、俺は屋上の冷たい床にひざまずき、それぞれの左手を取った。


「アイリ、お前が俺に、自分のために生きていいと言って救ってくれた日から今日まで、ずっと毎日が幸せだった。改めてありがとう。俺と結婚してほしい」


俺は、アイリの薬指から地味な幻影の指輪を外し、代わりにダイヤの指輪を嵌めた。


「ツカサ、お前は本当はテンパる可愛い女の子なのに、ずっと強がらせてしまって悪かったな。これからも色々と頼らせてほしいが、もっと正直に甘えてほしい。俺と結婚してくれ」


そして、ツカサの震える薬指にも、まったく同じダイヤの指輪をゆっくりと嵌めた。


「お前たち二人に、優劣なんてねぇ。世間の常識とかどうでもいい。俺は強欲だからな。お前たち二人を、平等に俺の正妻にする」


俺が真っ直ぐに二人の目を見てそう告げると。

 ――――ピタッ、と。

 二人が、完全にフリーズした。感覚共有を切っているので不安になる。


「ん? なんで二人ともずっと黙って……俺と結婚してくれ。……文句あるか?」


俺が不安をごまかすように、もう一度念を押してそう告げた直後。


『ブンッ!!』と。

 切ったはずの感覚共有のラインが、強制的に再接続リブートされた。

二人の脳内から『宇宙の爆発ビッグバン』のような幸福感と高揚感が、俺の脳髄へと逆流してきたのだ。


「う、うわぁぁぁんっ! ナオキぃぃぃっ!! 大好きぃぃぃっ!!」

「あぁっ……あぁぁっ……! 最高の、永久雇用契約プロポーズ……っ! 私の脳内演算機が、完全に溶け……っ、ご主人様ぁぁっ!!」


アイリが俺の首に飛びつき、ツカサが俺の腰にすがりついて号泣し始めた。


「ひぐっ、うぅっ……! するっ! 絶対するっ! ずっとナオキのお嫁さんになりたかったもん……っ!」

「うわぁぁぁんっ……! 愛人から、正妻への昇格……っ! ご主人様、一生、一生私を貴方のお側に……っ!」


『『『【システムアナウンス:特殊契約申請を検知】


対象者【ナオキ】から【アイリ】【ツカサ】に対する【婚姻契約】の同時申請を受理しました。


システム規約の特例措置として【一夫多妻(ダブル正妻)】の特殊誓約を承認します。

健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、互いに愛し、敬い、慰め合い、助け合い、その命ある限り、真心を尽くすことを誓い、絶対的な運命共同体へと契約を移行することを誓いますか?


▶ YES / NO 』』』


脳内に響くシステムアナウンスの声。

 3人は同時に、迷うことなく『YES』と答えた。


『『『【契約完了】


対象者【アイリ】【ツカサ】に、エクストラスキル【強欲な魔王の伴侶】が付与されます。


【強欲な魔王の伴侶】

全てを奪い尽くす魔王に寄り添い、その魂と運命を共有する絶対的な正妻の証。

精神操作、魅了、恐怖、洗脳など、外部からのあらゆる精神的干渉を完全に無効化する。

対象者【ナオキ】のために行動する際、自身の全ステータスに規格外の能力補正ブーストを付与する。


』』』



「……これで、俺たち三人は正式な『家族』だ」


俺は立ち上がり、世界で一番綺麗な二人の妻の涙を拭ってやり、深くキスを交わした。


 もう、何の迷いもなかった。


「さて。最高に綺麗な嫁さんももらった。……あとは、愛する家族で暮らすための『新居』が必要だな」


俺が屋上の手すり越しに、夜景の中心にそびえ立つ白亜の王城を見下ろして笑うと。


「うんっ! 私、お城のふかふかベッドでナオキといっぱいえっちなことしたいなっ☆」

「……御意イエス、マイ・ロード。新婚生活の拠点として、あの王城を完全子会社化(乗っ取り)いたしましょう」


涙を拭ったアイリが弾けるような満面の笑みを浮かべ、ツカサが最高に悪女らしい(そして最高に幸せそうな)笑みを浮かべた。


俺たちイカれたアホ三人組は、最高に強欲な新婚生活を始めるため、いよいよ皇帝の待つ王城へと向かって夜の散歩カチコミを始めるのだった。

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