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第三十二話


土煙が晴れていく中、呆然と立ち尽くしていた大人たちの中から、最初に動いたのは師匠だった。

 師匠はゆっくりと歩み寄ってくると、私の頭に手を伸ばし――。


「……凄い力だ、ルカ。凄すぎる。俺たちの出る幕がなかった。それに、よく無事で――」


バシッ!!


私は、自分を撫でようとしたその大きな手を、思い切り払い除けた。


「っ……ルカ?」

「触らないでほしいっす。……もう、あんたのペットじゃないんすから」


私の明確な拒絶に、師匠が息を呑む。

 アイリさんが悲痛な顔で一歩前に出た。


「ルカちゃん……ごめんね。私たち、ルカちゃんを騙すつもりなんてなかったの! ただ、トウヤ君が本当に信用できるか見極めるためには、こうするしか……」

「見極める? 試したって言うんすか!?」


私は、アイリさんの言葉を遮って声を荒げた。


「トウヤ君は毎晩、一人で泣いてたんじゃないんすか! お姉さんが殺されるかもしれない恐怖と戦って、それでも私を裏切れないって、一人でずっと苦しんでたんすよ! あんたたちはそれに気づいてたのに、ギリギリまで放置して観察してたのか!?」


私の怒声が、静まり返った戦場にビリビリと響き渡る。

 ツカサさんが「それは安全を担保する上で合理的な――」と口を開きかけたが、それを制したのは師匠だった。


「……ああ。俺が、トウヤを試したんだ」


師匠は、怯えるトウヤ君と、彼を庇って立つ私を真っ直ぐに見据えた。


「森でお前たちを襲った時から、こいつがスパイなのは分かってた。……だが、こいつはお前が初めて自分から見つけて、心を開いた男だ。だからこそ、極限状態に追い込まれた時、こいつが自分の肉親の命を握られていても、お前を傷つけないかどうか……同じ男として『人間』を見させてもらった」

「……ッ!!」

「もしお前を裏切るような人間なら、俺が裏で処分するつもりだった。だが、あいつは土壇場で踏み止まり、男としての意地を見せた。だから俺は、あいつを本物の仲間として受け入れたいと思っている」


師匠の言葉には、私への底知れない保護欲と、彼なりの「親心」が詰まっていた。

 私の隣に立つ資格がある男かどうか、見極めてやるという圧倒的な強者の理屈。


「……ふざけんな」


私は、ギリッと奥歯を噛み締めた。


「ふざけんなっすよ……!! トウヤ君の心は! 命がけの葛藤は! 私の隣に立つための『テスト』なんかじゃない!!」

「ルカ!」

「何が同じ男としてっすか! 何が本物の仲間として受け入れるっすか! 上から目線で他人の人生を天秤にかけて、合格したら安全をプレゼントしてやる? それが『大人』のやり方なら……そんなクソみたいな保護、こっちから願い下げっす!!」


私は、地面にへたり込んでいるトウヤ君の腕を掴み、無理やり立たせた。


「ル、ルカちゃん……?」

「私はもう、そんな薄汚い箱の中で、誰かの涙の上に用意された『平和』なんかでヘラヘラ笑うような子供ペットは……今日で辞めるっす」

「ルカ……お前……」


師匠の顔色が変わる。

 私はトウヤ君の手を強く握りしめ、大人三人を見据えた。


「【叛逆の愚者】。これが私の新しいスキルっす。……もう二度と、あんたたちの【絶対防御】は張れない。大人しく箱の中で守られてるだけの役目は、システムごと死んだんすよ。もうここにはいられない」

「ルカ様、どうするというのですか……っ! 」

「決まってるっす」


私は、自分の拳をギュッと握りしめた。


「トウヤ君と一緒に、ミヤビさんを迎えに行くっす。……そんで、人の尊厳を踏みにじったチート同盟の残党を、残らず全員ぶっ飛ばしてやるっすよ」


私と大人たちの間に、決定的な亀裂が走った。

 もう、後戻りはできない。

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