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第三十一話

私の【絶対防御】が、自らの意思で音を立てて崩れ去った。


『よくやったぁ!!死ねえぇぇッ! ハズレ枠のゴミ共ォォッ!!』


そうとも知らず、トウヤ君が結界を破壊したと思ったのか、周りを囲んでいたチート同盟が一斉に杖を振り下ろす。

 放たれたのは、私たちの家を丸ごと飲み込むほどの極大の業火。森で遭遇した未知の魔獣すら、一瞬で消し炭にするほどの圧倒的な【暴力】の結晶だ。


「ルカ!絶対防御はどうした! 後ろに下がれ!!――」


私を庇おうと、師匠が咄嗟に巨大な水の盾を展開して前に出た。

 いつもなら、私を絶対に守ってくれる、優しくて安心できる大人の背中。

 でも、今の私には――ただの『私を子供扱いする鬱陶しい檻』にしか見えなかった。


パァンッ!!


「なっ……!? 俺の魔法が……」

「すっこんでてほしいっす、大人たち」


私が軽く腕を振るっただけで、師匠の全力の水魔法が、あっけなくガラスのように砕け散った。

 《叛逆の愚者》は、上位者からの「守ってやる」という一方的な庇護(加護)すらも、完全な抑圧として拒絶する。

 驚愕に目を見開く師匠たちを、私は氷のように冷たい視線で振り返った。


『上位者(理不尽な強者)への反逆を確認。対象者【ルカ】の全ステータスに超絶補正ブーストを付与します』

弱者トウヤの守護を確認。味方パーティ全員に劇的な強化効果を付与します』


「っ……!? な、なんだこのバカげた魔力量は……! ルカ、お前一体……」

「……ルカ様、これはあなたが……」

「えっ、嘘……!? なにこれ、体が羽みたいに軽い……!」


背後で、師匠やツカサさんたちが、自分たちの体に漲る異常な力に息を呑む気配がした。

 アイリさんが「これなら私も戦える」と前に出ようとするのを、私は鋭い声で制止した。


「一歩も動かないでほしいっす。アイリさんも、ツカサさんも、師匠も」

「ルカちゃん……?」

「手出し無用っす。私の獲物に触ったら……身内でも、容赦なくぶっ飛ばすっすからね」


凄まじい殺気を込めて睨みつけると、百戦錬磨の大人三人が、ビクッと肩を震わせて押し黙った。


「あんたたちは、そこで見てるっす。……その有り余った無駄なバフで、背後のトウヤ君に指一本触れさせないっていう『大人の仕事』だけ、きっちりこなしてればいいっすよ」


私が冷たく言い放つと、師匠たちは尋常じゃない私の力と怒りの重さを理解したのか、それ以上は何も言わずにトウヤ君を庇うように陣形を組んだ。


もう、背後を気にする必要はない。

 私は完全に無防備な姿で、チート同盟が放つ極大の業火へと向き直った。

 迫り来る、視界を埋め尽くすほどの死の炎。



(……ウザいっす)


フッ、と。

 まるで、誕生日のケーキのろうそくを吹き消すように。

 大気を焼き焦がす業火が、私に触れる数センチ手前で、音もなく『霧散』した。


『……は?』

『あ……? え……?』


熱波すら届かない。ただの生ぬるい風が、私の前髪を揺らしただけだった。

 最大の魔法を完全に掻き消されたチート同盟の刺客たちが、間抜けな声を漏らして硬直する。


「な、なんだと……!? 俺たちの特級魔法が……何をした、あのチビ!?」


彼らの顔に、初めて『困惑』と『恐怖』が浮かんだ。


「……弱いものいじめして、見下して。自分たちが『強者うえ』だと勘違いしてるクソ野郎ども」


私は、ただ真っ直ぐに右腕を引き絞った。

 腰を落とし、地面を蹴る。

 ただそれだけの動作で――ドゴォォォォンッ!! と、私の足元の地面がクレーターのように爆散した。


「え――」


相手が瞬きをするより早く。

 私は、さっきまで一番偉そうに杖を振っていた男の、文字通り『目の前』に立っていた。


「私の初恋を弄んだ慰謝料。きっちり、払ってもらうっすよ」

「ひ、ぎっ――」


男が悲鳴を上げる間も与えない。

 私は、ありったけの怒りを込めて、その顔面に渾身の右ストレートを叩き込んだ。


男が、私のただの右ストレート一発で森の奥まで吹き飛び、土煙と共に沈黙した。

 静まり返る戦場。

 残されたチート同盟の連中は、目の前で起きた現実を理解できずに硬直していた。


「……あ、あ……?」

「一撃で……? あいつは物理無効のチート持ちだったはずだぞ!?」

「ひ、ひるむな! 概念で殺す! 俺のチートを見せてやる!」


パニックに陥った彼らが、半狂乱になりながら次々と『本物の理不尽チート』を発動させる。


『ひれ伏せゴミ女! 【認識改変:絶対隷属の瞳】!!』


前に出た男の瞳が、不気味な紫色に発光する。

 視線を合わせた対象の脳髄に直接干渉し、自我を書き換えて強制的に奴隷にする極悪な精神支配スキル。男と目が合った瞬間、私の頭の中に『服従しろ』という強烈なノイズが響き渡った。


「ルカ様! 目を閉じてください、精神汚染です!」

「無駄だ! もう俺と目が合った! 自害しろ!」


背後でツカサさんが鋭く警告する中、男は下劣に笑いながら私に死を命じた。


……でも。


(なんか、頭の中がチクチクしてウザいっすね)


『権威、威圧、支配、その他あらゆる強制・抑圧効果に対する絶対的な抵抗』。

 【叛逆の愚者】がもたらすこの力の前では、私の心を縛ろうとする認識改変など、ただの耳障りな羽虫の羽音と同じだ。


「……ッ!? な、なんで……!? 俺の『絶対隷属』は必中のチートだぞ!?」

「他人の心にスキルの力で土足で踏み込んで、支配した気になってるんじゃないっすよ」


私は無造作に歩み寄り、パニックで後ずさる男の顔面を鷲掴みにした。


「ひ、ぎッ――」

「まずは、トウヤ君の心を縛って泣かせた分っす!」


そのまま、男の顔面を思い切り地面へと叩きつける。

 ドゴォォォンッ! と地盤が砕け散り、認識改変のチート持ちは白目を剥いて一撃で沈黙した。


「ば、馬鹿な……精神支配が効かないだと!?」

「退け! 俺が消し飛ばす! 【神代魔法ミスティック空間圧縮ディメンション・プレス】!!」


次に躍り出た男が、膨大な魔力を込めた杖を振り下ろす。

 先ほどの炎とは次元が違う。ツカサさんが扱うような、失われた古代魔法クラスの神業。

 私の周囲の『空間』そのものがミシミシと悲鳴を上げ、見えない巨大な万力で四方から圧縮され始めた。物理的な防御力がいくら高くても、空間ごと押し潰されれば肉体はミンチになる。


「空間そのものを削り取る魔法……! まずい、ルカ様!!」


さすがのツカサさんも顔色を変えた。だが、私は逃げない。

 私の体を押し潰そうとする『空間の歪み』に向かって、ただ真っ直ぐに右手を突き入れた。


「空間ごと潰す? ……ただの『暴力』っすよね、それ」


私は、自分を包み込もうとする見えない空間の壁を両手でガシッと掴み――。


「う、おおおおおおおッ!!」


ありったけの怒りに任せて、メリメリメリッ! と力ずくで『空間』をこじ開けた。


「は……? え……?」

「空間魔法を……物理で、引き裂いた……?」


神代魔法を放った男も、背後で見ているツカサさんでさえも、信じられないものを見るように呆然と呟いた。

 パリンッ! と、ひび割れたガラスのように空間圧縮の魔法が完全に粉砕される。


「これは、トウヤ君を何度も何度も謝らせた分!」

「ぎゃああっ!」


私は一瞬で間合いを詰め、神代魔法使いの腹に強烈な回し蹴りを叩き込む。その体は弾丸のように弾き飛ばされ、森の木々を薙ぎ倒して気を失った。


「ば、バカな……俺たちはチートを与えられた選ばれし者なんだぞ……!」

「なら、これでどうだ! 【対象ステータス全没収】!!」


別の男が、システムそのものに干渉するような権威のチートを発動させる。対象の能力値を強制的にゼロにする、絶対に逆らえないルール。


『ERROR:対象者【ルカ】へのステータス干渉を拒絶。【叛逆の愚者】により、すべての権威的抑圧を無効化します』


無機質なシステム音が響き、男の放ったチートは私に触れることすらなく霧散した。


「笑わせないでほしいっすね」


私は、腰を抜かして這いつくばる男の胸ぐらを片手で掴み、軽々と宙に持ち上げた。


「自分より弱いトウヤ君の家族を人質にとって、安全圏からヘラヘラ笑って見下してたお前らが、借り物の力で『理不尽』を語るんすか?」

「ひ、ひぃぃ……! た、助け――」

「そう言ったトウヤ君に、どうして手を差し伸べなかったんすか?」


そのまま、容赦なく地面に向かって叩きつける。

 グシャァッ! という音と共に、権威のチート持ちもあっけなく意識を刈り取られた。


「そんで、これは……!」


私の頭を撫でて、私を子供扱いして、私を一人前の仲間として信じてくれなかった師匠への怒り。


「師匠たちと、間抜けだった自分の分、お前らで八つ当たりしてやるっすぅぅぅッ!!」


怒髪天を衝く勢いで、私は残りの連中めがけて突っ込んだ。

 右へ、左へ。圧倒的な速度で戦場を駆け抜け、本物のチート野郎たちを文字通り素手で蹂躙していく。

 神のような力も、古代の魔法も、精神支配も、私の【叛逆】の前ではただの紙切れだ。

 私はただ歩き、腕を振り、足を上げるだけでいい。それだけで、自分たちを世界の支配者だと勘違いしていた連中が、悲鳴を上げながらボロ屑のように空を舞っていく。


「…………ふぅ」


やがて、完全な静寂が降りてきた。

 つい数分前まで、私たちを焼き殺そうと意気揚々と家を包囲していたチート同盟は、一人残らず地面に転がり、呻き声を上げるか気絶し、そのまま全員転移で去っていった。

 土煙と血の匂いが漂う中、私は服についた砂埃を払い、ゆっくりと息を吐き出した。


「ルカ、ちゃん……?」


背後から、震える声が聞こえた。

 振り返ると、トウヤ君が、信じられないものを見るような目で私を見つめていた。

 そしてその後ろでは、私のスキルによって強烈な強化バフをかけられた状態でポツンと取り残された師匠、ツカサさん、アイリさんの三人が、ただ呆然と立ち尽くしている。


私を守ってくれる存在だった大人たち。

 彼らの庇護なんてなくても、私は一人で、この理不尽を叩き潰せる。

 それを圧倒的な暴力で証明し終わった私は、ズタボロになったチート同盟の残骸の真ん中で、彼らに向けて冷たく言い放った。


「……私の力、どうだったっすか」

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