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第二十二話


「――待ってください師匠! 軍資金を集めるのは賛成っすけど、ターゲットは『純度100%の悪者』だけにする! これも絶対条件っすからね!」


自由都市の入り組んだ路地裏を歩きながら、ルカが俺の背中に向かってビシッと指を突きつけた。


「カツアゲする相手のモラルまで気にするのか。お前、本当にここがスラム街だって分かってるか?」

「分かってるっす! でも、ただのチンピラや、貧しくて仕方なくスリをやってるような人から巻き上げるのは寝覚めが悪いじゃないすか。狙うなら、極悪非道なマフィアとか、人身売買をしてるようなゲス野郎限定っす!」


ふんす、と鼻息を荒くして倫理観コンプライアンスを主張するルカ。

 不殺の誓いに続き、強盗のターゲットまで厳しく制限してくるその徹底したワガママっぷりに、俺は思わずため息をついた。


「……ツカサ。お前の『右目』とプロファイリング能力で、その条件に合う都合のいいカモは見つかるか?」

「愚問ですね、ご主人様。ルカ様のリクエストとあらば、この街のゴミ山の中からでも最高級の汚物ターゲットを抽出してみせますとも」


ツカサは眼帯の上から右目に触れ、ニヤリと唇を舐めた。


「前方、通りを二つ越えた先の廃倉庫。違法な薬物と奴隷の売買を行っている中規模のギャング組織が、ちょうど今、大口の取引マネーロンダリングを終えて現金を溜め込んでいます。護衛は十五名。全員、指名手配級の紛れもない『純度100%の悪党』です」

「よし。それなら文句ないな、ルカ」

「はいっ! 悪党の資金を没収して社会の役に立てる、完璧な正義の執行っすね!」


目を輝かせるルカを横目に、俺は廃倉庫へと向けて足を動かした。


* * *


「なっ……なんだテメェら!? どこから入り込みやがった!!」


廃倉庫の扉を蹴り開けて現れた俺たちを見て、ギャングの男たちが慌てて武器を構える。

 机の上には、取引で得たであろう大量の金貨と札束の山。


「悪いが、少し金が必要でな。全額寄付してもらうぞ」

「ふざけんなガキ! 蜂の巣にして――」


男たちが引き金を引こうとした、その瞬間。

 俺は【生活魔法】を起動し、男たちが立っている足元の地面一帯に『水』を発生させ、即座に温度を急激に奪い取った。


「「「うおっ!?」」」


男たちのブーツの靴底が、一瞬にして地面と凍りつき、完全に固定される。

 突然足を縫い止められて体勢を崩した十五人の隙を見逃さず、俺は床を蹴って一気に距離を詰めた。


「がッ!?」

「ぐはッ……!」


気管も、死にかねない急所も狙わない。

 ただ正確に、迷いなく。顎の先端や首筋の頸動脈といった、意識を刈り取るためのスイッチだけを掌底で打ち抜いてみる。


――ゴパッ!!


「あべっ!?」

 一人の顎を完璧に捉えた。よし、これで脳震盪を起こしてスマートに気絶……しなかった。

 白目を剥きかけた男が、ブルブルと頭を振ってすぐに凄んでくる。やはり簡単にはいかないらしい。


「て、てめぇ……ッ!」

「くそっ、気絶しろ!」

「ぐえっ! ぼふっ! がはッ!」


足を凍らせて地面に固定しているせいで、殴っても倒れてくれないのだ。サンドバッグ状態の男の顔面を、気絶するまで何度も殴りつける羽目になる。

 さらに残りの十四人が、足を固定されたままヤケクソでナイフや銃を振り回してくる。俺は弾道を超視覚で見切りながら、水糸で銃弾を逸らし、ひたすら顔面と腹に泥臭いラッシュを叩き込み続けた。


……数分後。


結局全員の顔面をボコボコに殴ることになったが、十五人の極悪ギャングたちは、誰一人として命を落とすことなく、顔を無残に腫れ上がらせて戦意を喪失していた。


「まあ、意外とうまくやれるもんだな……うまく……やれたよな?」


俺が荒い息を吐き、拳を見つめながらつぶやくと、万が一に備えて倉庫の入り口で待機していたルカとツカサが、絶対防御に包まれながらウキウキとした足取りで入ってきた。

「お疲れ様っす、師匠! さすがの制圧スピード! そして見事な不殺っす!」

「素晴らしい業務効率(タスク処理)です、ご主人様。さあルカ様、コンプライアンス遵守の合法的資金調達カツアゲのお時間ですよ」

「ヒャッハー! 悪党の貯金箱は没収っすー!」


ルカは持参した麻袋を広げ、机の上の金貨や札束を、ツカサと二人で満面の笑みを浮かべながら次々と放り込んでいく。

 俺のことを悪党扱いしてやたらと縛ってきたわけだが、一番の悪党はルカなんじゃないかというくらいの悪い笑みだ。


だが、そんな微笑ましい(?)略奪劇の裏で。

 倉庫の隅で息を潜めていたアイリは、気絶した男たちの間で小さく肩で息をする俺の姿を、痛ましそうに見つめていた。


(……やっぱり、無理してる)


一撃で命を奪うことと、相手を行動不能にするだけの「手加減」とでは、必要とされる集中力も体力も段違いだ。

 ナオキの額には、薄っすらと疲労の汗が滲んでいた。


(ナオキに、これ以上手枷足枷をはめさせたくない。……早く、アイテムを手に入れて、私がナオキの重荷を減らさなきゃ)


アイリは自分の魅了スキルを少しでも抑え込めないかと、ギュッとドレスの裾を握りしめた。


「ご主人様、これでオークションの参加資金は十分に確保できました。ついでに、あの気絶しているボスの懐から、オークションの『VIP招待状』も回収完了です」


ツカサが麻袋の口を縛りながら、悪魔のように微笑んだ。


「いよいよ黒犬商会の地下オークションへ乗り込みましょうか。ターゲットは、国宝級の魔道具『幻影の指輪』です」

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