第十八話
俺の【超視覚】と【魔法のライン】は、廊下の突き当たりにある最も豪奢な両開きの扉を指し示している。領主の寝室だ。
『――ふふっ、本当に綺麗だな。外が騒がしいようだが、気にすることはない。お前のような極上の女を抱けるなんて、これ以上待てないんだ。領主になって本当に良かったよ』
『――はい、領主様……私も、嬉しいです』
扉の向こうから、ラインを伝って領主の甘ったるい声と、アイリの感情の抜け落ちた声が聞こえてきた。
ピキリ、と。
俺の頭の中で、論理的な思考を覆い尽くすほどのドス黒い殺意が再び膨れ上がる。服の擦れる音が聞こえる。奴が、俺の救世主に触れようとしている。
『ドガンッ!!』
俺は分厚いオーク材の扉を蹴り破り、領主の寝室へと踏み込んだ。
「あ? なんだよ……」
突然の轟音に、豪華な天蓋付きのベッドに腰掛けていた領主が不機嫌そうに顔を上げた。その横には、肩が露わになったドレス姿のアイリが、虚ろな目のまま座っている。
「は? お前……ギルドにいたモブじゃん。なんでここにいんの? セキュリティどうなってんだよ。……つかマジ鬱陶しいわ、とりあえず土下座しろ」
領主がだるそうに俺を睨みつけ、強烈な【洗脳】のスキルを放ってくる。
だが、俺の精神はビクともしない。俺には精神干渉を弾く耐性がある。レベル1でも通用しているようだ。
「チッ、状態異常無効かよ。だる。じゃあ普通に死ね」
領主は俺に向かって指先を向けた。
俺は一瞬早く、奴の気管のど真ん中へ【生活魔法:水出し】を発動させる。だが――『ピキィッ』という乾いた音と共に、魔法は奴の喉元で薄い光の膜に弾かれ、霧散した。即座に先ほどの対魔法使い戦のようにわずかに外部から水を流そうともしたが、こちらも弾かれる。
(……窒息させるのは無理か)
ならばと、俺は水を極細の刃にして死角から放つ。だが、それすらも「ふんっ」と鼻で笑う領主の不可視の防壁に触れ、あっけなく弾かれた。
これが、ステータスとチートスキルの絶対的な壁。
「あんま部屋汚すなよ? これからこの人形と楽しむところなんだ。……チリ一つ残さず消えろ、モブ」
領主の指先に、チート級の莫大な魔力が一点に収束していく。
部屋を吹き飛ばすような広範囲魔法ではない。アイリや家具を傷つけないための、極限まで圧縮された超高熱の『光線』だ。
俺の【超視覚】は、スローモーションのように発射のタイミングと軌道を完全に捉える。
「――シッ!」
俺はレベルアップで得た『精密な魔力操作』のすべてを注ぎ込み、瞬時に数百本もの『強靭な強度の魔法の糸』を展開した。それらをさらに強靭なワイヤーのように幾重にも束ね合わせ、己の心臓の前に巨大な『盾』として配置する。
『ズドォォォォォンッ!!』
放たれたレーザーが、束ねた糸の盾に激突した。
凄まじい熱量と衝撃。束ねた糸が蒸発し、そらしきれなかった熱線が俺の左胸の肉を浅く、しかし確実に焼き焦がす。
「が、はっ……!」
心臓を貫通することこそ免れたが、殺人的な運動エネルギーを殺しきれず、俺の身体は廊下まで大きく吹き飛ばされ、激しく床を転がった。後方は屋根も含め半壊している。
「ははっ、マジ? 今のレーザー食らって生きてるとか、モブのくせに耐久だけは一丁前じゃん」
焦げた匂いと激痛に顔を歪める俺を見下ろし、部屋の中から若き最強転生者が余裕の笑みを浮かべる。
「でもさ、無駄な抵抗すんなって。これ以上部屋壊れたらダルいし。大人しくしてれば、次は痛みも感じない速さで楽にしてやっからさ」
領主の指先に、先ほどよりもさらに高出力のレーザーが収束し始める。
「……や、やめてくれえええ」
「あ?今更命乞いか?さっさと死ねや」
俺は血まみれの口元を歪め、冷たく笑った。
俺が先ほど展開した『束ねた糸』。
あれはただの強固なワイヤーの盾ではない。もっとゴムのように弾力性を持たせたものだ。レーザーの直撃を受けた瞬間、俺はあえて糸の『中心』だけを後方へ大きくたわませ、両端のアンカーを部屋の壁や天井にしっかりと固定していた。
「ワイヤー」かつ「ゴム」
レベルアップした魔力操作が、その張力を極限まで高め、強靭な『スリングショット』に変えていたのだ。
奴が放ったレーザーの巨大な魔力と運動エネルギーは、熱となって消えたわけではない。やや上方向へ軌道をずらしながら、ゴムのように伸び切った『糸の束』の最深部に、たっぷりと蓄積されている。
極限まで引き絞られた巨大なパチンコの『受け皿』には――領主のレーザーの魔力に、俺の魔力を練り合わせて生成した、『超高密度の小さな塊』が、発射の時を待っていた。
「な、なんだ……!?警戒スキルが反応?高密度の魔力反応の計測……!」
領主がようやく、そこに装填された異常な質量の弾丸に気づいた。
「遅い」
俺がアンカーを解除した瞬間。
限界まで引き伸ばされていた数百本の糸の束が、強烈な反発力と共に『パァンッ!!』と恐ろしい勢いで収縮し――レーザーの運動エネルギーをまるごと乗せた高密度魔力弾が、領主目掛けて射出された。
「え、は――ッ!?」
『ドゴォォォォォォォンッ!!!』
自らが放ったレーザーのエネルギーと、圧倒的な質量を乗せた物理的直撃を受け、領主の身体はベッドから大きく吹き飛ばされ、部屋を破って外へ飛んで行った。
すぐさまベッドに取り残されたアイリに近づき、一気に俺の胸の中へと引き寄せた。
「きゃっ……!?」
「捕まえたぞ、アイリ」
「は、離せよ! 私は領主様の――」
腕の中に収まった少女の体温を感じる。今は言葉よりもアイリにもらった温度だけを信じる。
俺は暴れるアイリの身体を、やわらかくも強い糸で強引に拘束し、胸に抱え込んだまま、焼け焦げた廊下を蹴って階段へと駆け下りた。
俺の【超視覚】は、吹き飛ばしたはずの空の彼方から、こちらへ向かって収束しつつある『空間の歪み(魔力反応)』を捉えていた。
(……テレポートしようとしてるのか。一瞬で戻ってくる気だ)
踊り場。そこにはまだ、先ほどの血溜まりの中で、ルカが一人用のサイズにまで縮小した【絶対防御】の結界に引きこもり、衛兵たちに囲まれながらガタガタと震えていた。それを生活魔法だけで即座に一掃する。
「ルカ! 結界を開けろ!!」
「ひっ……! い、いやだ、私はもう……!」
「俺はいい! アイリだけでも中に入れろ!!」
俺の怒鳴り声に、ルカがビクッと肩を震わせる。
結界越しに目が合った。ルカの瞳に、俺の腕の中で「領主様のところへ戻る!」と虚ろな目で暴れるアイリの姿が映る。
「……っ!」
ルカが歯を食いしばり、一瞬だけ結界のサイズを広げた。
俺はその隙を逃さず、アイリの身体を結界の内側へと力一杯放り込む。
『『『【警告】
外部からの精神干渉スキルを検知。
【絶対防御】により、対象【アイリ】への干渉を完全に遮断しました。』』』
ルカの脳内にシステムアナウンスが響いた瞬間。
結界の中で床に倒れ込んだアイリの瞳から、虚ろな泥のような濁りがスッと消え去り、確かな理性の光が戻った。
「あ、あれ……? わたし……っ!?」
アイリは、顔から一気に血の気を引かせた。
「うそ……っ。私、ナオキにあんな酷いこと……! 違うの、あんなの私の本心じゃない! 私、なんてことを……っ!」
俺は何も告げることができず、アイリに背を向けた。
俺の目の前の空間がグニャリと歪み、全身ずぶ濡れの領主が、鬼のような形相でテレポートしてきたからだ。
「よくも……よくも俺を泥水に落としてくれたなァァァッ!!」
領主の全身から、先ほどとは比べ物にならない、災害クラスのド黒い魔力が噴き上がる。もう部屋を壊さないための手加減などない。館ごと俺を塵にする気だ。
先ほどの攻撃も、吹っ飛ばした先で泥水に落とせたようだが無傷だ。
それでも、俺の口元は冷たく歪んでいた。
『ツカサ。聞こえるか』
『はいっ! ご主人様の視覚、私の右目にハッキリと映っております!』
眼球の毛細血管に繋がれた『魔法のライン』越しに、外で待機しているツカサの興奮した声が脳内に響く。
『アイリは無敵の結界に入った。もう遠慮はいらない。俺の視界の中央、領主の『心臓の座標』に直接、一番高火力の魔法をぶち込め』
俺の指示に、ツカサが一瞬だけ息を呑む。
『……っ! お言葉ですがご主人様、そんな至近距離で私の最大火力を発生させれば、結界の外にいるご主人様まで巻き込まれて――』
『俺ならすぐにルカの結界に逃げ込む。問題ない、やれ』
俺は一切の感情を交えず、即座に【嘘】を吐いた。
ルカの結界は、もう俺を受け入れない。だが、ツカサにためらわせる訳にはいかなかった。俺の低ポイント魔法では内側からの攻撃を弾かれても、ツカサの圧倒的な魔力を伴う【古代魔法】なら、奴の魔法耐性を強引に貫通できるかもしれない。
『……承知いたしました! ご主人様の決断、信じます!!』
俺の【超視覚】を通じて、館の外にいるツカサの莫大な魔力が、目の前の領主の『体内(心臓)』へと直接フォーカスされるのを感じる。
「底辺の雑魚モブがああああっ!!死ねえええええっ!!」
領主が叫びながら極大の魔法を放とうと両手を突き出した、その瞬間、ツカサの最大級魔法の詠唱が聞こえた。
『――【古代魔法:崩星】』
「は――」
領主の言葉が途切れた。
領主の分厚い魔法耐性のパッシブスキルが、ガラスが割れるような甲高い音を立てて粉々に砕け散るのがわかる。
ツカサの放った圧倒的な古代魔法のエネルギーが、外側からではなく、領主の『心臓のド真ん中』に直接発生させられたのだ。
「ごぶぉぉぉぉぉぉぉッ!?」
領主が目玉を飛び出させ、口から大量の鮮血を噴き出した。
体内で暴走する古代魔法のエネルギーに耐えきれず、奴の身体を内側から食い破るようにして、真っ黒な魔力の爆発が放射状に炸裂する。
『ドガァァァァァァァァァンッッ!!!』
至近距離での大爆発。
領主の悲鳴は爆音にかき消され、踊り場の床と分厚い外壁が、まるで紙くずのように一瞬で吹き飛んだ。
「ぐ、うぉぉぉっ……!!」
俺は後ろを向き両腕を顔の前に交差し、全身を襲う凄まじい爆風と熱波に歯を食いしばった。
背後からは規格外の古代魔法のエネルギーが荒れ狂い、目の前にはルカが俺を締め出した『絶対防御』の見えない壁がそびえ立っている。
行き場を失った爆風の圧力が、結界と俺の間に挟まり、俺の身体をサンドバッグのように容赦なく押し潰し、焼き焦がしていく。
俺は即座に数千本の強度な魔法の水糸を展開し、背後の爆風と、目の前の結界の壁の両方にクッションのように張り巡らせ、ギリギリのところで圧死を免れていた。
だが、その極限状態の中、結界の内側で絶望的なシステムアナウンスが響き渡った。
『『『【警告】
ユニークスキル【絶対防御】の外部表面に、維持限界を超える膨大な魔力負荷を確認。
結界崩壊まで、残り30秒。』』』
「……えっ?」
結界の中でへたり込んでいたルカが、信じられないものを見るように目を見開いた。
ツカサの古代魔法の威力が、ルカの絶対防御の許容上限を超えようとしているのだ。
「うそ……嘘でしょ!? やだ、死にたくない! このままだとバリアが割れる! ふざけんな、なんでこんな……!!」
パニックを起こし、頭を抱えて叫び出すルカ。
その悲痛な声は、壁越しに俺の耳にも届いていた。
(……チッ。ずっと展開していたしな、ツカサの最大火力は防ぎきれないか)
俺の頭は、全身の激痛の中でも氷のように冷え切っていた。
このままでは、結界が割れて中のルカとアイリが死ぬ。
俺は躊躇なく、目の前の結界の壁に張り巡らせていた防御用の『水の糸』をすべて解除した。
そして、それら数千本の糸をすべてルカの結界に回し、迫り来る爆風からルカの結界全体を覆い隠すように、【巨大な水糸の繭】へと再構築した。
「が、あァァァッ……!!」
結界側の防御を捨てたことで、緩衝材がなくなり俺自身の肉体にダイレクトに圧力がかかる。骨が軋み、筋肉が断裂しそうになり、皮膚が焼け焦げる。
「し、師匠……!? 何やって……そんなことしたら、あんたが潰れて……!」
俺の狂ったような自己犠牲に気づき、ルカが結界の中から蒼白な顔で叫ぶ。
俺は大量の血を流しながら、顔の前で組んでいた腕の隙間から結界越しに彼女へと笑いかけた。
「……心配するな、ルカ。言ったろ。お前が命まで張る必要はないってな。俺が責任もって必ず守る」
「っ……!!」
ルカの瞳孔が限界まで見開かれた。
自分をバリアから締め出した身勝手な人間のために、血まみれになりながら、文句一つ言わずにその背中で業火を受け止めている。
ルカにとって、それは何よりも恐ろしい光景だった。
自分のせいで、他人の感情が動くこと。自分のせいで、誰かが怪我をして、死んでしまうこと。
責任を負うのが怖くて、それが嫌で嫌でたまらなくて、誰にも干渉しない『絶対防御の箱』に引きこもる道を選んだのに。
「ふざけんな……ふざけんな!! 頼んでないっすよ!!」
ルカは結界の壁をバンバンと叩きながら、ボロボロと涙をこぼして叫んだ。
「なんで私なんかのために命懸けてんすか! 私のせいで死なないでよ! そんなの……私のプレイスタイルじゃない! 気持ち悪いっすよ!!私はこういうことになりたくなかったから!!この防御を選んだのに!!誰にも関わりたくないのに!!私に干渉してこないでよ!!」
「違うよ、ルカちゃん!!」
泣き叫ぶルカの肩を、アイリが強く掴んだ。
正気を取り戻したアイリの瞳には、洗脳されていた時には見られなかった、ルカを見つめる強い光が宿っていた。
「あの人は……、ルカちゃんに責任を負わせるために血を流してるんじゃない。自分を犠牲にして、ルカちゃんを縛り付けようとしてるわけじゃないの!それはもうやめたはずだから!」
「……えっ?」
「私にも分かるよ。誰かの想いや命を背負うのは、すごく怖いよね。自分のせいで誰かが傷つくくらいなら、最初から一人で、誰にも干渉されない箱の中にいた方がずっと楽だもん。それは私が、誰よりも知ってる」
アイリの言葉は、かつてアイドルとして頂点に至り、その期待すべてを背負っていた彼女自身に裏付けされたものだった。だからこそ、その声には一切の詭弁がない、圧倒的な熱と優しさ、そして人の芯に響く想いがこもっていた。
「でもね、ルカちゃん。あの人はすごく優しくて不器用だから。あんな風に自分の身を削って、強引に守り抜くことでしか『お前を愛している』って伝えられないの! あの人は、ルカちゃんを愛してるんだよ。ルカちゃんを絶対に、心から守りたいから……あんな無茶をしてるんだよ!」
「あ、愛してるって……まだ、出会ったばかりなのに……?」
「そうだよ! あなたは愛されてる! それに、誰とも関わりたくないなんて嘘! ルカちゃんは今、あの人が死んじゃうのが嫌で、こんなにボロボロ泣いてるじゃない!」
アイリは、ルカの震える両手をギュッと包み込み、炎の向こう側で血を吐きながら立ち続ける男の背中を指差した。
ルカは、ナオキの目を見た。
業火に焼かれているはずなのに。自分のせいで苦しい思いをしているのに。表情はひどく強がっていそうなのに――その眼だけは、どうしようもないほどに、優しかった。
(……そうか)
ルカの中で、ずっと張り詰めていた何かが静かに解けていく。
自分は人に影響を与えるのが怖かったんじゃない。人に干渉して、上辺だけで好かれたり嫌われたりするのが嫌だったのだ。本当は自分を見てもらえず、誰にも愛されないのが、ずっと怖かったのだ。
「ルカちゃん。ルカちゃんが背負いきれない分は、私が一緒に背負うから! だからお願い……!」
アイリは、泣き崩れるルカを真っ直ぐに見つめて、叫んだ。
「――あの人が愛しているルカちゃんのその綺麗な『心』を、閉ざさないであげて!!」
「……っ、あぁ、もう……!!わかったっすよ!」
ルカがぐしゃぐしゃの顔で叫んだ、その瞬間。
『『『【条件達成】
対象者『ルカ』の精神的成長と、一定時間の魔力行使により、【絶対防御】のレベルがアップしました。』』』
ルカの脳内に無機質なシステムアナウンスが響き渡る。
それと同時に、彼女の中で魔力のようなものが、これまでの比ではない圧倒的な密度となってドクドクと湧き上がってくるのを感じた。
同時に、自分の胸の奥で早鐘のように鳴り響く心音が、かつてないほど高鳴っていることにも気づく。
炎越しに見つめてくる、血まみれで、不器用で、底抜けに優しいナオキの目。
ルカは、ようやく気づいてしまった。
無条件に『愛されること』の絶対的な安心感と、愛してくれた人に『何かを返したい』と強く願う、焦がれるような熱い想いに。
人と繋がり、誰かに干渉されること。自分のせいで誰かが泣いたり、傷ついたり、怒ったりすること。
あれほど嫌がって、恐れて、一人用の箱に引きこもってまで遠ざけようとしていた『他者との繋がり(影響)』が――今の彼女にとってはひどく温かく、空っぽだった心を満たしてくれている。
もう、自分だけを守るための狭い箱なんていらない。
私は、私の大切な人たちを全員守る『盾』になる。
「前衛の仕事、勝手に奪ってんじゃねーっすよ、クソ師匠ォォォッ!!」
ルカの叫びと共に、一人用に縮小されていた【絶対防御】の光の球体が、眩い閃光を放ちながら一気に前部へと拡張された。
レベルアップにより進化した結界は、先ほどまでの強度とは比べ物にならないほどの分厚さと、何者にも不可侵の『絶対性』を帯びている。
「……っ!」
限界を迎えていた俺の身体が、結界の内側へと強引に引きずり込まれた。
直後、ルカはありったけの魔力を込めて結界の強度を上げ、俺の背後で荒れ狂っていた崩星の残滓を、文字通り『絶対の防御』で完全に弾き返した。
『ギィィィィィィィンッッ!!!』
空間そのものを削り取るような古代魔法の破壊エネルギーが光の壁に激突し、不毛な火花を散らして消滅していく。
どれほど理不尽な火力が外で吹き荒れようと、進化したルカの結界の中には、熱も、衝撃も、一切届かなかった。
「……はぁ、はぁっ……」
数秒後、すべてを破壊し尽くした魔力の嵐がようやく静まり返る。
俺は限界を超えた身体を支えきれず、結界の中でドサリと膝をついた。
「……っ!」
「師匠……!!」
結界を解除したルカが、血まみれの俺の元へ弾かれたように駆け寄ってくる。
「うわああぁぁん……! 師匠のバカ、バカぁ……! 私のせいで死んだら、マジで許さなかったんすからね……!」
「……すまん。だが、絶対守るって言ったろ。約束は守ったぞ」
俺が掠れた声で強がり、血に濡れた手で頭をポンと撫でると、ルカはさらに顔をくしゃくしゃにして泣き叫んだ。




