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崩壊機械と楽園都市  作者: ラストジェネレーション


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第六話 束の間の安寧

 私達はダイバーを後にした。安城小鳥の持つわずかな現金を頼りに、無人運転のタクシーに乗って市街地へ移動したのだ。楽園都市の夕暮れの景色は美しい。


 レインボーブリッジを渡る時、小鳥はタクシーの窓から身を乗り出した。自分が今まで働いてきた街の方を向いて涙を流している。今生の別れになる事を、自覚したからかもしれない。


 郷愁の思いを抱えて、彼女はスゥッと深呼吸をし振り向いた。もう泣いていない、決意を固めたのだろう。自分はこれから人殺しのロボットとして生きていく。前のような生活には戻れない。


「安心して、私がついているから」


 上手い励ましの言葉は、出てこなかった。自分も不安でたまらないからだ。


「ところで、目的地はどこなのでしょうか?」


 小鳥の呼びかけに、私は答えた。


「麻布十番にある、桜コーヒーって名前の喫茶店。ダイバーでお世話になった男の人から、住所付きの招待状を受け取ったんだ」


「....。その人は信頼に足る人物ですか?」


「うん、大丈夫だと思う..。今日初めて会って話したばかりだけど、妙に落ち着くっていうか....。とにかく、悪い人ではないと思うよ。名前は確か、敷島太陽」


「そうですか..。貴方が言うなら、きっと良い人なんでしょうね」


「うん....」


 タクシーに揺られ、今日はずっと気を張り詰めていたのもあり、私はすぐに寝落ちしてしまった。



「山吹さん山吹さん! 到着しましたよ!」


「え....」


 どのくらい移動したのだろうか? 夕焼けの空はすっかり暗くなっていて、車内から小鳥の顔を判別するのに時間がかかった。夜目が効いてないのだ。


「小鳥..。今立つ....。んっ....」


 彼女の膝を枕がわりに眠っていた私は、仰向けになった身体を起こそうとした。右肘から先が動かないから、利き腕じゃない左を使ったせいで手間取ってしまう。ジタバタしてると、小鳥が私の上半身を支え持ち上げてくれた。


「今は無理しないで、後で直してもらいましょう!」


「そうするよ....。気遣ってくれてありがとう....」


 彼女がいなければ、私は今ここに立っていなかった。人の縁という概念はロボットにも当てはまるらしい。


「ところで、例の喫茶店は目の前の建物ですよね?」


「えぇ....」


 目的地である『桜コーヒー』は、超高層ビルが立ち並び、都市化が進んだこの街においてはまさに異色と言って良いほどの店構えをしていた。二階建ての素朴な建物、けれど懐かしさを感じ、自然と心も落ち着いた。


「いらっしゃいませー!」


 入店した私達を出迎えてくれたのは、利発そうな女性店員だった。ショートヘアかと思いきや、長い後ろ髪をゴムで束ねている。美人と言って差し支えはないが、どうにもロボットとは思えない。


「お客様、ここに来るのは初めてですか?」


 小鳥と二人で、メニュー表を睨めっこしていても、何が美味しいのかよく分からないでいた時だった。水を運びにきた先ほどの女性店員が、柔和な面持ちを崩さずに尋ねてきた。


 初対面なはずなのに、この距離感の近さはなんだろう? 私たちの隣に座った彼女はメニューのあちこちに指を差しながら、人気のものを教えてくれている。優しい。人にここまで暖かい態度で接してもらうのは初めてだった。


「じゃあ、桜コーヒー二つください....」


「畏まりました。今お持ちしますね!」


 軽快な足取りで厨房の方へ戻っていく。彼女一人でこの店を回しているのかと思ったが、さっきお手洗いの方に丸メガネをかけた男性店員を一人見つけた。


「....。なんか、落ち着く場所....」


 思わず内心を吐露するという珍しい事態に陥った私に対し、小鳥は応えた。


「そうですね。実は先程、脳内でここのクチコミを調べたのですが、星5中4.8、主に店員さんの接客態度と店内の雰囲気が高評価の要因であるそうです。百年続く老舗店らしいですよ」


「ふーん..。あいつ、こんな良い場所で働いてるんだ....」


「....。私たちも、ここで働けるかもしれませんよ? 実はさっき、タクシーの中でここの求人募集サイトを見つけたんです。住所もろもろの個人情報は全て偽装して、面接日の詳細なご連絡も、さっき頂いたばかりです」


「え..? 小鳥、いつの間にあんた、そんな事してたの..?」


 平然と語る彼女に対し驚きを隠せない私は、明らかに狼狽していた。


「お待たせしました! 桜コーヒーです!」


「....あ、ありがとうございます..」


 ズビズビっとそれを啜るも、ほとんど味を感じない。勿論不味いからではなくて、私の精神動揺が収まらないせいだ。カップを持つ手が震える自分を見て、小鳥は申し訳なさそうな顔を作った。


「もしかして山吹さん、接客とかの経験は初めてでしたか?」


「違う、根本的に間違ってる..。どうして私がこんな....、この喫茶店で道草を食わないといけないの? 私はね、今日会った例の男の子にお礼を言うためにここに来ただけであって、働く気なんて毛頭ないの!」


「そ、そうなんですか!? 正しく意図を読み取れてませんでした..。けれど、ここを出て行くアテはもうないのも事実でしょう? 人探しをするにも、手掛かりはゼロですし..」


「う....。でも、それでも私はもう、人間のために働くなんて真っ平よ....!」


「......。それは私も同じですよ。だから人間のためじゃなく、自分のために働きませんか?」


「同意しかねる。小鳥は良いよね、そう簡単に割り切ることが出来てさ....」


「ふふっ、ロボットのサガですよ。感情よりも、論理を優先してしまうんです。今後の目的達成に向けた取り組みとしてどの選択が最善であるのか? 一度冷静になって考えてみてください」


「......」


 小鳥の発言はもっともだ。私は人間への私怨に駆られ、今すべきことを正しく認識出来てなかった。同じロボットの筈なのに、どうして自分はすぐ感情的になってしまう? これではまるで人間じゃないか..。


「分かった、面接は受けるよ..」


「本当ですか? それは良かったです..。私一人では、とても心細いですから..」


「何それ? もう働く前提だなんて、小鳥は随分と自信家なんだね」


「う、うるさいですよ! とにかく、面接の時間まであと少しですから静かにしていてください! 担当者の名前と顔は把握してますが、まだここにはいないようですね」


「そーなんだ。まぁ、私たちなら別にどんな人が来ても問題ないでしょ」



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