第五話 雨中の出来事
私たちを追って来た人間は、リーダー格の男を含めて計6人ほどの集団だった。いずれも対ロボットとして有効なスタンガンと、身を守るための防護服を着ている。今は気絶しているが、目を覚ましたら厄介だ。
「残りの部下はここで殺しておこう。小鳥、やって」
「分かりました....」
小鳥の強さは、その体躯からは想像もつかない程の速度から繰り出される攻撃力に起因する。一瞬で間合いを詰めてくるから、敵は攻撃を回避する余裕もない。我ながらとんでもない逸材を味方につけたものだ。
「処分しまーー」
「ま、待ってくれ!!」
と、その時だった。背骨を砕かれ下半身の動かなくなったリーダーが、自身の部下目掛けて拳を振り下ろす小鳥を静止した。彼だって瀕死のはずなのに、どこからそんな声を出せるのだろうか?
「こ、交換条件だ! 部下を殺さないでくれたら、俺たちはこの件から手を引く!」
「ん..?」
「ど、どうだろうか..?」
「駄目に決まってるでしょ。そんな保証はどこにもないし、貴方の独断でどうにかなる問題ではないでしょ」
「ぐっ....。お、お願いだ!! 頼む!!」
「....」
大の大人が、私の足元に縋りながら必死に懇願している。彼の目的は私の廃棄処分であるはずなのに、今は部下の命を優先している。みっともないし腹が立った。私はそんなに、軽い存在だと言いたいのか?
「それでも無理なものは無理なんだ..。小鳥!」
「俺は日本政府の指示を受けて来たんだ!!」
「え....?」
「どうして一体のロボットにそこまで構うのか、俺にも全容は分からない..。けれど推測は出来る。お前の名前から、ある程度はな....」
「待って! どういう事!?」
「はぁ..。どうだい? これで、、交換条件は成立したろ.......」
「......」
「山吹さん。その人、もう死んでますよ....」
♢
ゲリラ豪雨に直撃した。アスファルトの地面の上には水溜りが出現し、私達の衣服はずぶ濡れになった。ジメジメしていて、蝉の鳴き声が四方八方から聞こえる。蒸し暑い一日のはずなのに、自分の身体は冷え切っていた。
「小鳥、私は今日初めて、人を殺した」
「......」
彼女もすぐに否定はしなかった。実行するよう命じたのは私だ。命まで奪うつもりはなかったのに、怪我の度合いが酷すぎたんだ。人間はロボットみたいに、核が残っていれば修繕可能なわけではない。
「部下は殺さないで、本当に良いのですか?」
「うん。私は元より、居場所を既に失った身の上だ。いずれ逃げ場を失い捕まるのは時間の問題。その前に、山吹愛良という人間を知るのが今を生きる目的だから....」
「私も、同意します」
「......」
自分はなんて愚かだったんだろう。山吹愛良を知る人物から、情報を聞き出す手段は他にもあった。その機会をみすみす逃すどころか、取り返しのつかない罪を犯してしまった。
「しかし最後の台詞は一体なんだ? 私を追っているのは日本政府だって、そんな馬鹿な話があるか..?」
「....。あながち間違いではないかもしれませんよ」
「小鳥、それはどういう意味?」
「あの男は、山吹愛良という人物に関して死ぬ間際に意味深な台詞を残しました。日本政府の目標には恐らく貴方の廃棄処分も入っているのでしょうが、目的は何でしょうか?」
「その点は確かに疑問に感じていた。男は以前、ASの技術開発部門に所属していたという。政府とは無縁の人間がどうして刺客として追って来たのか..。なるほど、そういう事か」
「えぇ。政府の目的は....、山吹愛良に関して何かしらの情報を持つ、疑いの掛かったものの抹殺でしょう」
「だろうね。でも、私は彼女については名前くらいしか分からない..」
「それは本当ですか?」
「どうして念を押す? 嘘偽りはないよ」
「....。なら良いんです」




